助成
マイクロ波帯FPU用SC-FDE無線伝送方式の研究 【濱住啓之】
成果報告会2025
スポーツ中継やニュースの現場で活躍する無線カメラの電波の伝え方を、より効率的かつ安定させる新しい方法「SC-FDE方式」。遠くまで映像をきれいに届けられるだけでなく、混信や電波の乱れにも強く、電波を無駄なく使えるのが特徴です。この最新の通信技術について、2025年3月7日に開催された成果報告会で、福井工業高等専門学校の濱住啓之教授に発表していただき、その内容を寄稿していただきました。
テレビ中継を支えるFPUと無線伝送技術
テレビジョン放送用可搬型番組素材無線伝送装置 (FPU : Field Pick–up Unit) は、スポーツや報道番組などの中継に必須となる重要な無線機材である。FPU が利用している周波数には、1.2 / 2.3 GHz 帯、マイクロ波 (7 – 10 GHz) 帯、ミリ波 (42 GHz) 帯があるが、マイクロ波帯 FPU は、中・長距離固定伝送からワイヤレスカメラなどの近距離伝送まで幅広く利用されているFPU である。このため、送信機の小型・低消費電力化に有利な SC (Single Carrier) 方式と、マルチパス耐性に優れ移動送信に有利な OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing) 方式の両方の標準規格化が行われ、用途に応じた使い分けがなされてきた。
SC-FDE方式による中継品質の向上と実用化への展望
本研究では、SC 方式に受信側での周波数領域等化技術を組み合わせることで、マルチパス耐性を向上できる SC-FDE (Single Carrier – Frequency Domain Equalization) 方式に注目した。SC-FDE 方式は、受信データの復号・再符号化を行って同一周波数で再送信する再生中継が構成でき、周波数を有効に利用できるという特長を持つ(図1)。

図1 同一周波数による再生中継のイメージ
このため我々は、ブースターによる同一周波数リレー中継を行う際、SC-FDE 方式は信号劣化が無い中継ができることを明らかにした[1][2]。加えて、マイクロ波帯 FPU 用 SC-FDE 方式の伝送パラメータを検討し、計算機シミュレーションにより耐非線形特性や耐フェージング特性を定量的に明らかにした。FPU の運用用途ごとに固定伝送、準移動伝送、移動伝送の3つに分類し、送信側増幅器の入力バックオフ値と受信機の所要 C/N を加算した電力値を求め、OFDM 方式と比較した結果、固定伝送の場合は SC-FDE 方式が有利となる結果が得られた。伝搬モデルとして指数関数型遅延プロファイルの一例を用いて比較を行った結果、準移動伝送の場合は OFDM 方式と SC-FDE 方式はほぼ同等となり、従来のSC方式では困難であった準移動伝送が実現できることがわかった [3][4]。さらに、ソフトウェア無線実験装置(図2)を用いて、SC-FDE方式とブースター用回り込みキャンセラの装置化の検討を行い、装置化の可能性を明らかにした[5]。

図2 ソフトウェア無線実験装置
【発表論文・報告】
[1] T. Kimura, H. Ogawa, T. Suzuki and H. Hamazumi : “Study of on Single Frequency Downlink with Coupling Loop Interference Canceller for Professional SC-FDE Wireless Camera using Millimeter-Wave wave Band”, ITE Trans. on MTA Vol.11, No.1, pp.13-25 (Jan. 2023)
[2] 鈴木智之,横井将人,小川穂高,濱住啓之,木村知彦:”高次変調を行うSC-FDE 無線伝送システムのための回り込みキャンセラの検討”, 映情学論文 Vol. 78, No. 4, pp. 499-509 (2024)
[3] 小川穂高, 箕輪侑晟, 濱住啓之, 木村知彦: “マイクロ波帯 FPU 用 SC-FDE 無線伝送方式の試行的検討”, 映情学論文, vol.78, no.6, pp.689-702, (Sep. 2024)
[4] 鉾碕 暁文, 堀 貴博, 堀川 隼世, 濱住 啓之:“マイクロ波帯FPU用SC-FDE無線伝送方式の検討-受信ダイバーシティを適用した場合の特性評価-, 映情学技報, Vol.49, No.6 BCT2025-27 (Feb. 2025)
[5] 平松 透和, 中嶋 拓真, 濱住 啓之, 木村 知彦:“ソフトウェア無線によるSC-FDE方式の装置化の検討”映情学技報, Vol.49, No.6 BCT2025-28 (Feb. 2025)
*2022年度技術開発部門助成「マイクロ波帯シングルキャリア無線伝送方式の研究」
*2023年度技術開発部門助成「マイクロ波帯FPU用回り込みキャンセラの開発と有効性の検証」

濱住啓之 プロフィール
福井工業高等専門学校電気電子工学科 教授
1982年、福井工業高等専門学校電気工学科卒。同年NHK入局。NHK津放送局を経て1987年よりNHK放送技術研究所に勤務。以来、地上ディジタル放送の送受信技術や番組素材無線伝送 など放送用高信頼ディジタル無線伝送の研究に従事。1999年、 東京工業大学より博士(工学)の学位授与。2018年より東京工業高等専門学校電気工学科教授、2023年より福井工業高等専門学校電気電子工学科教授。映像情報メディア学会フェロー。