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寄稿

ローカル局が種をまく|青森の高校生が短編映像制作に挑戦

地方のクリエーター育成実行委員会 副委員長 小山田文泰(青森放送役員待遇制作局長)

ワークショップの編集風景(小山田チーム・青森南高校)

「テレビはオワコン?」――そんな声に向き合うように、青森県内の高校生たちが、放送局のスタジオでナレーション収録や編集に挑み、作品を完成させていく。「映像のチカラ 地方のチカラ 未来へ」は、生き生きとした学びの場であると同時に、これからの地域の文化や暮らしを伝える担い手を育てる試みでもあります。この取組みを企画・実施した青森放送の小山田文泰さんに寄稿していただきました。

ドキュメンタリーを「申告敬遠」!?

「テレビドキュメンタリー」は、番組として世に放たれる意義を信じた制作者によって作られる。しかし、それには大変な労力が…と思われがちで、報道や制作で記者やディレクターをしている人たちも、「いつかはやってみたい」と思いながら、日々の業務に追われ、そして現場から離れる時がやって来る。その事を、「忙しかったから」と、自分に言い聞かせている人がほとんどではないだろうか。中には触れてみることすらせず、自ら「申告敬遠」する人も。

確かにタイパ、コスパはとてつもなく悪い。しかし、見方を変えれば、社会を俯瞰する目を養い、そこへ近づくための知識を身につけ、取材を通して信頼関係を築き、伝えたい本質を凝縮していく「体験」ともいえる。これらはどれも、その人の血となり肉となる。

「食わず嫌い」にならないように若い世代に種をまく

これまでいくつかの番組シンポジウムに参加してきた。上映された作品はどれも素晴らしいものだったし、ディスカッションを聴いてモチベーションが上がったことも事実だ。でも、もっと具体的に何かできないか…。そう思っていた時に放送文化基金のイベント事業の募集を知った。

やりたかった事は、‟若手の育成”。そこで高校生を対象にしたワークショップを開催することにした。これまで青森県高校総合文化祭の放送部門審査などで接点はあったものの、実際に何かを一緒に作る機会は無かった。デジタルネイティブである高校生たちの映像表現は、時として私たちプロをも驚かせる。なのにである。放送部で映像制作を経験した高校生が、その後地方局を志すケースは決して多くない。「忙しそう」「テレビはオワコン」という理由がほとんどだろう。忙しいことは否定しないが、本当に「オワコン」なのだろうか。

地域の情報は、誰かが取材し発信しなければ埋もれていく。“テレビ”の概念やその存在の形は、この先も変化を続けていくのは論をまたない。しかし、地方に人が暮らし続けるかぎり、その営みの中で生まれるものがあり、その土地に息づいた固有のものを文化と呼ぶならば、掬い上げる誰かは永遠に必要だろう。地域の文化を支える人たちを紹介し続けることも、その継承の一助になるはずだ。だからこそ、地元の「高校生」にこだわった。

ドキュメンタリーは消費のコンテンツではなく、積み重ねのコンテンツだと思う。その制作過程は、面白がれるととても楽しい。そのことを実感してほしいというのが、今回のイベント事業「映像のチカラ 地方のチカラ 未来へ」に託した思いだ。

「で、講師に誰を呼ぶ?」

実行委員長の森内真人(青森放送常務取締役)に「講師は誰を?」問われ、すぐに山口、長野の飲み仲間の二人の顔が浮かんだ。山口放送の佐々木聰氏とは2001年10月にスタートした日テレ系の朝の情報番組「ズームイン!!SUPER」で出会った。当時、私はラジオからテレビに異動したばかりで、佐々木氏もまだドキュメントは手掛けていなかった。若くて未熟だった私たちも、番組内の特集枠を任されるようになり、麹町での企画会議の後、飲みながら遅くまで夢を語り合った(はずだが、内容は全く覚えていない)。

山口放送 佐々木聰氏
『ふたりの桃源郷』(08年)、『笑って泣いて寄り添って』(12年)、『奥底の悲しみ』(15年)、『記憶の澱』(17年)、『いろめがね』(23年)などを制作

信越放送の手塚孝典氏とは、2009年、系列を超えたネットワークである民間放送教育協会のスペシャル番組の最終選考会で出会った(信越放送はTBS系列)。手塚氏はその場で年に1本しかない「民教協スペシャル」の放送権を獲得し、私は羨望と悔しさを抱えて会場を後にした。その思いは、2年後に放送された『第25回民教協スペシャル 母の衣に抱かれて~津軽袰月ものがたり』へとつながっていく。3年間通い続けた限界集落の日常を描いたこの作品は、私のドキュメンタリー番組の原点となっている。

信越放送 手塚孝典氏
『刻印~不都合な史実を語り継ぐ~』(14年)、『福太郎の家』(08年)、『潮凪の花園~原発の町の片隅で~』(19年)、『まぼろしのひかり~原発と故郷の山~』などを制作

30代で出会ったこの二人は、今も精力的に作品を生み出し続けている。今回、彼らに電話一本で快諾を得られたのは、長い付き合いの賜物といえる。持つべきものは友。百人力を得て、イベント事業の構想は急速に膨らんでいく。

初めてのワークショップ

動画制作のワークショップに参加してくれる高校が決まり、山口、長野、そして青森県内の3つの高校をオンラインでつないでキックオフミーティングを行った。講師も生徒も、全員が初めての試みである。

キックオフミーティングの様子

高校側からは、「ミュージックビデオやクスッと笑えるドラマなど、コンクールには出せないような作品に挑戦したい」という意欲的な声が上がった。更に3校中2校は、合同チームでの制作を希望。3人の講師(佐々木氏、手塚氏、私)がそれぞれのチームを担当し、構成や編集に少しだけアドバイスしながら、2月22日のワークショップに向けて準備を進めていった。

青森南高校での打合せ

1月、青森は記録的な豪雪に見舞われ、高校が休校になることも。それでも各チームは何とか5分以内に荒編をあげ、ワークショップ前日2月21日の、佐々木氏、手塚氏、私の3人の作品を上映してパネルディスカッションを行うフォーラムにも全員が参加し、「番組の導入はどう作るのか?」など、積極的に質問を投げかけていた。

2月21日パネルディスカッション
フォーラムには81名が参加

迎えた当日。高校生たちはいつも使っている機材を先生の車に積み込み、会場の青森放送へやって来た。それぞれのブースに分かれて荒編をみんなで観た後、作品をブラッシュアップしていく。

手塚チーム(青森中央高校&五所川原高校)
佐々木チーム(青森中央高校&五所川原高校)

実は高校生たちは放送局でのナレーション収録を楽しみにしていた。収録スタジオに入り、重い扉を閉め、吊り下げられたマイクロフォンに向かって原稿を読む経験。サブからナレーターに指示を出しCueを振る経験は、おそらく生涯忘れることはないだろう。

待望のナレーション収録

講師陣はあくまで伴走者として関わり、追撮や編集を一緒に楽しんだ。完成した3作品は、テレビスタジオに場所を移して上映会を行い、みんなで合評した。参加した高校生たちの真剣な表情、楽しそうな笑顔を見た時、やって良かった、と改めて思った。

青森放送のスタジオで上映会を開催
チームごとに作品を紹介

「映像のチカラ 地方のチカラ」は未来へ

翌週、カーラジオをつけると、フォーラムを観に来てくれた青森県在住のミュージシャンが、「テレビは“オワコン”って言われるけど、少なくともローカル局は“オワコン”じゃない!」と、パーソナリティーを務める生放送で熱っぽく語っていた。ローカル局の存在意義が、イベントを通して伝わったことが嬉しかった。

今回の事業は、地方からの映像発信の意義を若い世代に伝える試みであると同時に、地元出身者が地元局で働きたいと思ってくれればという、遠回りなリクルート活動でもある。ドキュメンタリーが積み重ねで成り立つように、次世代へバトンをつなぐためにも、地道な息の長い取り組みを続けていこうと思う。

小山田文泰(おやまだふみやす)
地方の映像クリエーター育成実行委員会 副委員長
青森放送役員待遇制作局長
青森県生まれ。金沢大学経済学部を卒業し、91年青森放送入社。ラジオ、テレビの制作現場を経て現職。主なテレビ番組に『母の心に抱かれて 津軽袰月ものがたり』(11年/民放連賞)。『しあわせ食堂 笑顔と孤独と優しさと』(16年/放送文化基金賞・最優秀 NYフェスティバル銅賞)。『命の花の咲く頃は』(20年/民放連賞)など。

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