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挨拶は「ゾス!」、体育会系ベンチャーに飛び込む若者たち|ザ・ノンフィクション

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【第33回】 ザ・ノンフィクション『今どきじゃない会社で夢みる僕と私の新入社員物語 前編』(フジテレビ・2026年3月22日放送)

「今どき、こんな会社があるのか!」と目を疑った。

「よしいいか」「よしいいか」「よしいいか」「よしいいか」「よしいいか」「2026年やってきた認識で大丈夫?」「今年こそは必ずやるぞで大丈夫?」。デスクの上に乗って、煽るように問いかけるリーダーらしき人物。周りの従業員たちも「はい!」と負けないほどの大声で返事する。いわゆるコール&レスポンス。壁には売上目標やらなにやらが貼られていて一種独特の光景がそこにあった。

「ゾス」。それが彼らの挨拶だという。空手部の「押忍」のようなものなのか。毎朝、大声で社訓を唱和し、目標を達成できなければチームリーダーからゴン詰めされ、上司の怒号が飛び交う。

どこからどうみても「ブラック企業」としか思えないのだが、そこで働く社員たちは嬉々としてやっているようにも見える。なかには大手を蹴ってここに就職したという社員もいた。彼は「兵隊になりたくなかった」と他社を蹴った理由を語る。取材者に「ここは“兵隊”じゃないんですか?」と訊かれ、「違います。ここは“戦士”です」と。

“兵隊”と“戦士”の違いがなんなのか。興味に駆られ、結局、最後まで見てしまった。

東京・池袋を拠点とする、社員40人ほどのベンチャー企業。右肩上がりの売上と高い利益率を誇り、平均年齢は27.8歳。いわば“野武士軍団”だ。

主役は対照的な2人の新入社員。1人は成績優秀のひまりさん。持ち前の明るさとガッツでテレアポを次々と成功させる。「アポ取りました~!」社内中に、元気な声が鳴り響く。

一方の伊藤くんは、電話口で担当者とうまく話すことすらできないまま、入社からまもなく4ヶ月。壁に貼られた成績表が残酷すぎる現実を突きつけた。

ドラマであれドキュメンタリーであれ、どうしても登場人物に感情移入して見てしまうのだが、今回もつい伊藤くんの身になり、胸が締め付けられるほど苦しくなった。

その伊藤くん、仕事は振るわないがプライベートは充実しているようで、同棲中の彼女の手作り弁当を嬉しそうに見せる。心のよりどころがあってよかった、と思ったのも束の間。仕事のストレスを彼女にぶつけてしまい、喧嘩。2人の関係は破局の危機に。愛情たっぷり手作り弁当が、味気ないコンビニ弁当になってしまった。

社をあげての「ゾス飲み」という飲み会も、定例会も、見るものすべて驚くべきものだった。なかでも、もっとも驚いたのは、ひまりさんが体調を崩した時に、上司が「1人平均1日休むだけで俺らの部署の粗利は500万円変わるんだよ」と言ったこと。さらに「体調不良はいらん」とも。そんなことを言われたら休もうにも休めないではないか。

気づけば、あっという間の1時間だった。見終わったあとも、しばらく脳内に「ゾス!」の声が響き渡る。あの環境で毎日働けるなんてたいしたものだ。自分なら1日と持たないだろう。

とはいえ、働いている人たちが自ら望んでやっていることなら周りがとやかく言う話ではない。見方を変えれば、こんなに活気があって、やる気が漲っている社員たちがいる会社は、どこか清々しいとも言えなくはない。

この番組を見て、働くことの意味を考えた人も多いのではないか。『ザ・ノンフィクション』は、そんなふうに硬軟取り混ぜ、知らなかった世界を見せてくれる。しかも、むき出しのリアルを。そこが面白いところで、多くのドキュメンタリーが、ドがつくほどの深夜に追いやられるなか、日曜の午後という時間帯に居場所を得ているのも、その魅力ゆえではないか、と。

ディレクターはテレビマンユニオンの鳥居稔太(2000年生まれ)。ザ・ノンフィクション『ほめる人とほめられる人~褒めますおじさん 令和の路上物語』でATP賞優秀新人賞に輝いた気鋭の作り手だ。同時代を生きる者ならではのまなざしで、“ゾス!”の熱気とそこに潜む違和感を、見事に照射している。

今回は前編。続く後編は29日に放送される。2人の新入社員たちがどこへ向かうのか、最後まで見届けたい。

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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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