助成

寄稿

大島新さんと問い直す「映像をつむぐ喜び」|九州沖縄メディア・フォーラム2026

元RKB毎日放送 神戸金史

ゲストの大島新さん

番組の終わり方はこれでいいのか。タイトルは被写体にどう届くのか。九州・沖縄の放送局で番組づくりに携わる若手制作者たちが作品を上映し、第一線のドキュメンタリストと率直に議論する「九州沖縄メディア・フォーラム」。第2回のゲストには映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』などで知られる大島新さんを迎え、演出やタイトル、取材のあり方まで踏み込んだ議論が交わされました。福岡で20年続く勉強会をもとに、放送文化基金の助成を受けて広がったこの取り組みについて、フォーラムのメンバーである神戸金史さんに寄稿していただきました。

一線のドキュメンタリストと議論する

「番組の最後は生徒の合唱で終わり、とても感動的でした。でも、少し感動的になりすぎてはいないでしょうか。何かをもっと考えさせる終わり方でもよかったのでは、とも思いました」

NHK福岡の300インチ大ビジョンに作品を映す

ドキュメンタリー監督の大島新さんがこう話した時、小柴公人記者(TVQ九州放送)は一瞬考え込んだように見えました。

小柴さんが制作したニュース企画は、不登校の子供を積極的に受け入れてきた公立高校にカメラを入れ、閉校が迫る日々を追いかけたものでした。大島さんは「とにかく、モザイクが少ないことはすばらしい。今、東京のテレビはモザイクだらけで、ひどいことになっているのです」と話しました。元不登校の高校生もまじる校内の撮影許可をどうやって取ったのか、小柴記者は学校とのやり取りを率直に話しました。

大島さんは1969年神奈川県生まれ。フジテレビを99年に辞めてフリーとなり、『情熱大陸』やフジテレビ『ザ・ノンフィクション』などで多くの番組を制作しています。映画監督としても、『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020年)、『香川1区』(22年)などの話題作を制作してきました。

フォーラム開催当日の朝刊にも大島新さんの名前が

福岡発のイベントを九州沖縄に広げて

「九州沖縄メディア・フォーラム2026」は、2月14日(土)~15日(日)、NHK福岡放送局を会場として開催され、九州・沖縄のNHKや民放各局で番組作りに携わる若手制作者や、ジャーナリズムに関心を持つ大学生など、2日間で延べ113人が参加しました(オンライン含む)。

会場の300インチ大画面に自分が紡いだ映像が上映されるのを観るだけでも、小柴さんら若手の制作者は感激した面持ちでしたが、その後に第一線で活躍中のドキュメンタリストと意見交換できるのです。登壇者は顔を紅潮させ、取材の舞台裏を率直に語り、会場で聞いていた参加者も一緒に議論しました。

系列を超えて、作品を観て制作者から直接話を聞く――。

これは、2006年から福岡で開催してきた私たちの私的な勉強会「福岡メディア批評フォーラム」の、一貫して変わらないコンセプトです。ドキュメンタリーの制作者は、組織全体からみれば少数派ですが、他局にも素晴らしい番組を作っている仲間がいます。「社が違っても、志を同じくする仲間」と、遠慮なく心ゆくまで話し合ってみたい。福岡のフォーラムはそんな思いから始まりました。平日の業務終了後に1番組を視聴し、居酒屋に移って深夜まで議論する集まりで、今年で20年目。これまで55回開催してきました。

この福岡での取り組みを九州沖縄に広げたいと考えた私たちは、2025年1月に初めての九州沖縄版を開催しました。放送文化基金からの助成を受けて、福岡への交通費を一部補助し、ゲストも呼ぶのです。初回のゲストはノンフィクション作家の堀川惠子さん。2回目の今回は、大島新さんをお呼びしました。

オンラインでも配信
福岡メディア批評フォーラムの臼井賢一郎代表(九州朝日放送)

名作より、意欲ある問題作を

フォーラムは、順位を決めるコンテストではないので、非の打ちどころがない名作や、お金と時間をたっぷりかけた大作を上映するわけではありません。それより、「若手が作った意欲作」「意見が分かれる問題作」を選び、今後の制作の参考になる議論を展開する場です。

ミニ番組の議論

上映作品は4ジャンル。「ミニ番組」は若手が制作したニュース企画で、上映作品を系列ごとに募集し、6作品を持ち寄りました(6分以内に再編集)。3本まとめて上映した後、制作者3人が登壇。司会の山口喜久一郎アナウンサー(テレビ西日本)がまず基本的な事柄を制作者に質問し、その後で大島監督が発言する形にしました。

取材の過程も包み隠さずに説明
司会の山口喜久一郎アナウンサー(テレビ西日本)
ドキュメンタリーの熱心な視聴者から鋭い質問
若手参加者らしい率直な質問も

そのほか「30分番組」を2本、「特集番組(45分~60分)」が1本。さらに、若手の勉強のために、かつて制作された「アーカイブ番組」2本も上映しました。

刺激的な番組タイトルをめぐり議論

「30分番組」は、大分朝日放送(OAB)の新岡智昭アナウンサーが制作した『郷には、従えない。~土葬墓地と国際化~』、NHK福岡の深井香帆ディレクター『麦先生と心のラジオ』の2本を上映しました。

イスラム教徒にとって火葬は「死者をないがしろにする行為」。どうしても受け入れることができません。新岡さんはこの難しい問題に真正面から取り組み、テレメンタリー枠で全国放送しました。「間(ま)を大事に編集した」という新岡アナ。あるシーンが終わった後に「自分で『へえー、そうなんだー…』と口にしてみる実際の秒数が、咀嚼(そしゃく)するのにちょうどいい間なのでは」と説明すると、会場からは「なるほど、アナウンサーらしい視点だ」という声が漏れました。

最も議論となったのは、『郷には、従えない。』という番組タイトルでした。新岡さんが『思いついて、これしかないと思った』と説明したのに対し、大島さんは反論。「これがいけてる、と思ったのは分かる。でも、私は『これはないな』と思いました。被写体への影響を考えると、慎重さがあってもよかった」と話しました。

番組タイトルを巡り議論

組織の内側を取材する難しさ

「特別番組」は1本。言わばフォーラムの目玉です。今年は、南日本放送(MBC)が毎週放送している1時間番組『どーんと鹿児島』。4週に1回は報道部が担当し、硬めの話題も採り上げています。今回は『巨大基地の波紋 ~戦後80年 激変する安全保障~』を上映しました。沖縄から鹿児島、九州へと急激に基地化が進む現状をルポした内容で、「民放がこの内容をゴールデンで放送しているのか」と驚きの声が漏れました。

編集長をしながらも番組を制作

ニュースの編集長を務めながら、番組を制作した道山幸司記者に対して、大島さんは「取材がすごく多角的だった」と高く評価。しかし、自衛隊に入った若者を採り上げた番組終盤は「自衛隊のプロモーションのようにも見えた」と指摘しました。自衛隊側が「この人がふさわしい」と紹介してくれた若者でした。

道山さんは「平和な今の日本で、自衛隊入隊に興奮している青年がいることをそのまま出そうと考えました」と意図を説明しました。では、自分ならどうするか? 会場でともに考えてみました。

九州沖縄で進められる防衛強化を巡って

このほか、若手の勉強のために用意した「アーカイブ番組」は2本。1990年にNHKが放送した『それは産地に始まった ~牛肉自由化の衝撃~』と、RKB毎日放送の私が2020年に制作した『イントレランスの時代』を上映しました。元NHKの岩下宏之さんが取材したのは、国策に振り回され苦境にあえぐ農家。取材相手に寄り添った取材は迫力あるインタビューに結実、若手は圧倒されていました。

また、夜の懇親会も大いに盛り上がりました。系列を超えた仲間の輪が今年も広がったようです。

ドキュメンタリー論議に花が咲いた懇親会

神戸金史(かんべかねぶみ)
元RKB毎日放送記者
1991年毎日新聞入社。長崎、島原(火山災害専従)、福岡、東京社会部を経て、2005年にRKBに転職。報道部長などを経て解説委員長。障害者殺傷事件やヘイトスピーチを題材に、ラジオ『SCRATCH 差別と平成』(19年/放送文化基金賞ラジオ部門最優秀賞ほか受賞)、テレビ『イントレランスの時代』(20年/JNNネットワーク大賞ほか受賞)、映画『リリアンの揺りかご』(24年)を制作。26年4月より長崎県立大学教授(映像ジャーナリズム論)。

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