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国境を越えるオーディション 欧米・韓国、そして日本型の可能性【境 真良】
アイドル・オーディション番組が映す現代社会(連載第6回)

オーディション番組はなぜ国境を越えるのか。放送局と芸能プロダクション、それぞれの思惑が交差する中で生まれたグローバル・フランチャイズ型の番組ビジネスは、サイモン・コーウェルが切り拓いた欧米モデル、ネット配信を活用した韓国モデルと進化を続けてきた。そして見落とされがちなもう一つの回路として、AKB48が東アジアに広げた「ローカル・フランチャイズ」という日本型モデルがある。コンテンツビジネスとしてのアイドル産業を、その国際展開の視点から読み解く。
オーディション番組はいかにして国境を越えたか
エンターテイメント産業は常に魅力ある人材を欲しており、公募型採用としてのオーディションは歴史的にも極めて普遍的なものである。
その選別過程にある参加者の悲喜こもごもの面白さというコンテンツとしての魅力に気づいた時、「オーディション番組」が生まれる。これも普遍的で、ラジオ放送の時代に始まり、20世紀のうちに世界の全ての大陸で放送されることになった。
ただ、その中でも現在主流になっているのが、『Popstars』(ニュージーランド,1999)に始まり今に続くグローバル・フランチャイズ型のオーディション番組である。
放送産業は基本的に各国での電波割当の上に行われるドメスティックな産業であるが、CATVや衛星放送などによる多チャンネル化や多メディア化にともない、国際貿易の存在感は拡大してきた。
オーディション番組はドラマのようにパッケージ化された番組を購入して放送すればよいものでは基本的になく、番組の構成やノウ・ハウについてライセンスを受けてローカル版を制作するフォーマット販売の形がとられる。特に、欧米等の言語的文化的近接性が高い市場空間では、元番組の制作会社が国際制作(ライセンス先の企業との共同制作を含む)を行うという形にも大きな可能性があった。一つの国で成功した番組のローカル版を統一的なブランドの下に諸外国に展開していくグローバル・フランチャイズ型のオーディション番組は、単にライセンス供与するだけでなく、より深く番組制作に関わり番組スタイルの管理を徹底することで、この市場を切り拓いたわけである。
『Pop Idol』(イギリス, 2001)で審査員としてこのビジネスと接点をもったサイモン・コーウェルは、この可能性に気づき、その事業開拓を実践したその中心的な一人であり、『The X Factor』(イギリス, 2004)や『Got Talent』(イギリス, 2006)で国境を跨いだ番組プロデュースを行った。
放送局と芸能プロダクション、それぞれの算盤
ここで少々視点を変え、芸能プロダクションにとってのオーディション番組を考えてみたい。
放送産業にとってみればオーディション番組はギャラ総額が比較的抑えられるのに根強い魅力を期待できるジャンルの番組であることが一義的に重要で、生みの親たる放送局としてキャスティングしやすい芸能人を開拓できることは、魅力的ではあるが、副産物に過ぎない。
他方、番組制作会社が芸能プロダクション的性格を持つのであれば、むしろ、この芸能人開発こそが主眼であって、(多少ギャラ的には妥協するとしても)特定放送局に起用してもらいやすいことは、これも魅力的だが、所詮は副産物である。このビジネスモデルの観点の違いは、両者の提携を戦略的に合理的なものにする。
芸能プロダクションという業態は、世界でも日本で大きく花開いたものであり、現在は韓国にも継受されているが、欧米ではそれほどには存在感はない。ただ、レコード会社に一部機能や、芸能人のマネージャーが自身の仕事をチーム化し複数の芸能人をマネージするようになる形態もあり、それに類する存在を見出すことは不可能ではない。こうしたビジネスにとって、オーディション番組のプロデュースはまさに一石二鳥である。
さらに、芸能プロダクションにとって新人の売り出しは最もリスクが大きい部分だが、オーディション番組という過程で多くメディア露出し一定の知名度を掴むことができれば、そのリスクを最小化できる。自国だけでなく、言語や文化性が近接した各国市場で同じ展開が可能であるとすれば、一石三鳥どころの魅力ではない。
コーウェルは、番組プロデューサでもあるが、同時に、ワン・ダイレクションやスーザン・ボイルなどのプロデューサでもある。そして、日本で最も馴染みのある存在として、芸能プロダクションが番組プロデュースにも乗り出した例である、『SIXTEEN』(韓国, 2015)からTWICEを生み、『Nizi Project』(日本, 2020)からNiziUを誕生させた韓国のJ.Y.Parkも挙げられるだろう。
ただ、両者にはその出発点以外にもう一つ重要な違いがあって、それは、欧米のグローバル・フランチャイズ型オーディション番組が各地の放送局と提携したインターナショナルな番組展開を中心としたのに対し、韓国の芸能プロダクションは、多チャンネル放送だけでなく、ネットによる番組のグローバル配信を意欲的に開拓していることである。これは事業が始まった時代の流行や、韓国で必ずしも多チャンネル放送がビジネス的に成功しなかったという事情だけが原因ではないと思われる。
というのも、コーウェルは英語圏市場におけるソロ又は英語圏出身メンバーからなるグループをプロデュースするのが得意であるのに対し、韓国の芸能産業はグループ、しかも多国籍グループを最初から念頭に置いているからである。
多国籍グループは、それぞれが狙うターゲット市場からメンバーを取り込むことで、また、そのメンバーから市場国に親和的な魅力を吸収することを通じ、ターゲット市場の視聴者に親近感と魅力性を訴求する戦略を基礎に置いている。そのためには、グローバル配信で一気に多数国からの公開オーディションを行う方が合理的なのである。
スター型とアイドル型、それぞれに合った開発の回路
ただ、開発しようとする芸能人の性格と、オーディションのあり方の相関には注意すべきであろう。
オーディション番組という開発形式は、セレブ性=スター性とアイドル性=親近感のテレビ時代的バランスを基礎とする。
筆者は、メディアセレブの性格付けにおけるスター型、アイドル型の区分を重視している。スター型とは、ダンスであれ、歌唱であれ、その技能の素晴らしさを魅力作りの中心に置くもので、スター然とした垂直型のファンとの距離感、関係性が基礎にある。他方で、アイドル型は技能的には欠けたところが多くとも、その親しみやすい人間性を魅力作りの中心に据え、ファンとの近い距離感、水平型の関係性を重視する。中華圏の芸能用語でいう、『実力派』、『偶像派』に対応したものでもある。
テレビは映画の次に登場した映像メディアであり、映画に比べ圧倒的に多くの番組量と、同報性を特徴とする。それだけに、映画時代のように厳選されたスターでテレビの放送時間を埋め尽くすことはできない。そこから映画スターよりも親しみのある容姿や技能のアイドルと、それがリアルタイムに生み出されていくオーディション番組がテレビ時代には歓迎されたと説明できる。しかし、テレビは映画より大衆的だとはいえ、それでも放送免許制度と巨大投資の必要性に守られた特別な産業、人々により支えられたマスメディアであることは事実である。その限りにおいて、テレビから接触を開始するアイドルは、スターより大衆的であっても、やはりメディアセレブであり(ある程度)スターであるというバランス感を纏わざるをえない。
そう考えると、インターネットを基礎とした近年のメディア爆発状況において、アイドル型の芸能人開発にはテレビのオーディション番組は必ずしも最適な解ではないのではないか、とも思える。
AKBグループが示した第三の回路
例えばAKBグループは「会いに行けるアイドル」を標榜し、専用劇場とネットを中心として新人の登用、開発、そしてグループの更新を行いつつ、安定的なビジネス継続を行っている。グローバルビジネスとして見た場合にも、これは決してニッチなモデルではなく、インドネシアのJKT48やタイのBNK48といった成功例もある。昨年のグループ20周年記念シングルでは多くの海外姉妹グループからのメンバーが集まった。
また、ライセンス問題でAKB48グループから袂を分かった中国のSNH48は、今や中国国内に同様のモデルでフランチャイズをいくつも作り出している。それだけでなく、中国では、いわゆる地下アイドル的な活動を行うアイドルグループが増加しているという報道もある。
考えてみれば、アイドル型の芸能人開発においては、異国の実力派が降臨するというモデルは少々馴染みにくく、各ローカル市場で芸能人開発を行うことが合理的である。
翻って、欧米と韓国が可能性を拓いたグローバル・オーディション番組は、どちらかといえばスター型芸能人開発に親和的であって、日本型アイドルの開発には少々相性が悪いのかもしれない。
しかし、ミシュランの三つ星料理店を目指す戦略も重要だが、ビブグルマンをチェーン店展開できる戦略もまた、十分な合理性がある。そして、アイドル型の開発であれば、グループ編制、握手会等のファンとの接点の管理・運営、グループ内部或いはグループ間の競争関係醸成、グッズ展開といったノウ・ハウを有する日本のアイドル産業には一日の長がある。グローバル・ガールズ/ボーイズグループに注目が集まる昨今ではあるが、この番組にならないアイドル・オーディションの可能性は、なお注目に値するとも思うところである。
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プロフィール

境 真良(さかい まさよし)
国際大学GLOCOM客員研究員。1968年、東京都生まれ。93年通商産業省(現・経済産業省)入省。経済産業省メディア・コンテンツ課 課長補佐、早稲田大学大学院GITS准教授、東京国際映画祭事務局長、情報処理推進機構(IPA)参事等を経て、2023年7月より経済産業省消費者政策研究官を兼職。アジアの都市文化融合現象、アイドル他のメディア文化・産業、情報工学・法制を専門とする。博士(学術・ 東京大学)。

本書は、2020年度に放送文化基金が助成した研究「アイドルオーディション番組の総合的研究」の成果をまとめたもの。
『スター誕生!』『ASAYAN』などの歴史的な番組から海外の事例までを体系的に整理し、「オーディションを通して社会を考える」という新しい切り口で論じた初の“オーディション・スタディーズ”。
アイドル文化やメディア研究に関心のある方におすすめの一冊です。
- 編著者:太田省一 / 塚田修一 / 辻泉
- 発行所:青弓社
- 発行日:2025年9月2日
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