HBF CROSS

コラム

連載

「本当のことを言うと芸人じゃない」と大悟は言った

▶▶▶ 『日日是てれび日和』──気になる番組を読み解く週一コラム 桧山珠美 

【第30回】『大悟の芸人領収書』(日本テレビ・2026年3月2日深夜)

千鳥の大悟がMCを務めるバラエティ番組『大悟の芸人領収書』を楽しく見ている。ゲストが持参した領収書をもとにトークを繰り広げるもので、そのエピソードが金額に見合う面白さだと大悟が承認すれば全額キャッシュバックされる仕組みだが、キャッシュバックされるかどうかよりも興味深いのは、話題がしばしば「芸人論」や「テレビ論」にまで及ぶところにある。

この日は先週に続き、「お笑い世代間ギャップを埋めようSP」。出川哲朗、品川祐(品川庄司)、藤本敏史(FUJIWARA)が平成芸人代表、森田哲矢(さらば青春の光)、吉住、蓮見翔(ダウ90000)が令和芸人代表として出演していた。

まず、この線引きが謎だ。しれーっと令和芸人代表の席に座っている森田は44歳。若者を代表するにはいささか無理があるように思うし、吉住も36歳と一般的には若者とは言い難く、最年少の蓮見でも28歳だ。世代とは年齢のことではなく、笑いの作法の違いなのかもしれないが、“世代間ギャップを埋めよう”といいながら、ほんとうの若者がいないのが引っ掛かる。これもいまのテレビの縮図なのかもしれない。

その蓮見、先週の放送でも、「若手芸人はゴールデン冠番組を目指すべき」という出川の主張に、「冠番組を目指そうにも枠がそんなにない」と応酬し、「テレビをもっと盛り上げたい」という言葉にも、「そもそもテレビの中でテレビを盛り上げようということ自体が滑稽だ」と切り返していた。理路整然とした正論に、ぐうの音も出ない出川。

そして、今週。蓮見の主張は、「後輩に怯えるな」というもので、自分のような後輩が言うことを、「一理あるな」と受け入れるのは違うんじゃないか、と訴えていた。「先輩が後輩に気を遣う時代になった」といわれることにも抵抗があるようで……。

彼が出した領収書の金額は134,500円。それは、誰も先輩が飲みに誘ってくれないので、その結果、自炊することが増えたため、ワンサイズ大きい冷蔵庫を買い直した、というものだった。

そう言いながらも、平成世代の3人に、「今日3人で飲みに行くけど、一緒に行く?」と誘われると、固まってしまう蓮見。そこは、「行きますだろ~」とテレビに向かって思わずツッコミを入れてしまった。

そんな蓮見に対して、先輩たちは「キャラと言い方がおとなしいからプロレス(場を盛り上げるための言葉の攻防)に見えない」(出川)とか、「本気で言ってるように聞こえんのよ」(藤本)などと言い出し、追い詰められた蓮見は、「本気で言ってるわけないじゃないですか。全部、嘘ですよ。お笑いだって流行ってますよ!」と叫んだ。

まさに窮鼠猫を噛む。以前、番組に出演した際に発言した「お笑いなんて流行ってない」を撤回する始末。が、この日の蓮見は、蓮見史上一番笑いをとっていたと思うし、なんなら先輩たちともちょっとわかり合えたのでは、と思った。

そこで注目は、大悟の発言だった。

「本気で言ってるわけがないって言うことだけど、その言い方がまだ下手ってことでしょ。蓮見はそうじゃないって言うかもだけど、本当のこと言わないで、って思う。ワシらってずっとどっかで、ま、ワシの芯にあるものやけど、本当のことは言わない。本当のことを言うと芸人じゃない、意見言う人になっちゃうから。ちょっと間違えてんねん。ワシらってずーっと。多分。そんな中に本当のこと言われたら、勝てませんよ」。

最後は少しおどけて笑わせていたが、これこそが大悟流の「芸人論」と言えるだろう。

そんなふうに、蓮見に対し、自論をぶつけつつ、「でも蓮見の面白いとこはそこやから、そこにちょいちょい間違いも入れて欲しいなって」と、しっかりアドバイスも。芸人は正解を提示する人ではない。どこか少し間違え、そのズレを笑いに変えることが大事なのだと。

“世代間のギャップ”は何もお笑い界に限った話ではない。価値観が目まぐるしく更新される時代、昔のやり方が通用しなくなっていることも多い。そのギャップを埋めるのは、やはり互いを慮る気持ちと対話だろう。そのことをこの番組が教えてくれた。

芸人トークは白熱し、番組は異例の3週またぎへ。来週は吉住が先輩たちに物申すようで、こちらも楽しみだ。

▷▷▷この連載をもっと読む 
桧山珠美コラム『日日是てれび日和』記事一覧

プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

関連記事を見る

新着記事を見る

私たちについて

詳しく見る

財団情報

詳しく見る