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「Netflixはテーマパーク。地上波テレビは誰もが集えるような公園に」—テレビの民主化を目指して

全国制作者フォーラム2026|第3部レポート

文:鈴木祥吾(編集部) 撮影:Ban Yutaka

トークセッションの様子。左から丹羽美之さん、田中良樹さん、木村友紀さん、五百旗頭幸男さん、髙橋信一さん。

インターネット広告費が地上波テレビ広告費を初めて上回った2019年。それ以降、その差はさらに拡大している。(電通「日本の広告費」) 「テレビ離れ」と言われ、その存在感は薄れるばかり…と思いきや、視聴者と新たな関係性を築き、熱狂を生み出している番組がある。
「全国制作者フォーラム2026」第3部では、そんな番組を作り続けるゲストをお招きし、「リブート!テレビデモクラシー 〜参加したくなるテレビの作り方〜」をテーマにトークセッションを開催した。一方的な「放送」から、双方向の「対話」へ。テレビが再び「私たちのメディア」として輝くためのヒントを探った。

テレビはもともとみんなが参加できるメディアだったはずなんですね。しかし、いつの間にかテレビは視聴者からの愛着や信頼を得る努力を怠ってきたのではないでしょうか。もう一度、「私たちのメディア」だと思ってもらえるためには、どうしたらいいんだろう?というのを、皆さんと考えていきたい。

トークセッションの冒頭、コーディネーターを務める丹羽美之さん(東京大学教授)は、テーマの主旨をこのように切り出した。

「全国制作者フォーラム2026」全般にわたってコーディネーターを務めた丹羽さん

パネリストとしてお迎えしたのは、木村友紀さん(NHKコンテンツ制作局第2制作センターチーフ・プロデューサー)さん、五百旗頭幸男さん(石川テレビ放送ドキュメンタリー制作部部長)、田中良樹さん(フジテレビジョンスタジオ戦略本部第3スタジオディレクター)、髙橋信一さん(Netflixコンテンツ部門ディレクター)。それぞれのフィールドで活躍する制作者たちが、視聴者の参加を促す制作の裏側を語り合った。

『あさイチ』で視聴者との対話を続ける

『あさイチ』(NHK)は、視聴者からのメールやFAXをリアルタイムで読み上げ、まさに視聴者との「対話」を重視する代表的な番組として長年愛されてきた。しかし、昨年6月に放送された家計の節約術を特集する番組中に「節約術もうたくさん」「政治の責任にも触れて欲しい」といったコメントが殺到した。

子どもと『新しいカギ』を楽しんでいるという木村さん。当日は、家族から「田中さんと写真を撮ってきて」と言われて送り出された。

2012年から『あさイチ』に携わってきた木村さんは、この放送回について話を聞かれると、当時感じたことをこう振り返った。

視聴者の方の思いを強く受け取った回で、とても強く印象に残っています。毎回番組中に届いたメールやFAXはもちろん、X(旧Twitter)、インスタの書き込みにも目を通しますが、あさイチではこうした視聴者の方の声はその放送回だけの振り返りに留めるのではなく、統括を中心にその後毎日の放送に継続して反映させていくようにしています。この回についても、スタッフ全員に折りに触れて共有され、物価高などを扱う企画について伝え方の見直しを繰り返してきました。

丹羽さんは、「そういった厳しい声が寄せられたこと、さらに番組内で紹介されたことにも驚きました。一方で、自分の声を代弁してもらった気持ちがして、こういった循環がある番組っていいなと思いました。視聴者は、自分たちを向いてくれていると感じるからこそ、より声を届けたくなる」と語った。

さらに木村さんは、子どもの性被害を扱った特集についても触れ、視聴者との向き合い方に日々自問自答し続ける姿勢を垣間見せた。

ふだん人に話すことがしにくいテーマだけに、放送中にご自身のつらい思いを打ち明けるようにメールを送って下さる方が本当に多い回でした。“朝から重いテーマはあまり見たくない”というお声を聞くこともありますし、どういう形で伝えるのがよいのか、常に最後まで悩んでいますが・・・。ふだん皆さんが人知れず胸の内にしまっている苦しみや気持ちを、生放送という同じ時間のなかで共有していく場が『あさイチ』という番組、そのことだけは大事にしたいと改めて感じた回でした。

批判することだけが、メディアの役割なのか?

五百旗頭さんは、行政と議会に向き合い続けるなかで自身のドキュメンタリーの制作姿勢を変化させた。石川県穴水町を舞台にした『能登デモクラシー』(石川テレビ)では、番組の放送後に町民が議会を傍聴するようになり、町の民主主義が変わり始めたという。一方、映画版では、町長の不正について法律違反の証拠となる映像を町長に見せて問いただすシーンを盛り込んだが、実際に辞職を迫ることはしなかったと明かした。

「そういった意味で今回の『能登デモクラシー』は、五百旗頭さんの新境地だと思いました。どうして、これまでのように不正を徹底的に追求しなかったのですか」と丹羽さんから尋ねられると五百旗頭さんは、その真意を語った。

2016年に制作した『はりぼて』(チューリップテレビ)では、富山市議の政務活動費が事実と異なることを明らかにし、議員の“辞職ドミノ”を描いたことで話題にはなりました。しかし、その後に本質的に議会が変わったかというと、何も変わらなかった。それは、その後の議会の様子を地味なネタになった途端に報じなくなった地元メディアの責任が大きかったと思っていて。

以前の僕なら、『能登デモクラシー』でも不正を問いただしていたでしょう。ただ、能登半島地震後、町長は復興計画で町民が地元に住み続けられることを盛り込んだんです。そこは評価すべきです。ダメなことはダメだけど、いいことはいい。メディアとして役場と議会をただ批判して終わらせず、監視し続ける姿勢が、少なからず町民の皆さんにも受け入れられたのかな、と思います。

『あさイチ』を見てから通勤しているという五百旗頭さん。「木村さんにお会いできて嬉しかった」と話した。

「地元メディアとして、町の民主主義の再生に長い目で見て関わっていくということですね。ローカルでまさに地元の議会や自治体と向き合って、どういう伝え方をしていくか、参考になる部分も多かったのではないでしょうか」と、丹羽さんは地域から集まった制作者に訴えかけた。

全領域の高校生に光を当て、熱狂を生む

今や若者に絶大な人気を誇る『新しいカギ』(フジテレビジョン)。霜降り明星、チョコレートプラネット、ハナコがさまざまな学校に出向き、「学校かくれんぼ」「ハイスクール大喜利」「名曲大好き!土八先生」といった、さまざまな企画で学生らと交流しながら楽しむバラエティ番組だ。中でも全国の高校ダンス部が競う「カギダンススタジアム」は昨年の大みそかでも放送され、一大イベントになっている。演出を務める田中さんは、今のような番組スタイルになった理由について、次のように語った。

「今のバラエティにはドキュメント性も大事」と語る田中さん。「帰宅したらNetflixをまず見ている」と明かした。

キッズやティーンだけに狙いを定めた作りにしています。番組当初は、コントを中心にやっていて、「お笑いを捨てた」なんて言い方もされますが、もともと総合バラエティとしてスタートした番組なので。ある企画で高校に出向いたことで鉱脈を得たというか、手応えを掴んで、照準が定まっていったと思います。

丹羽さんは、「私の好きな企画は『ハイスクール大喜利』。爆笑を取った子たちの、ちょっと自信がついた表情が印象的です。いろんな子たちに活躍の場を作っている」と評価した。

新企画を立ち上げるときも、まだヒーローにできていない子たちはどこだろう?ということから議論を始めています。もう全領域の高校生に光を当てようみたいなコンセプトは常に持っていて。間口を広くとることが、アイデアの着想になることは多いです。

木村さんも子どもとよく視聴していると明かし、「『新しいカギ』は、本当に家族と笑いながら見ていられる番組。田中さんのお話を伺う中で、そういう優しい眼差しがあるんだと分かりました」。

一気に見てもらえるよう、「続きはどうなる?」の少し先を見せる

Netflixで多くのドラマを制作してきた髙橋さんは、丹羽さんから「Netflixとして参加型のコンテンツを制作していく可能性はありますか」との質問に今の心境を語った。

実はテレビ好きの髙橋さん。「NHKの未解決事件シリーズが好きです」と話し、なかでも『警察庁長官狙撃事件』の回に心を動かされたという。

たとえばオーディション番組などのアンスクリプテッド作品では、新たな手法に挑戦できるのかも、と思います。あと、いわゆる観客参加型とは違いますが、より観客の作品への熱量を高めるために、Netflixでは基本的に脚本を全て作り終え、演者を含む制作陣全員が共通認識を持った上で撮影に入っています。

また、Netflixでは視聴者に一気見していただきたいので、いかに明日に持ち越させないかを考えています。たとえば、テレビではCMをまたぐとき、「続きはどうなる?」でCMに入ることが多いと思います。私は、「続きはどうなる?」の気になるその先を少し見せて終わることを、クリフハンガーとして心がけています。

さらに、ドキュメンタリーの可能性について丹羽さんから尋ねられると、髙橋さんはこう明かした。

現在、ワールドベースボールクラシック関連のドキュメンタリーなどが配信されていますが、Netflixの日本チームとして本格的にどのようなドキュメンタリーに取り組むか、はまだ未定です。ただ、もしNetflixが制作する場合は、報道的なアプローチではなく、観ている人々の感情をどう動かしていけるか、といったやり方で制作していくんだろうな、と想像しています。

Netflixがテーマパークだとすれば、地上波テレビは誰もが集える公園に

会場からは、「熱心な視聴者は、足を運んで映画館でドキュメンタリーを見ると思うが、そうではない方々にはどう伝えていったらよいか」という質問があった。各ゲストがそれぞれに回答した。

五百旗頭さんは、その点について、より良い作品を作る以上に問われている課題とし、意識を変えていく必要性に触れた。

正直、劇場公開するより、まだまだ全国ネットで放送したほうが間違いなく多くの方々に見てもらえると思います。今後はただ作るのではなくて、日本ではいまだに堅苦しいと思われているドキュメンタリーのイメージを変えていく努力もしていかなければならないと思います。

髙橋さんは、日本と海外の需要の差を指摘した。

ドキュメンタリーの需要が、どうしても日本は低い印象があって、そこが欧米とは違うところ。日本の制作者のみなさんと一緒に作っていくことで、ブレイクスルーができたらいいなと思っています。

木村さんは、熱心な視聴者以外の層へのアプローチとして、普段から心がけていることを回答した。

『あさイチ』においては、朝ドラから引っ張ってくる仕掛けを常に考えています。それは、「朝ドラ受け」かもしれないですし、いきなりVTRからスタートさせてみることかもしれない。放送後は、常に毎回分析しています。

田中さんも、伝える努力や仕掛けが問われていると指摘した。

「学校かくれんぼ」では、右下にでかいタイムカウンターを表示しているんですね。それは、ついつい残り時間がなくなるまで見てしまう人間の心理を利用したものです。そういった、1人でも多くの方に届けるためにどうすればいいのか、考えないといけない環境になっていると思うんです。

丹羽さんは、最後にニューヨーク・タイムズの取り組みを例に挙げて回答しつつ、今回のフォーラムを締めくくった。

ニューヨーク・タイムズはデジタル化に最も成功した新聞社ですが、クロスワードなどのゲームやクッキングといったアプリにも力をいれているんですね。紙で育ててきた多種多様なコンテンツをデジタルでもうまく活かしながら、常に愛着を持ってもらえるような努力をしているわけです。放送業界も、報道や情報番組、エンタメ、ドラマもスポーツも、といった総合力で信頼を勝ち取っていくことが必要なのかな、と思います。

Netflixが入場料を払って極上のエンターテインメントを楽しむテーマパークだとしたら、無料の地上波テレビは誰もが集える街中の公園のような存在になることが一つの役割だと思っています。誰もが参加できる「私たちのテレビ」をもっと追及してもいいのではないでしょうか。


第3部終了後の懇親会では、ゲストと制作者や参加者同士で熱心に語り合う姿が多く、盛況のうちに終えた。会の中では、第1部のミニ番組上映優秀作品・意見交換でゲスト賞に輝いた作品を発表し、ゲストから講評をいただいた。辛口の講評も例年になく飛び交うフォーラムだったが、参考になる意見も多かったはず。来年もぜひフォーラムでお会いしましょう!

プロフィール

五百旗頭幸男(いおきべゆきお)
石川テレビ放送ドキュメンタリー制作部部長(記者、ディレクター)
1978年兵庫県生まれ。チューリップテレビを経て、2020年に石川テレビ入社。富山市議会の不正を追った番組『はりぼて~腐敗議会と記者たちの攻防~』(16年)で菊池寛賞など多数受賞。『日本国男村』(22年)で民放連賞最優秀、『能登デモクラシー』(24年)でギャラクシー賞選奨、同作の劇場版(25年)で早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。その他の公開映画に『はりぼて』(20年)、『裸のムラ』(22年)がある。

木村友紀(きむらゆき)
NHKコンテンツ制作局第2制作センターチーフ・プロデューサー
2007年NHK入局。ディレクターとして大分放送局に赴任後、2012年から『あさイチ』を中心に情報番組を担当。また開発番組『サンクスonデリバリー』の立ち上げにも携わる。『あさイチ』では主に月・水の55分のフリー特集を担当し、ライフハック系の特集からジャーナルな内容まで多様なテーマを扱う。私生活では2児の母。

田中良樹(たなかよしき)
フジテレビジョンスタジオ戦略本部第3スタジオディレクター
1991年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、2014年にフジテレビ入社。これまで多くのバラエティ番組で演出やディレクター業務を行い、現在はレギュラー番組『新しいカギ』『Aぇ! groupのQ&Aぇ!』の総合演出を担当。また、2024年には『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』、25年末には『新しいカギ年越し生放送SP!』の総合演出を務めた。

髙橋信一(たかはししんいち)
Netflixコンテンツ部門ディレクター
1979年静岡県生まれ。2020年Netflix入社。Netflixの東京オフィスを拠点に、日本発の実写全般での制作及び編成を担当。『浅草キッド』や『シティーハンター』などのNetflix映画、「地面師たち」「極悪女王」「イクサガミ」などのシリーズやバラエティ作品のプロデュースも担当。「九条の大罪」(主演:柳楽優弥)は、2026年春に配信を控える。

丹羽美之(にわよしゆき)
東京大学教授/コーディネーター
1974年三重県生まれ。専門はメディア研究、ジャーナリズム研究、ポピュラー文化研究。番組アーカイブを用いてテレビの文化や歴史を研究している。主な著書に『日本のテレビ・ドキュメンタリー』、『NNNドキュメント・クロニクル:1970‐2019』(いずれも東京大学出版会)などがある。放送文化基金賞審査委員(エンターテインメント部門)。民放onlineで「放送人 この言葉、あの言葉」を連載中。


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