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【五百旗頭幸男】天狗の鼻——「失意の新潟」から始まった、制作への模索

報道記者になって5年目の32歳の秋、新潟市で開かれた北信越制作者フォーラムに初めて出品しました。冬季五輪に出場したスキー選手が競輪転向を目指すという約10分のニュース特集でした。この頃には、取材から構成、編集を一人でこなせるようになっていて、30分から60分サイズの特番を10本近く作っていました。社内の若手で俺以上の番組を作れるやつなどいない。過剰に膨らんだ自意識から、受賞できないわけがないと本気で思っていました。

「北信越制作者フォーラムinにいがた」(2010)で、自身が制作した番組について語る五百旗頭幸男さん。

天狗の鼻は一瞬でへし折られました。審査員から浴びせられた酷評の雨あられ。思い出すと、今でも胃がキリキリします。でも、あの経験がなかったことを想像すると、胃の痛みどころでは済まなくなります。特に実績もないのに根拠なく積み重ねた自信は、いつしか過信に変わり、意固地なプライドを増長させていました。

明確に言えることがあります。15年前に新潟で味わった失意は、制作者としての自分を徹底的に疑い、取材や編集との向き合い方をゼロから見つめ直すターニングポイントでした。審査される側から審査する側に変わったから言っているのではありません。あの苦い経験を経て決定的に変わったのは、特集や番組を作り終えた際にスッキリしたり、気持ちよくなったりしなくなったことです。それまでは自己満足と自画自賛から、いつも晴れやかな気持ちでした。勝ち誇っていました。しかし、自分を疑うようになると、取材中も編集中も迷いから解放されなくなります。作り終えても「これで本当によかったのか」と、霧が晴れなくなったのです。それが次の表現への原動力となっていきました。

五百旗頭さんが制作した『はりぼて~腐敗議会と記者たちの攻防~』(2016)でのワンシーン。富山市議会の不正を追及し、政治家の“辞職ドミノ”が発生。©チューリップテレビ

テレビ内外のコンテストで受賞するようになったのは39歳の時です。「失意の新潟」から7年が過ぎていました。飛びぬけた才能があれば、現場に出て数年で受賞する人もいますが、凡庸な制作者は受賞までに12年を要しました。賞は結果的に付いてくるもので、決して狙うものではありません。頭をひねりながら取材を積み重ね、構成と編集でも頭を悩ませ続ける。遠回りをしましたが、今ではその時間と道のりをとても尊いものに感じています。すべてに意味があったと、頭と体と心で理解できるようになりました。

「全国制作者フォーラム2026」で登壇し、番組制作の極意や鋭い講評を述べる五百旗頭さん。

今回のフォーラムで審査した9作品の中で2作品については、あえて厳しい指摘をしました。ファクトよりもインパクトがあり真実っぽいもの、信じたいものが、SNSやインターネット空間にあふれる中で、テレビは「オールドメディア」や「マスゴミ」と叩かれ、かつてない批判にさらされています。そうした時代にあって、テレビが安易な手法でアテンションを集めようとしたり、ファクトを軽視したりすれば、信頼は地に落ちて行く一方です。放送の未来を担う若い制作者には、そこを踏み外してほしくはないのです。

プロフィール

五百旗頭幸男(いおきべゆきお)
石川テレビ放送ドキュメンタリー制作部部長(記者、ディレクター)
1978年兵庫県生まれ。チューリップテレビを経て、2020年に石川テレビ入社。富山市議会の不正を追った番組『はりぼて~腐敗議会と記者たちの攻防~』(16年)で菊池寛賞など多数受賞。『日本国男村』(22年)で民放連賞最優秀、『能登デモクラシー』(24年)でギャラクシー賞選奨、同作の劇場版(25年)で早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。その他の公開映画に『はりぼて』(20年)、『裸のムラ』(22年)がある。

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