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Netflixプロデューサー髙橋信一に聞く|ローカルを突き詰めた先に世界がある

全国制作者フォーラム2026|第2部レポート

文:大園百合子(編集部) 撮影:Ban Yutaka

Netflixコンテンツ部門ディレクター 髙橋信一と聞き手の放送文化基金専務理事の梅岡宏(左)

「地面師たち」「極悪女王」『シティーハンター』「イクサガミ」──。近年、Netflixの日本発オリジナル作品が次々と注目を集めている。これらの作品を手がけてきたNetflixコンテンツ部門ディレクターの髙橋信一が、放送文化基金が主催する全国制作者フォーラム第2部に登壇した。テーマは、「Netflixのヒットコンテンツ制作の舞台裏とクリエイティブ・ビジョン」。聞き手を務めたのは専務理事の梅岡宏だ。放送文化基金は3年前から配信コンテンツを放送文化基金賞の対象に加えており、「忍びの家 House of Ninjas」「極悪女王」が相次いで受賞している。

「「地面師たち」を見た方は?」という梅岡の問いかけに、客の大半が手を挙げた。テレビ制作者を中心に多くの参加者が集まったこの日、梅岡はこう切り出した。Netflixが日本でサービスを始めてから約10年。会員世帯数は1000万に達し(2024年上半期時点)、いまや配信を抜きにテレビを語ることはできない存在になっている。にもかかわらず、テレビの制作者と配信の方々が情報交換し、切磋琢磨できる場はなかなかない。だからこそ今日、髙橋さんに来ていただいた。ヒットコンテンツはどのように生まれているのか、そしてNetflixはどこへ向かうのか。制作の舞台裏を聞きたい。そして放送と配信の未来についてもしっかりと意見交換をしたい。ここから、髙橋の言葉が始まった。

放送文化基金専務理事 梅岡宏

「全裸監督」の衝撃──映画界からNetflixへ

映画会社・日活でプロデューサーとしてキャリアを積んだ髙橋がNetflixの門を叩いたきっかけは、一本のドラマシリーズだった。

2019年、日活で映画『ひとよ』(白石和彌監督)を制作していたとき、スタッフもキャストも、撮影の合間に話す話題がすべて同じだったという。

全員が「全裸監督」の話をしていたんですよ。この作品が日本の映像業界に与えた影響は凄まじかったと思っています。エッジーなテーマを、あの規模感で、名だたるキャストの方々が出て制作をした。しかもそれが一般の方にここまで浸透した。本当に衝撃だったんです。

Netflixシリーズ「全裸監督」Netflixにて独占配信中

映画界では、挑戦的な作品は小規模で制作して単館上映になるのが常だった。過去のデータからは導き出せない企画が、大きなエンターテインメントとして成立し、広く届いた。その事実が、髙橋を動かした。

日活では自由に仕事をさせてもらっていた。不満があったわけではない。外資企業で働くのも初めてで、おっかなびっくりの入社だったという。入社して驚いたのは、組織の風通しの良さだった。

外資企業では時々アメリカのことを「本国」とか「本社」と呼びますよね。でも、Netflixでは「USチーム」という言葉を使っていて、親子の関係では決してなく、対等なんです。僕たちは「日本チーム」としてどういう作品を作っていくかを自主的に決めていく。この感覚は初めてで、すごく驚きました。

本国にお伺いを立てるのではなく、日本チームが自ら決める。この意思決定のスピードが、後に語られるヒット作誕生の伏線になっていく。

浅草のセットを作っていいんですか?──リスクを許容する文化

入社直後に手がけた『浅草キッド』で、髙橋はNetflixの制作思想を肌で知ることになる。劇団ひとり監督による本作は、ビートたけしの師弟物語を1970年代の浅草を舞台に描く。当初、浅草のオープンセットを作る予定はなかった。

最初は、全然作らなくていい、というか、作るつもりもなかったのです。ひとりさんの前作『青天の霹靂』でも同じ時代の浅草を描いていますが、長野のロケーションで、当時の浅草を見立てて撮影されていた。僕たちも当初そのアプローチでやろうと思ってました。

転機になったのは、Netflix社内のプロダクションチームからの逆提案だった。タケシとその師匠・深見千三郎が生きた浅草の町並みを再現することが作品の屋台骨ではないか──そう、スタッフが髙橋と監督にプレゼンしたのだ。

ここまでクリエイティブを追求していいのか、と、すごく驚きでした。そうは言っても、「この六区だけにしようか」みたいなちょっと小心者なやりとりを監督とやりながら進めました(笑)。

しかし、Netflixの制作費も青天井ではない。梅岡が「上限がないわけじゃないですよね。どう落とし前をつけるんですか」と切り込むと、髙橋はこう答えた。

当然ビジネスですので、採算度外視で予算が使えるというわけでは決してありません。ただ、挑戦を歓迎し、そこに伴うリスクをある種許容してくれる会社なんです。だからこそチームを信頼してのびのび仕事ができる。仮にうまくいかなかったとしても、なぜうまくいかなかったのかをすごくオープンに話をして、同じ失敗を繰り返さない。失敗をしても、挑戦をやめるのではなく、別のアプローチでヒットを生み出せるのか。新たな統計学を見出せるか。それをひとつひとつ重ねていけるところが、一番大きいのかなという気はしています。

映画会社で働いていた時は、髙橋自身も既存のデータ、前例に基づいて予算を組んできた。その常識を「塗り替える」挑戦を許容する文化が、ここにはあった。

脚本1話で決断した「地面師たち」、7ページで決まった「極悪女王」

ヒット作はどこから生まれるのか。梅岡が「企画の種の見つけ方」を聞くと、髙橋は2つの代表作について具体的に語り始めた。どちらもクリエイターからの提案がきっかけだったという。

「地面師たち」は大根仁監督から原作の映像化を提案された。しかし髙橋は、小説を読んだうえで、映像化は難しいのではないかと率直に伝えたという。

会議室での会話で騙せるのか・騙せないのかという緊張感を、ドラマシリーズで何話も続けるイメージがつかなくて。「ちょっと難しいんじゃないですかね」と正直に大根さんに言った。別の企画にしませんかと。ただ大根さんから「1話だけでも脚本を書くので、それで判断してくれないか」と言われて。上がってきた脚本がもう素晴らしかったんですよ。脚本をめくる手が止まらないってこういうことかと。久しぶりの体験でした。脚本を通して監督はこのビジョンで企画を捉えているんだと理解できたときに、「これは制作しよう」と思って、もう制作決定に動いていました。

Netflixシリーズ「地面師たち」Netflixにて独占配信中 ©新庄耕/集英社

「極悪女王」の始まりも鮮烈だった。鈴木おさむ氏から届いた企画書は、わずか7ページ。表紙にはダンプ松本と長与千種の髪切りデスマッチの写真が据えられていた。

僕自身は79年生まれで、ダンプさんがものすごく怖かった時代を鮮明に覚えていて。あのダンプ松本にこんな人間的なドラマがあったんだという驚きに満ちていた7ページだった。本当は優しくて人を殴るなんてとてもできないような少女が、唯一の居場所として憧れたプロレス。しかも本当はヒールになんかなりたくなかったのに、そうならなければその世界で生きていけない。それでもプロレスにすがらなきゃいけないという人間ドラマにすごく惹かれて、「これは制作しましょう」とその場で決めました。

こうした即断が可能なのは、Netflixが各担当に制作決定の権限を与えているからだ。ただし独善の「個人商店」ではないと髙橋は強調する。チーム内の企画会議での議論を徹底して行い、同僚や上司からキャラクターの描き方などについて鋭いフィードバックが返ってくる。「風通しよく議論をしながら、推進力を失わない」。それがNetflixの企業文化だという。

Netflixシリーズ「極悪女王」Netflixにて独占配信中

「ローカルファースト」という理念

「地面師たち」も「極悪女王」も、極めて日本的な、ドメスティックな題材だ。不動産詐欺の手口、1980年代の女子プロレス。梅岡は「世界で通じるのかとハラハラしながら見た」と語りつつ、世界の視聴者に届けることを前提にしたとき、「これでいける」と思えるものなのかと問うた。

髙橋はNetflixの根本にある哲学を語った。

Netflix全体で「ローカルファースト」という理念を掲げています。日本のお客さんのためにまずコンテンツを作るんだという考え方。そこを突き詰めていくと、グローバルに突き抜けていく作品が出てくるんです。

例として挙がったのは韓国の「イカゲーム」だ。韓国の子ども遊びを題材にしたデスゲームは世界的な大ヒットとなったが、韓国チームにとっても、「誰もあんなヒットを予想した人はいなかった」という。国内の視聴者に徹底して向き合った結果、他の国の人からすると「見たことのない物語」になっていた。そこにグローバルヒットの鍵があった。

テレビ業界はこの10年余り「海外に受けるコンテンツとは何か」を模索してきた。それがローカルファーストでいいのか。梅岡は驚きを見せた。それに対し髙橋は、侍(サムライ)をモチーフにした「イクサガミ」も「海外を意識したのか」と聞かれるが「正直そこはほぼない」と明言。時代劇というフォーマットを、まず日本の観客にどう新しく見てもらうか。それが企画の出発点だったという。

Netflixシリーズ「イクサガミ」Netflixにて独占配信中

「なぜ見たいのか」から始める企画

話題はテレビと配信の関係に移った。梅岡は、Netflixの企画を考える時に、テレビとの差別化を意識するのかを問いかけた。差別化を意識することもあるが、そこには明確な線引きがあるという。

考えるときもありますし、あんまり考えないときもあります。ただ、Netflixだから何でもやっていいというのはまた別の話で、そもそもオーディエンスの方に忌避感があるものは、配信だから見たいってわけでは決してない。そこは間違えないようにしています。

あるクリエイターとの会話を引きながら、髙橋はこうも語った。80年代90年代のバラエティ『元気が出るテレビ』は髙橋自身も子どもの頃大好きだった。だが、あのアプローチが今の時代に求められるかは別の話だ。表現の自由度が高いことと、観客がそれを見たいかどうかは一致しない。「コンプライアンスなどのレギュレーションにおいてテレビができないから配信でそこを狙う」という単純な図式を、髙橋は否定した。

さらに梅岡は、テレビでは視聴率を意識しながら企画を開発するが、Netflixでは視聴データやターゲティングをどう考えるのかと訊ねた。

「20代30代の女性に見ていただきたい」みたいな形ではなく、もう少し広く考えていて。広くというのは、世代や性別というようなターゲットの属性ではなく、「今Netflixでこの作品を見る理由って何なのか」という観点で企画を考えるようにしています。視聴者がお金を払って利用するサービスであることは間違いないので、その一歩を踏み出していただく動機になりうる題材なのかを一番重要視しているかもしれないですね。

世代や性別で対象を絞るのではなく、そもそも「わざわざ課金してまで見たいと思えるか」という一点で企画の強度を測る。広告収入に依存することなく、会員の課金で成り立つNetflixだからこそ、この発想が企画の起点になりうる。だが、テレビにおいても配信で視聴される機会が広がる今、「誰に見せるか」より先に「なぜ見たいか」を問う視点は、テレビの作り手にとっても無縁ではないように思えた。

Netflixとは異なるテレビならではの価値

Netflixコンテンツ部門ディレクター 髙橋信一さん

Netflixの制作体制について、髙橋は「制作の内製化」という言葉を使う。企画プロデュース、プロダクションマネージメント(撮影品質や現場の安全管理)、ポストプロダクション、VFX、音楽制作など各分野の専門家が社内チームとして存在し、作品のクオリティを多面的に支える体制が整っている。

前職の映画時代は企画から出資営業、ポスプロのスケジュール管理、宣伝プラン管轄まで一人でこなさなければならなかったと振り返る髙橋にとって、いい意味でみんなの力を借りてやれるこの環境は「これまで経験をしたことのない体験」だという。

会場のテレビ制作者にとっては羨ましい環境に聞こえたかもしれない。梅岡はさらに問いかけた。「今、テレビでいろんないい番組を作った人間が配信の方に行っている。そういう現状をどう考えるか」。髙橋は慎重に言葉を選びながら答えた。

どちらがいい悪いでは決してなく、相互に役割が違うと思っています。メディア特性やプラットフォームの違い、届ける方への指針みたいなものの違いが、フィールドとしては絶対ある。その中で、配信という新しいプラットフォームで挑戦したいという方は確かにいらっしゃる。僕自身もそうでした。だからこそ相互のやり取りができるといいのかなと。

テレビと配信の役割についてあらためて問われると、髙橋は「いち視聴者として」の実感から語った。決まった曜日に作品が見られる、その楽しみ。ニュースの即時性や報道性。少なくとも現時点では、それはNetflixとは異なるテレビならではの価値だという。「そもそも、僕はものすごくテレビを見ているんです。お風呂に入りながら見たりもします」と髙橋は笑った。

放送文化の担い手は誰が育てるのか

「人材育成のこともじっくり聞きたい」──対談の終盤、梅岡はそう切り出した。テレビ局がこれまで担ってきた人材育成の機能が、動画配信サービスの台頭によって揺らいでいるのではないか。そもそも若い世代が放送局を目指さなくなっているという現実もある。放送文化の担い手は、このままでは先細りしていくのではないか。梅岡の問いかけの背景には、そうした危機感があった。

髙橋はこの問いに、「喫緊の課題だと思っています」と応じた。

僕自身がいた映画界でも、若い世代がなかなかスタッフとして入ってこない状況がある。労働環境をどう改善していくのか、撮影時間の管理、インティマシーコーディネーターやリスペクトトレーニングの導入も含めて、もっと取り組まなきゃいけないと思っています。若い人たちに現場に入っていただいて、健全な生活を過ごせるようサポートをした上でしっかりとした職業経験を積んでもらうということも、この数年間実施しています。各専門分野、撮影やVFX、音楽制作、カラーリストの方々に「新しいアプローチをしてみませんか」みたいな、業界向けの講習会も、各パートナーと提携して適宜開催しています。

Netflixとしての取り組みは語られた。一方で梅岡は「放送局が育てた人材が配信に流れ、放送がコンテンツと人材の供給源だけで終わるのではないか。それを僕らは割と危ないシナリオとして考えている」と率直に語った。だからこそ、テレビの制作者と配信の作り手が本音で語り合える場が、これからも求められていくのだろう。

“黒船”か、パートナーか

そして最後の質問、Netflixの日本チームのこれからのビジョンについて。髙橋が力を込めて語ったのは、日本のクリエイターの作品を世界に届けるという使命だった。

僕自身映画会社での経験がバックグラウンドとしてあり、映画祭の賞レースで賞をいただくような作品に関わらせてもらったこともあるんですけど、どうしても20か国とか30か国での上映にとどまる。これはクリエイターのレベルや作品のレベルではなく、流通の問題でもあると思っていて。Netflixを通じて、作品がしっかりと世界に届いていき、日本のクリエイターやスタッフの力が証明されていくことが、僕がNetflixを通して成し遂げていきたいことです。

具体的な協業の形も見え始めている。TBSとの『九条の大罪』、東宝との『ガス人間』など、放送局や映画会社がNetflixを通じて作品を世界に発表する試みが進んでいる。

梅岡はこう問いかけた。「10年前、僕らはNetflixを“黒船”と呼びました。その後パートナーシップの方向も見えてきたけれど、今年3月のWBCの独占配信もあって、やっぱり“黒船”だったのかという感じもある。一方で「地面師たち」の『もうええでしょう』が流行語トップテンに入るような、放送文化に対抗する文化を生み出す力まで持ってきた。これから放送と配信の将来、どんな関係性をイメージされていますか」

髙橋は「なかなか難しい課題でもある」と受けたうえで、こう答えた。

Netflixは動画配信サービスとしての存在が強いので、ぜひいい形で使っていただければなと思っています。見逃し配信的に作品をお預かりして世界に向けて配信するということも今やらせていただいていますし、逆に新しい挑戦をNetflixと一緒にやってみようという試みも出てくるんだろうなと。皆さまが持たれているクリエイティブを、ここからどう発表していただくのか。いい関係を続けていけるポイントになるのかなという気はしています。

対談の締めくくりで、梅岡はこう語った。「テレビの世界も草創期から、先輩たちは『人がやっていないことをどうやるのか』というところでいろんなものを切り拓いてきて、放送文化を作ってきた。今、放送の世界にそういうチャレンジ精神がどこまであるかというと、若干寒いところもある。Netflixをどう活用するのか、関係を見据えながら、僕らが本来持つべき挑戦意欲をもう一回取り戻していけたらいいなと思っています」

テレビ制作者へのエールを求められた髙橋は、こう結んだ。

いち視聴者として毎日テレビを楽しみにしています。だからこそ、Netflixに興味を持っていただけるようでしたら、一緒にどう作品を届けていくかお話できるといいなと思っています。懇親会にも参加しますので、ぜひお声がけいただければ。 

放送と配信は今後どのような関係を築いていけるのか。髙橋は、この後のテレビ制作者らとのトークセッションにも登壇し、さらに幅広い議論が交わされた。その模様は別稿で紹介する。


髙橋信一(たかはししんいち)
Netflixコンテンツ部門ディレクター
1979年静岡県生まれ。2020年Netflix入社。Netflixの東京オフィスを拠点に、日本発の実写全般での制作及び編成を担当。『浅草キッド』や『シティーハンター』などのNetflix映画、「地面師たち」「極悪女王」「イクサガミ」などのシリーズやバラエティ作品のプロデュースも担当。「九条の大罪」(主演:柳楽優弥)は、2026年春に配信を控える。

梅岡 宏(うめおかひろし)
放送文化基金専務理事
1962年生まれ。1985年NHK入局。報道番組ディレクター、プロデューサーとして、NHKスペシャル、クローズアップ現代を多数制作。放送文化基金賞最優秀賞や地方の時代映像祭グランプリなど受賞。クローズアップ現代編責、ニュースウォッチ9編責、NHKスペシャル事務局長、大型企画開発センター長、札幌放送局長などを歴任し、2023年より現職。


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