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瀬戸内の海から届く声――『NNNドキュメント』が伝えたカキSOSの実態

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【第28回】 『NNNドキュメント´26 広島カキSOS 大量死の謎と産地の苦悩』(広島テレビ・2026年2月15日深夜放送)

広島と言えばカープ、お好み焼き、そして、瀬戸内の穏やかな潮で育った海の幸。特に今の時期はなんといってもカキだ。個人的なことをいえば、父の故郷であり、今も年に数回は訪れる馴染み深い場所でもある。だからというわけではないが、日本全国津々浦々カキの産地はあれども、やはり、手が伸びるのは広島産。慣れ親しんだ広島のカキが一番美味しいと信じてやまない。

その広島カキに異変が起きている。たしかに今年は不作だとは聞いていたが、ここまでだったとは……。地元局広島テレビによる調査報道がその実態を明らかにしてくれた。

昨年10月の水揚げ解禁日。カメラはカキの産地で知られる東広島市安芸津町の生産者・島村さんの水揚げ作業に密着。「見てわかる通り、生きとるカキを探す方がしんどいんで。ほとんど死んでますね。死ぬ死ぬって死ぬ量が半端じゃないんで。ここまで死んだの初めて」と島村さん。そこには死滅し、口を開いたカキがうず高く積まれていた。

「死活問題です」。水揚げされたカキの9割が死滅しては生活も立ち行かない。島村さんは家族とフィリピンからの技能実習生、9人で現場を切り盛りしている。その暮らしを守らなくてはいけない。

当然ながらその影響は地元の料理店や小売店にも広がる。地元のスーパーで売られるカキの値段も前年より1.5倍高くなった。

被害は広島にとどまらず、瀬戸内沿岸の各地で確認されている。番組は原因を取材するが、去年の猛暑による高水温や高塩分など複合的な要因が推定されるものの、最終的な原因究明には数年かかる見通しだという。

数年待てなどとそんな悠長なことを言っている場合ではないだろう、と思う。事態は深刻で、来シーズン水揚げ予定の育成中のカキにも被害が及んでいるのだから。

番組では、生産者の取り組みとして、岡山・笠岡市北木島のバスケット養殖を紹介していた。カキの稚貝をカゴの中に入れて育成する方法で、カゴの中で転がすことでカキが「口を開けまい」と頑張る。これを“鍛えさせる”といい、貝柱が強くなり、死滅率も下がるという。

カキも人間と同じで鍛えれば強くなる、というのが面白い。そういえば、あの黒柳徹子さんも毎日100回スクワットをしていると言っていた。

そんなふうに、いいことづくめな“バスケット養殖”だが、スペースと資材の費用がかかり、導入のハードルは高いという。国や自治体は実質無利子の融資を行っているというが、広島の特産物カキの一大事に、行政がどんな策を講じているのか、そのあたりの取材がなかったのは残念だった。

番組は、「広島の特産がなくなる勢いなんで。なんとかまた再生して広島県のカキを盛り上げていくようにとは思っているんですけど。今はただ前を向いて、先、先、進んでいくだけですね」という島村さんの言葉、そして、「瀬戸内の海から上がる悲痛な叫び。窮地を脱することはできるのか。カキを守る懸命な取り組みが続きます」というナレーションで終わった。

これまで当たり前のように食べていた広島産のカキ。番組を見るまでその窮状も知らず、「今年は高いなあ」などと文句を言っていた自分が恥ずかしい。

今回の番組のように、地元の窮状や叫びを拾い上げ、その声を全国に届ける。これこそがローカル局が担うべきテレビの大きな役割だろう。

番組のなかで生産者たちが「お客さんの応援の言葉が力になる」と語っていたが、テレビがこうして、取材し、記録し、伝えることも大きな力になるに違いない。

これからも、生産者に寄り添い、カキのSOSに耳を傾け、瀬戸内の海を取り巻く環境の変化を見つめ、全国に発信してほしい。

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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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