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八嶋智人が見守った『大輝のミラクルジャーニー』――19歳、車イスでフィンランドへ

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【第26回】 『大輝のミラクルジャーニー ~19歳の夏 僕は車イスで海を越えた~』(長崎放送・2026年2月1日放送)

ヘルシンキ大聖堂を背に、八嶋さんと大輝くん。旅の始まりの一枚。(画像提供:長崎放送)

この物語の主人公・秋山大輝くんを知ったのは、2021年に放送されたドキュメンタリー『大輝、15の春』だった。生まれつき骨が折れやすい難病「骨形成不全症」を抱え、歩くこともままならない大輝くん。が、その過酷とも思える日常のなかで、当の本人はいたって明るく飄々としていた。

お喋りが大好きな大輝くん。知性とユーモアをあわせ持ち、達者な話術にも驚かされたものだ。将来はアナウンサーになりたいと夢を語っていたことも。その願いが叶えられたのは番組の中で。なんと、ナレーションを本人が自ら担当するという粋な計らいで実現したのだった。しかも、それがお世辞抜きに巧かった! 

瑞々しい感性とチャレンジ精神。そして旺盛な好奇心を持つ大輝くんと、彼を応援する家族や周りの人たちを描いた作品は、「骨形成不全症」を知るとともに、人間ドキュメンタリーとしても心温まるものだった。

その大輝くんが高校を卒業。第35回JNN企画大賞に選ばれた今回の『大輝のミラクルジャーニー~19歳の夏 僕は車イスで海を越えた~』は、19歳になった大輝くんの今と、福祉大国「フィンランド」への旅に密着した作品だ。

やりたいことをノートに書き記す大輝くん。そこには、<フィンランドで食べたい物>として、トナカイ肉のロースト/サーモンステーキ/クリーミーサーモンスープ/カレリア風シチューと書かれていた。好奇心は相変わらずのよう。一番の目的は、同じ「骨形成不全症」の人と会うこと。「お会いしてコミュニケーションを取れたらいいなあ」と。

旅の前に病院を訪れる。年に3回入院し、骨折を防ぐ治療を続けている大輝くん。初めての飛行機への不安を伝えると、「主治医としてゴーサイン出していいのかという葛藤はありますが、チャレンジしたいという気持ちがあるなら最大限サポートして、応援できれば……」と主治医。お守り代わりの英語の診断書を書いて貰い、いよいよヘルシンキへ出発!

骨折のリスクを軽減するため、長崎から羽田までは、新幹線と車で移動し、いざ、ヘルシンキへ。空港では「珍しくネガティブなことしか浮かばない」といつになく不安そうな表情をのぞかせる。

と、そこに現れたのが、憧れの人、俳優の八嶋智人だった。「私はもちろん、秋山家一同、大好きでございます」と挨拶。八嶋は旅の応援団長として、大輝くんに同行するとのこと。さきほどの不安はどこへやら……。ドラマ『不適切にもほどがある!』の自称「なんとかする男」八嶋智人、今回もなんとかしてくれそうで実に頼もしい。

初めての空の上。不安を抱えながらも、いよいよ冒険が始まる。(画像提供:長崎放送)

フィンランドに到着。

八嶋に「なんでそもそもフィンランドに来ようと思ったの?」と訊かれ、「日本より積極的に車椅子で出掛けている社会がこの国にはあるので。冒険しがいのある広さだと思って」と大輝くん。

観光で訪れたヘルシンキ大聖堂は残念ながら改修中だったが、それさえも「改修中が見られるのは今しかない」とポジティブ。

そんなふうに、番組は大輝くんの“冒険”に寄り添いながら、路面電車や列車といった公共交通機関の使いやすさ、車椅子の人はあらゆる交通機関が無料などの情報も含め、生活に根付く福祉国家の実情を丁寧に映し出す。

車椅子用の広々とした車両で。フィンランドの鉄道を体感する。(画像提供:長崎放送)

図書館のスロープに、広々とした個室のトイレ。そこかしこに車椅子ユーザーに優しい工夫が施されている。声高に叫ばずともそこに映し出された環境がすべてを物語る。大輝くんの体験を通して私たちは多くの気づきを得る。

将来は声を使う仕事がしたい、という大輝くん。同じ骨形成不全を抱えながらキャリアを築く先輩にアドバイスを乞うと、「まずはやりたいことをやってみましょう。そうすれば、あなたが病気や障がいを抱えながら挑む最初の声優になります。何事も誰かがその道の開拓者にならなければなりません。フィンランドでいろんなことがうまくいっているように見えても、その権利を勝ち取るのは簡単ではありませんでした。健常者と同じ機会を得るにはやるべきことがたくさんあります」と励ましの言葉を貰う。

同じ病気を抱えながら働く先輩と。真剣な表情で言葉を受け止める。(画像提供:長崎放送)

また、別の日。年の近い16歳の女の子ともご対面。料理も自分で作るという彼女からもたくさんの刺激を貰っていた。「同じ病気の人と話す機会がなかったので嬉しい」と大輝くんがいえば、「第一印象としては自分とビジュアルが似ていて、外見もそうだし、曲がった骨格もそうだし、身長もね。ええやはり逢えて嬉しいわ」と彼女。

タンペレの湖を背に。この出会いが、大輝くんにとって「奇跡」となった。(画像提供:長崎放送)

別れの時に手渡された手紙には、彼女が描いたムーミンパパの絵に添え、「人生は大きな奇跡に満ちている それを受け入れる覚悟があれば」と書かれていた。

彼女が描いたムーミンパパの絵。そこに添えられた言葉。(画像提供:長崎放送)

冒険から戻った大輝くん。介護施設で高齢者のお喋り相手のボランティアをする姿があった。今の気持ちを書にしたためる大輝くん、そこに力強く書かれた「進」の文字から彼の覚悟が見えた。

大輝くんの「ミラクルジャーニー」はまだまだ続く。

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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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