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K-POPサバイバル・オーディションとファン参加型文化【田島悠来】

アイドル・オーディション番組が映す現代社会(連載第3回)

デビューの行方を決めるのは、もはやプロデューサーだけではない。K-POPのサバイバル・オーディション番組では、視聴者が投票やSNSを通じてアイドルの誕生に直接関与する「参加型文化」が広がっている。本稿では、『PRODUCE 48』や『BOYS PLANET』を事例に、ファンが「推し」を支えるために行う布教や聖地巡礼といった実践に注目し、グローバル化するK-POPファンダムの力学と、その光と影を読み解く。

K-POPブームの到来

現在の動画配信サイトは、韓国産のコンテンツで溢れている。なかでも若年層の視聴者を中心に人気を博するのは、K-POP関連のものである。韓国のポピュラー音楽を意味するK-POPは、1990年代以降、音楽面ではアメリカのブラックミュージックからの影響を受けながら、日本や中国語文化圏をはじめとした東アジア諸国で受容され発展を遂げてきた。

さらに昨今では、ソーシャルメディアの普及によるメディアプラットフォームの拡大を背景として、K-POPブームは多様な国や地域で展開し、グローバルなファンダムが形成されていっている。

日本においては、2000年代に入ってから幾度かの「韓流」(韓国関連のコンテンツブーム)を経験するなかで、K-POPアイドルブームが巻き起こり、2010年頃から音楽市場でのK-POPの存在感が増していった。

K-POPアイドルを生み出すサバイバル・オーディション

2000年代後半以降K-POPを生み出すオーディション番組が続々と制作され、そのなかからアイドルグループが誕生している。こうしたオーディションコンテンツは、参加者が番組内で課される様々なミッションに挑戦し、他の参加者と時に競争と協力を繰り返しながら苦難を乗り越える過程を描く。デビューを勝ち取る者と脱落する者――その明暗をドキュメンタリータッチで描くリアリティショーとして捉えられる。その過酷さゆえに、「サバイバル・オーディション」(略称「サバ番」)と呼ばれる。

現在は、動画配信サイトにおいて韓国国内のみならず様々な国や地域で視聴することが可能である。特に日本では「日韓同時配信」がうたい文句となって、韓国での放送/配信と同時間帯に視聴できるコンテンツも見受けられる。そうしたリアルタイム性をもったサバ番は、ある種キラーコンテンツとなり、なかにはシリーズ化しているものもある。

そして、番組の参加者には、韓国以外のメンバーが含まれることがままある。9人のメンバーのうち5人が韓国人、3人が日本人、1人が台湾人という多国籍性をもった女性アイドルグループTWICEは、『SIXTEEN』(Mnet、2015年)という韓国を代表する芸能プロダクションJYPエンターテインメント主催のサバ番から誕生した。TWICE以降、「K-POPアイドルになること」に憧れて韓国に渡り、夢の実現のために奮闘する日本人の姿は、メディアのなかで物語となってたびたび可視化されていくようになる。

視聴者参加型を強調した『PRODUCE 48』

K-POPアイドルを生み出すサバ番を既存のK-POPファンだけではなく日本の大衆的なレベルまで認知させることに寄与したコンテンツとして、2018年に日韓で同時放送された『PRODUCE 48』(Mnet,2018)が挙げられる。

『PRODUCE 48』は、韓国で人気のサバ番「PRODUCE 101」シリーズの第3弾で、すでに日本で「国民的アイドル」となっていたAKB48グループ(AKB48の姉妹グループも含む)の所属メンバーも参加したことで日本国内でも話題を呼んだ。最終的には、日本人メンバー3人を含む12人からなるIZONEが結成されている。

番組内では、日韓混合のグループでのチーム戦でおこなわれるミッションが数回設けられ、参加メンバーを「練習生」、視聴者を「国民プロデューサー」と位置づける。視聴者の投票によってランキングが決まり、各ミッション終了時点で規定の順位に満たない下位のメンバーから脱落していくルールになっていた。

さらに視聴者に向けて「世界で活躍するグループを皆さんの手で作り上げてください」「あなたの少女に投票してください」と呼びかけ、「視聴者参加型」であることが強調されていく。つまり、「視聴者」に、単に“みる”のではなく、“みて評価”をするプロデューサー=作り手であることを強く意識させ、「参加」を促していくことで、より没入感を得られるような仕掛けになっている。

『PRODUCE 48』が大きなインパクトを与えたことで、日本でのK-POPアイドル、サバ番の受容は益々盛んになっていった。ここには、韓国のメディアエンターテインメント産業側の戦略的なグローバル展開が深く関わり、その一環として日本でのローカライズ(現地化)が進行した側面が強くある。

一方で、K-POPアイドル、さらには、サバ番というコンテンツそのものを愛好するファンを巻き込んで形成されていくファンダムの草の根的な実践(=ファンによる自発的な活動)が、K-POPのグローバル人気を支えていることもまた無視できない。

『BOYS PLANET』におけるファンの実践

2023年に制作され、2025年に第2弾が日本でも配信されシリーズ化している『BOYS PLANET』(Mnet、日本ではABEMAで配信)からは、まさに、こうしたコンテンツの制作過程に参加するグローバルなファン実践の様子が浮き彫りとなる。

『BOYS PLANET』は、「グローバルスター/アイドル」を生み出すための「グローバルオーディション」をうたい、世界各国から集まった参加者がデビューをかけてサバイブしていくさまを描く。「スタークリエイター」と呼称される番組視聴者は、Mnet Plusという公式アプリを使用して投票(「グローバル投票」)を行うことで、番組制作やアイドルグループの創造に参加していくことになる。ここでも、「視聴者参加型」が重要な要素となっている。

「スタークリエイター」は、「推し」(愛好し応援する対象)をデビューさせるために、様々な実践を行っていく。まずは、番組のなかで紡がれる物語や参加者のキャラクター像を消費するなかで「推し」を見つけ、アプリを通じて投票を行う。そうして見つけた「推し」の魅力を他者にPR(ファンの間では「布教」と言われる)するため、関連画像や動画、いわゆる布教シート等を作成しSNSで発信したり、公式アカウントからあがってくるパフォーマンス動画の再生回数を上げるなどして、当該メンバーの順位の変動と関わっていく。さらには、メンバーの家族が営む飲食店やファンによる応援広告が掲示されている場所といった「推し」のゆかりの地を訪れる聖地巡礼により、自分と「推し」との間の物語が付加されていく。同時に、ソーシャルメディア上でこれらの様子が他の「スタークリエイター」に共有され、伝播していくことで、協働的な実践としての意味合いを帯びていく。こうして、「スタークリエイター」の間で、帰属意識が醸成されたり、競争心が芽生えたり、「推し」を介した視聴者同士の物語が付与されていくことになる。

2025年ABEMAで配信したボイプラ2の展示(渋谷駅地下通路)

「スタークリエイター」は、マスメディア、ソーシャルメディア、現場という分かち難く結びついた3つの空間を横断しながら、本コンテンツに関わる様々な情報や派生コンテンツに接し、他のファンと交わしあう。そのなかで、国籍や言語文化圏を越境して他の視聴者と協働しながらコンテンツ/アイドルの生成に深く関わっていく。

ファン参加型の課題とこれからの展望

このように、多様なメディアプラットフォーム上を行き交い自らの実践に積極的に意味付けする受容者は、視聴者や消費者であるだけではなく制作に影響を及ぼす「参加するファン」として捉えられる。ファン研究においては、こうしたファンのあり様は「参加型文化」という文脈から論じられており、『BOYS PLANET』の「スタークリエイター」の実践はその象徴としてみることができよう。

一方で、ファン参加型文化においては、コンテンツ制作過程で得られる利益がファンに十分に還元されておらず、無報酬労働者としてファンが搾取されてしまっているのではないかとの議論がある。しかし、ファンを受動的で搾取される側であると単純化することはできない。ファン同士で連帯し、協働的ふるまい自体に価値を見出していくファンもおり、ファン/ファンダムの複雑性にも目を向けていく必要がある。

さらに、サバ番では、参加者同様に多様なルーツやバックグラウンドを有する者からなるグローバルなファンダムが形成されていっている。それゆえ、ファンの間の差異、隔たり、せめぎあいといった連帯や協働以外の側面についても照射するような調査研究が今後は求められていくだろう。

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(第1回)日本のアイドル文化は『スター誕生!』から始まった【太田省一】
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プロフィール

田島悠来(たじまゆうき)

帝京大学文学部社会学科准教授。専門は文化社会学、メディア文化研究。「アイドル」やそのファン、「推し/推し活」のメディア報道や表象について分析、関連フィールドワークを実施し、アイドル/推し文化の変遷や社会における意味や役割について考察。著書として『「アイドル」のメディア史―『明星』とヤングの70年代』(森話社)、『アイドル・スタディーズ―研究のための視点、問い、方法』(明石書店)などがある。


本書は、2020年度に放送文化基金が助成した研究「アイドルオーディション番組の総合的研究」の成果をまとめたもの。
『スター誕生!』『ASAYAN』などの歴史的な番組から海外の事例までを体系的に整理し、「オーディションを通して社会を考える」という新しい切り口で論じた初の“オーディション・スタディーズ”。
アイドル文化やメディア研究に関心のある方におすすめの一冊です。

  • 編著者:太田省一 / 塚田修一 / 辻泉
  • 発行所:青弓社
  • 発行日:2025年9月2日

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