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新人ディレクターの挑戦に出会う――『令和に足りないテレビ』

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【第24回】『令和に足りないテレビ』(TBSテレビ・2026年1月19日放送)

19日深夜に偶然見つけたこの番組は入社1年目の若手ディレクターによるものらしい。

番組サイトには「昨年TBSに入社した若手ディレクターの企画! TBS史上最速で企画が採用された、最年少ディレクターが手掛けたバラエティ番組」とある。その内容は、「令和の日本社会に足りないアレコレについて、トークやVTRを交えながら徹底的に追求する超社会派バラエティ」とされている。

MCはせいや(霜降り明星)、ゲストとして劇団ひとり、屋敷裕政(ニューヨーク)、そして渋谷凪咲。

番組が扱った「令和に足りないもの」は、「令和の曲にはイントロが足りない」「AIとリアルを見分ける“術”が足りない」「赤ちゃんの喜ばせ方が足りない」「不要なLINEグループを気持ちよく退会する方法が足りない」の4本。

たとえば、最初の「令和の曲にはイントロが足りない」では、令和のヒット曲にはイントロがまったくなかったり、極端に短かったりするものが多い一方で、昭和・平成の時代には、イントロが長い曲が数多くあったことが紹介され、その違いを検証する。この切り口は興味深い。

専門家の意見としては、サブスク時代にあって曲が次々と飛ばされるなか、サビから始まる曲が増えているという事情に加え、イントロは作曲とは別に編曲家が担当し、もう1曲分の労力がかかるのに、その手間が正当に評価されにくいという現実も語られる。こんなところにまで「コスパ」や「タイパ」が影響しているとは……。

一方で、昭和・平成時代にイントロが長かった理由として、歌番組ならではの演出が関係していたという。

番組では、時代によって変化するイントロの未来に触れていた。Mrs. GREEN APPLEの「ライラック」が大ヒットしたことで、イントロのある曲が増えたのではないかという見方や、ライブに行く人が増え、ライブ会場ではイントロがあったほうが盛り上がるのではないか、という意見も紹介される。イントロは完全に消えるのではなく、形を変えながら残っていく可能性が示されていた。

ほかにも、「赤ちゃんの喜ばせ方が足りない」では、今も昔も赤ちゃんを喜ばせるのはなぜ「いないいないばあ」に行き着くのかを掘り下げ、「AIとリアルを見分ける術が足りない」では、最新のAI事情を題材に、検証が行われた。

なかでも印象に残ったのは、「ホンモノかAIによるものか見分けることは不可能」という結論に至ったあと、番組が用意していたひとひねりだ。詳細は伏せるが、「この番組もAIに侵されています」という問いかけから始まる展開には、正直なところ、ここまでは“なるほど”どまりだった気持ちを覆され、これは一本取られたな、という思いにさせられた。

また、最後の「不要なLINEグループを気持ちよく退会する方法が足りない」では、いつの間にか増えていくLINEグループと、抜けるときの気まずさが取り上げられる。たしかに、身に覚えのある人も多いテーマだろう。

スタジオでは、渋谷凪咲が自身のLINE画面を確認する流れの中で、アイドルグループにおける人間関係の距離感が、思いがけず浮かび上がる場面もあった。

番組では、若い人たちが実践しているLINEグループの“抜け方”や、LINEをめぐるちょっとした人間ドラマを紹介する。詳細はさておき、誰もが一度は経験したことのあるやりとりに、スタジオが盛り上がる。

そんなこんなで番組はあっという間に終わった。専門家に訊いて解決する構図は『チコちゃんに叱られる!』を思わせるし、最後のLINEグループを動かすくだりは『有吉反省会』の企画にも似ているような……。とはいえ、テレビバラエティの長い歴史の中で、まったく新しいものを生み出すこと自体が難しいのも事実だ。どこか既存の番組に似ていたり、影響を受けていたりするのは自然なことで、その中にいかに自分らしさを投影できるかが、勝負なのではないか。全体としてよくできていたと思う。昭和・平成と令和を比較する企画自体は珍しいものではないが、どう差別化していくのかは今後の課題でもあるだろう。

スタッフロールに「企画・演出 福西諒」とあったので、その名を覚えておくとしよう。彼が次にどんな番組を見せてくれるのか楽しみだ。

もしかすると、今のテレビに本当に足りないものは、こうした若手を本気で育てようとする覚悟なのかもしれない。そういう意味で、この番組は、新人ディレクターにチャンスを与えるという姿勢そのものが、一つのメッセージになっていたように思う。

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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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