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配信時代、日本のバラエティはどう戦うのか〜『ラヴ上等』と『フィジカル100』から考える現在地【長谷川朋子】
連載コラム▶▶▶いま、気になるコンテンツ “その先”を読む #7

最近、「みんなが見ているバラエティ」が、必ずしもテレビから生まれているとは限らなくなった。世間で話題になるバラエティは、もはや地上波に限らない。Netflixオリジナルの恋愛リアリティショー『ラヴ上等』は、その象徴的な存在だ。同作は日本のみならず、アジア各国のランキングにも登場し、日本のバラエティが配信という文脈で見られていることを印象づけた。いま問われているのは、作品が海外に出られるかどうか、という話ではない。配信時代に日本のバラエティ番組は、どのような制作設計で世界と向き合うのか。その問いだ。
日本ローカル文脈の恋リアが国境を越える
日本のバラエティは、これまでも海外で一定の評価や成功例を積み重ねてきた。フォーマット輸出を通じて、日本発のアイデアが世界に広がった歴史もある。官民一体の業界団体、一般社団法人放送コンテンツ海外展開促進機構の調査によれば、1980年代から現在までに、フォーマット販売をもとに海外の現地で制作された日本のバラエティ番組は90作品以上、制作話数にして1万2000話を超える。アジアでは突出した実績だ。
さらに、リアリティショーやゲームショー、トークショーが主流の海外と比べ、日本は多様なスタイルを抱えながら、番組を作り続けてきた。そうした歩みは、ガラパゴス的にバラエティ制作文化を育んできた結果とも言える。
また、それらの多くは、「放送番組」としての文脈を前提にした展開だった。配信が主戦場となりつつあり、視聴環境や番組の届け方が大きく変わった現在、同じ延長線上で語ることはできない。そうした変化を象徴する存在の一つが、Netflixオリジナルの恋愛リアリティショー『ラヴ上等』なのである。
『ラヴ上等』は、2025年12月の配信開始以降、4週連続で日本のランキング1位となった。香港、韓国、台湾でもTOP10入り、日本発の恋愛リアリティが海外でも視聴されていることがわかる。
この番組が特徴的なのは、参加者たちが駆け引きや炎上回避を意識するよりも、感情を極めてストレートにぶつけ合う点にある。これまで日本の恋愛バラエティは、どこか奥ゆかしく、感情表現を抑えたものとして受け止められることが多かった。そのイメージとは対照的に、『ラヴ上等』では、言葉や態度がそのまま感情として前面に出る。
その結果、元ヤンキーという参加者の属性も含め、彼らの言葉や振る舞いは“演出されたキャラクター”というよりも、番組全体の空気感として共有されていった。「水はやべえだろ」といったフレーズがミーム化したのも、その延長線上にある。
企画・プロデュースを担ったのがタレントのMEGUMIであることも、この番組の成り立ちを物語っている。既存の制作慣行にとらわれない発想を積極的に取り込むNetflixの姿勢が、日本ローカルな文脈の恋愛リアリティを、国境を越えて共有されるコンテンツへとつなげた。
空間そのものが視聴体験を形づくる
もっとも、『ラヴ上等』が示したのは、日本的な感情表現がそのまま海外でも通用するという単純な話ではない。大切なのは、感情そのものよりも、視聴者が「これは自分にも分かる」と感じられるかどうかだ。これは『ラヴ上等』に限らず、ヒットするリアリティ番組に共通している。番組参加者がどんな状況に置かれ、どんな関係性の中にいるかが腑に落ちれば、視聴者は自然とそこに気持ちを重ねていく。
その考えを、番組の設計としてより徹底している例がある。アジア発の配信バラエティとして早い段階から注目を集めた、Netflix韓国オリジナルのサバイバルリアリティ『フィジカル100』だ。

「完璧な肉体を持つ者はいったい誰なのか?」というシンプルな問いのもと、年齢や性別、職業も異なる100人の参加者が身体能力を競い合う。一見すると筋肉自慢のサバイバルのようだが、本作が描こうとしているのは、単なる強さ比べではない。映画やドラマを思わせるスケール感のあるセットや、石膏の胴体といった象徴的なビジュアルも相まって、競技そのものだけでなく、「どんな強さが評価されるのか」を考えさせる空間そのものが視聴体験を形づくっている。
2023年1月にシーズン1が全世界配信されると、ドラマ以外の韓国発コンテンツとして初めて、Netflixの週間グローバルTOP10(非英語TV部門)で世界1位となった。2024年3月配信のシーズン2も、配信初週に同ランキングの首位に立っている。数字を見ても、『フィジカル100』が世界に届いた作品であることはわかる。
シーズン2の撮影が進められていた時期、ソウル現地で実際のセットを前に、制作陣から話を聞く機会があった。その際、プロデューサーのチャン・ホギ氏が繰り返し口にしていたのが、「できる限り原始的なクエストを目指した」という言葉だ。
ここで言うクエストとは、番組内でそう呼ばれている、生き残りを懸けた競技のことを指す。モーターや電化製品など、競技の結果を左右しかねない要素はあえて使わず、当日のトラブルが起きにくい環境を徹底する。そうすることで、勝敗を分けるのは運や装置ではなく、参加者一人ひとりの身体能力そのものになる。番組は、その状態を意図的につくり出そうとしていた。
重要視したのは、「誰もが挑戦できる一方で、能力や強さの違いがきちんと浮かび上がること」だったという。どんな力が“強さ”として立ち上がるのか。視聴者は、何に心を動かされるのか。そうした問いを何度も行き来しながら、競技や空間の設計が詰められていった。参加者が競技に没頭していくほど、視聴者もまた、その世界に引き込まれていく。そうした没入感こそが、この番組の大きな特徴だ。
日本のバラエティが本来持っている強み
韓国の『フィジカル100』は、単発のヒットというより、近年の流れの中で捉えたほうがわかりやすい。料理人対決バトルの『白と黒のスプーン』や、恋愛リアリティの『脱出おひとり島』など、ジャンルの異なる韓国発バラエティが、Netflixから次々と海外に広がっている。いずれも筋肉、料理、恋愛と、題材そのものは決して目新しいものではない。にもかかわらず幅広い地域で視聴者を引きつけているのは、結局のところ、参加者を思わず追いたくなる作りになっているからだ。
こうした韓国発バラエティの広がりは、日本のバラエティにとっても無関係ではない。韓国の成功が示しているのは、バラエティの“正解”が変わったというより、視聴体験の設計が、より意識的に問われるようになったということだ。今こそ、日本のバラエティが本来持っている強みを改めて考えてみることが、大事なのかもしれない。
韓国発の配信バラエティは、競争を前提とした社会の感覚を、そのまま番組構造に落とし込んでいるように見える。一方で、日本のバラエティは、必ずしも勝ち負けや脱落を前面に出してきたわけではない。連帯感や関係性、建前と本音の揺らぎといった要素を、長い時間をかけて育ててきた。
たとえばNetflix日本発の恋愛リアリティ『ボーイフレンド』は、関係性が静かに積み重なっていく時間そのものを見せる。勝ち負けを競わない構成は、日本のバラエティが大切にしてきた「空気」や「間」とも相性がいい。

配信時代のバラエティをめぐって語られがちなのは、「何が世界で通用するのか」という問いだ。しかし本当に問われているのは、日本のバラエティがこれまで得意としてきた感覚を、どのような形で視聴体験として差し出せるのか、ということなのかもしれない。勝ち負けか、その先の関係性か。そうした二項対立を超えたところに、プラットフォームを問わず、日本のバラエティが次に進むヒントがあるように思える。
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多様化する映像コンテンツの世界で、いま本当に注目すべき作品とは?本連載コラムでは、国内外の番組制作やコンテンツの動向に精通するジャーナリスト・長谷川朋子さんが、テレビ・配信を問わず心を動かす作品を取り上げ、その背景にある社会の変化や制作の現場から見えるトレンドを読み解いていきます。単なる作品紹介にとどまらない、深い洞察に満ちたコンテンツガイドです。
著者・プロフィール

長谷川朋子 (はせがわともこ)
ジャーナリスト/コラムニスト。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに独自の視点で解説した執筆記事多数。「朝日新聞」「東洋経済オンライン」などで連載中。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約15年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはコンテンツ・ビジネス分野のオーソリティとして活動中。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)など。
“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。
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