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日本のアイドル文化は『スター誕生!』から始まった【太田省一】

アイドル・オーディション番組が映す現代社会(連載第1回)

                                        

昨年9月、『アイドル・オーディション研究~オーディションを知れば日本社会がわかる』(青弓社)が刊行されました。本連載は、その一冊を起点に、執筆者がリレー形式でアイドル・オーディションという現象を読み解きながら、日本のアイドル文化、そして私たちが生きる現代社会の姿を多角的に考えていく試みです。第1回は、現代のオーディション番組の原点とも言える『スター誕生!』から始めます。

1971年はアイドル元年

1971年10月3日は、日本のアイドル史にとって記念すべき日である。この日、日本テレビのオーディション番組『スター誕生!』(以下、『スタ誕』)の第1回が放送された。司会は人気コメディアンの「欽ちゃん」こと萩本欽一で、日曜午前11時台の放送である。

 「アイドルの最初は誰か?」が話題になるとき、しばしばあがるのが南沙織の名だ。実は、南が「17才」でデビューしたのも同じ1971年のことだった。

 こうして1971年は、日本におけるアイドル元年になった。「アイドル歌手」のパイオニアが南沙織とすれば、歌手だけでなくファンやメディアも関わりながら築き上げる「アイドル文化」の礎になったのが『スタ誕』。そう言えるだろう。

「花の中3トリオ」から中森明菜、小泉今日子まで輩出した『スタ誕』

『スタ誕』が注目されたきっかけは、森田昌子の登場である。抜群の歌唱力を武器に初代グランドチャンピオンとなった森田昌子は当時13歳という破格の若さ。芸名を「森昌子」として歌ったデビュー曲「せんせい」(1972年)もヒットして、一躍人気歌手に。

その森田昌子の姿をテレビで見ていたのが、同学年だった山口百恵である。『スタ誕』を見た山口は「私にもできるかもしれない」と思い、オーディションに応募する(山口百恵『蒼い時』、116-117頁)。後に森、山口とともに「花の中3トリオ」の一角となる桜田淳子も、同様に森昌子を見て応募したひとりだった。

そしてこの3人に導かれるように、10代の若者が次々とデビューして人気歌手になっていく。岩崎宏美、伊藤咲子、ピンク・レディー、石野真子などはみな『スタ誕』出身である。

こうした歌手のことを、世間はいつしか「アイドル」と呼ぶようになった。番組タイトルが「スター」を使っているように、制作側は「アイドル」を特に意識したわけではなかった。だが実質的に「アイドル」の時代がここから始まった。『スタ誕』は1983年9月まで全619回続いたが、80年代にも中森明菜や小泉今日子など、時代を代表するアイドルを輩出し続けた。

オーディション番組が発見させた「未完成の魅力」

では、なぜ『スタ誕』から多くのアイドル歌手が生まれたのか? そこには、公開オーディションという形式ならではの特質が関係している。

従来、歌手は有名作曲家などのもとで厳しいレッスンを積み、プロとして一定の水準に達したと認められて初めてデビューすることができた。つまり、完成度が重視された。

ところが『スタ誕』では、オーディション番組であるがゆえにデビュー以前の歌手の姿が公開されることになった。当然従来の基準では実力不足とされるような出場者もいた。だが視聴者は、欠点を克服しようと懸命に努力する姿に逆に惹きつけられた。成長するプロセスを見せるオーディション番組は、「未完成の魅力」を視聴者に発見させたのである。

背景には、1960年代の高度経済成長によって「一億総中流」と言われる状況が達成されたことがあっただろう。日本社会全体が平均して豊かになるなかで、疑似家族的な一体感も強まった。そのなかで視聴者は、『スタ誕』に出てくる10代の若者たちを保護者感覚で見守るようになる。アイドルを形容する常套句である「かわいい」も、そうした感覚に裏づけられたものだろう。

テレビはその疑似家族的一体感を支え、また強化した。1960年代に急速に普及したテレビは、この頃には国民的娯楽の中心になっていた。

そうした時代の流れを敏感に察知していたのが、『スタ誕』の企画者であり審査員でもあった作詞家の阿久悠である。広告代理店で働き、放送作家でもあった阿久は言う。「テレビの時代の、テレビの感性における歌や歌手やタレントの必要性は切実で、それは、茶の間の空気の中で、ごく自然に振舞える個性であった」(阿久悠『夢を食った男たち』、30頁)。

つまり、阿久は『スタ誕』を通じて「テレビ時代のスター」を生み出そうとした。

「茶の間の空気」とあるようにテレビは日常性のメディアであり、視聴者は芸能人に親近感を求めるようになる。その点、従来のプロの歌手よりも、『スタ誕』に出てくる出場者のほうが有利になる。完璧ではないが、努力を重ねてデビューを目指そうとする一般の出場者は、私たち視聴者の似姿にほかならない。だから自然に応援したくなる。

『スタ誕』が先取りした一般審査員の存在

いうまでもなく、ファンとの近さは現在もアイドル文化の基盤にあるものだ。そしていまやインターネットやSNSの普及によってアイドルとファンの距離はますます近いものになった。誹謗中傷のような問題も深刻化する一方で、両者の交流も盛んになった。

そうしたアイドルとファンの距離が近くなっていく萌芽は、すでに『スタ誕』の審査方法のなかにあった。

『スタ誕』では、阿久悠、都倉俊一、松田トシ(松田敏江)といった作詞家や作曲家、声楽家がプロの視点で審査し、時に手厳しい言葉を出場者に投げかけ、それが話題にもなった。

だが、『スタ誕』には一般人による審査もあった。収録会場の観客が一般審査員となって投票する。しかもプロの審査員と一般審査員の比重は同じだった。審査員5人が1人100点ずつで計500点。一般審査員の持ち点も全部で500点。合計1000点で、出場者7組のうち、250点以上獲得した出場者が合格となる。

石野真子は、一般審査員の投票だけで280点を獲得して合格した記録を持つ。この石野のエピソードは、近年のオーディション番組における視聴者投票方式の審査を連想させる。視聴者を「国民プロデューサー」と呼び、そのネット投票だけで合格者を決める『PRODUCE101 JAPAN』は好例だ。同番組では、今年海外の視聴者にまで投票権を広げた同様のオーディションも予定されている。

ネットの普及によって、オーディションへの視聴者参加はますます拡大している。そこには「ファンの声」を反映した理想の達成という側面もある。だがパフォーマンスの質を維持するという意味で、オーディションに「プロの眼」は必要という考えかたもあるだろう。

“人買い批判”が意味するもの~オーディション番組が抱える課題

また『スタ誕』には、現在に通じる課題を示唆する出来事もあった。

『スタ誕』のクライマックスは、公開スカウトの場面である。予選を勝ち抜いた出場者が臨む決戦大会の会場には、レコード会社と芸能事務所のスカウトが客席にずらりと陣取っている。出場者がスカウトたちの前に立ち、スカウトが持つプラカードが上がれば合格となり、デビューが決まる。最高記録は、桜田淳子の25社である。

ところが、当時その場面に対して「人買い」ではないかという批判記事が掲載された。阿久悠やスタッフに、もちろんその意図はない。むしろ芸能界の不透明なイメージを払拭すべく、選考過程の透明化を図ったものだった。

だが10代の若者が何十人ものスカウトの目の前で緊張して結果を待つ姿は、過酷という印象を与える面もなかったとは言えない。しかも当然とはいえ、そこにはエンターテインメントの持つ容赦のないビジネス的側面がむき出しになっている。

より大きな観点から言うと、“人買い批判”が示唆するのは「選ぶ/選ばれる」という関係性に入り込む権力性の問題である。公開スカウトは権力性の度合いを緩和しようとしたものだった。しかしそれが逆に、権力性を白日の下にさらしたように受け取られた。この件ひとつをとってみても、オーディションにおける権力構造の問題を解決することは容易ではない。

とはいえ、一昨年から昨年にかけて人気を呼んだオーディション番組には、そうした権力構造から脱しようという方向性も見える。

男性アイドルグループのtimeleszが新メンバー選考のため開催した『timelesz project』では、審査員は現メンバーで「仲間探し」というコンセプトを掲げた。またちゃんみなが審査を務めた『No No Girls』では、ルッキズムなどの固定観念にとらわれず、候補者たちに徹底して寄り添った。いずれも社会現象となるほど多くの関心と共感を集めた。

こうしていまアイドル・オーディションも少しずつ、だが確実に変わりつつある。

プロフィール

太田省一(おおたしょういち)

社会学者・文筆家。テレビと戦後日本社会の関係、アイドル、お笑いやバラエティ番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として『刑事ドラマ名作講義』『放送作家ほぼ全史』(ともに星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『萩本欽一 昭和をつくった男』(ちくま新書)、『水谷豊論』(青土社)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩選書)などがある。


本書は、2020年度に放送文化基金が助成した研究「アイドルオーディション番組の総合的研究」の成果をまとめたもの。
『スター誕生!』『ASAYAN』などの歴史的な番組から海外の事例までを体系的に整理し、「オーディションを通して社会を考える」という新しい切り口で論じた初の“オーディション・スタディーズ”。
アイドル文化やメディア研究に関心のある方におすすめの一冊です。

  • 編著者:太田省一 / 塚田修一 / 辻泉
  • 発行所:青弓社
  • 発行日:2025年9月2日

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