制作者フォーラム
「評価」に飢える若き制作者たち―「2025北日本制作者フォーラムinふくしま」に参加して【稲田豊史】
2025年11月14日(金)、「北日本制作者フォーラムinふくしま」が、郡山市立中央公民館で開催されました。ミニ番組コンテストとトークセッションの2部構成で開催されたフォーラムには、東北6県と北海道の全民放とNHKの制作者を中心に約45名が参加。ゲスト審査員を務めた『映画を早送りで観る人たち』の著者である稲田豊史さんに一日を通して感想を頂いた。
過日、北日本制作者フォーラムでゲスト審査員の任を仰せつかった。北海道・東北のローカル局に所属する若手制作者が制作した21のミニ番組(ドキュメンタリー)を会場で観て、その場で講評、審査を行うのだ。
一言、とても充実した一日だった。
正直、最初にお声掛けいただいたときは戸惑った。自分は文筆業者であり、映像制作者ではないからだ。しかし蓋を開けてみれば、この人選は大成功だったように思う。3人のゲスト審査員のアプローチが、見事に三者三様だったからだ。千野克彦さんは、ベテラン制作者ならではの現場感覚に満ちた質問を次々と繰り出し、辻愛沙子さんは社会課題とのつながりを若年世代ならではの感覚で鮮やかに切り取った。私は私で、主に構成面や編集面の巧みさや画づくりについて、所感と評価を述べた。結果として、21作品すべてが異なる3方向からの光に照射され、その魅力が立体的に言語化されたのだ。

審査後の懇親会では、どのテーブルでも若い制作者たちの熱い叫びをぶつけられた。どなたも私の短い講評をよく覚えており、突っ込んだ感想を求められたり、改善点はないかと詰め寄られたりもした。それほどまでに、普段から「評価されること」に飢えていたのだろう。
ただ、評価されるためには、見られなければならない。しかしローカル局の放送枠では、「見られる範囲」に限界がある。
願わくは、ミニ番組の本編はすべてネット上にアーカイブされていてほしい。感銘を受けた視聴者がSNSで拡散すれば、「見られる範囲」が劇的に広がり、「評価」される機会も爆発的に増大するからだ。評価が多ければ多いほど制作者は刺激を受け、あるいはなにくそと奮起し、その腕を着実に上げていくだろう。
また、私はつねづね、テレビ番組は「誰が作ったか」をもっと打ち出すべきだと考えているが、今回の審査を通じてその思いはさらに強まった。なぜなら、ミニ番組の上映前後に挟まれた制作者の短いプレゼンや審査員とのやり取りに、彼らのパッションや魅力的な人柄が現れていたからだ。

若者の多くがTV番組よりYouTubeを好むのは、作り手の顔(YouTuber)がはっきり見えているからである。それでなくとも現代の視聴者は、その映像を作ったのがどんな人物なのか、どんな想いで作ったのかを知りたいし、なんなら直接話しかけたい。であれば、ローカル局の制作者がYouTubeなりポッドキャストのチャンネルなりを開設し、制作の背景や込められた想いを語り倒すのも手ではないか。全国にその制作者のファンが生まれる可能性もある。

さまざまなことを考え、答えのない問いもたくさん浮かんだ一日だったが、それだけ内容が濃く、問題意識に満ちたフォーラムだったということだ。もしまたこのような機会があれば、ぜひ参加したい。
プロフィール

稲田豊史(いなだ とよし)
ライター、編集者
1974年愛知県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、映画配給会社に入社。その後、出版社でDVD業界誌の編集長、書籍編集者を経て2013年に独立。著書に『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)、『このドキュメンタリーはフィクションです』(光文社)、『ポテトチップスと日本人』(朝日新書)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ぼくたち、親になる』(太田出版)などがある。
稲田豊史さんが審査員として参加した「制作者フォーラムinふくしま」の記事はこちら
「クリエイティブって何?」―「制作者フォーラムin ふくしま」を開催
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