2022年度助成金贈呈式

放送文化基金の2022年度の助成対象が決まり、2023年3月3日、ホテルルポール麹町(東京都千代田区)で助成金贈呈式が開催されました。
はじめに、濱田理事長が「今年度採択されたプロジェクトの中には、日本や欧州の公共放送の財源負担をめぐる研究や地震や津波など災害時のメディアの役割の実践的な研究、技術開発では、立体感が得られる映像システムの研究や最近増えているドローンの撮影技法の開発に関する研究など、時代を捉えたタイムリーなものや斬新なアイディアに富んだものが多くみられます。皆さんにはぜひとも助成金を有効に使っていただき、プロジェクトを着実に進めていただきたいと思います。」と挨拶しました。
引き続き、「技術開発」の今井秀樹審査委員長と「人文社会・文化」の黒崎政男審査委員長から今回の審査について概況報告がありました。

今井委員長

黒崎委員長
2022年度は、技術開発14件、人文社会・文化53件の合わせて67件の申請があり、審査の結果、技術開発6件、人文社会・文化21件の合わせて27件、総額4,281万円が採択されました。助成対象に選ばれた一人一人に濱田委員長から目録が手渡され、記念撮影を行いました。 助成対象に決まったプロジェクトは、2023年4月から2024年3月までの1年間、研究、開発、調査、事業等を実施し、報告をまとめることになります。
その後、成蹊大学理工学部理工学科 助教 山添 崇さんと、名古屋大学大学院情報学研究科 博士前期課程2年 芳賀 美幸さんから各部門を代表して研究の紹介がありました。
技術開発部門 代表挨拶
成蹊大学理工学部理工学科 助教 山添 崇

近年、無人航空機UAVの一種であり、ジャイロ機能によって浮遊する小型のドローンは、宅配サービスや防災・救助活動など幅広い分野での活用が進められており、同様に、映像の世界でもドローンを活用した撮影が注目されています。
ニュースやバラエティ番組でドローンを用いて撮影された映像を視聴したことがある方も多いと思いますが、ドローン映像を長い時間に渡って見るような機会はほとんどありません。ドローンの大きな特徴は、軽快に動き回り、アクロバティックな動きや、爽快感のあるダイナミックな動きが持ち味ですが、このようなドローンの機動性を活かしたドローンにしか撮影できないような映像をご覧になったことがある方は少ないと思います。
放映されている多くのドローン映像は、大きな動きを伴う映像の場合に、非常に短い時間での放映に限られています。もしくは、ゆっくりと視点位置が上下に移動して動く映像や、ゆっくり動きながら、広角で撮影された映像、いわゆる俯瞰視点で撮影された映像がほとんどを占めています。これは、ドローンを浮遊させるジャイロ機能が映像に影響を及ぼすことで映像酔いを引き起こしやすい映像が必ず撮影されてしまう問題が原因です。そのため、ドローンで撮影された映像を放映するには、非常に短い時間に限った視聴や、ジャイロ機能の影響を受けにくい、ゆっくりとした動きかつ、上下移動もしくは広角映像に限定することで、映像酔いを引き起こしにくい安全なドローン映像だけが公開されています。しかしながら、これはドローンに最も期待される機動性を活かした迫力のある映像ではありません。
本研究課題では、映像酔いを軽減する手法を駆使することで、アクロバティックでダイナミックな動きを活かした撮影の手法を可能にし、映画やドラマでも高臨場感なドローン映像を活用できるように、研究者と映像クリエーターが共同で取り組むプロジェクトです。
人文社会・文化部門 代表挨拶
名古屋大学大学院情報学研究科 博士前期課程2年 芳賀 美幸

この度は研究助成の対象に採択いただき、誠にありがとうございます。
私の研究テーマは「罪を犯した人の立ち直り支援に関わるコミュニティラジオの研究」、いわゆる「刑務所ラジオ」の研究になります。刑務所ラジオというのは、刑務所の受刑者からのメッセージや音楽のリクエストを扱ったラジオ番組です。番組のリスナーは刑務所にいる受刑者に限定されていたり、そのラジオ局がある地域の住民だったりと、さまざまです。欧米など世界各地でいろんな形で放送されているのですが、日本の場合は、刑務所の受刑者だけが聴ける形で制作されている番組がほとんどになっています。
私がこの研究テーマを選んだ背景には、現在の刑務所を巡る問題意識があります。一つは、刑務所では収容者が他者とコミュニケーションをとる機会が圧倒的に不足しています。そのことが、受刑者が社会復帰した後に、対人関係のトラブルを含むさまざまな困難を生み、再犯につながっていると考えられます。二つ目は、地域の人にとって刑務所の塀の中にいる受刑者は見えない存在、想像や理解が及びにくい存在です。この二つの点、収容者のコミュニケーション機会の確保と、地域の人が受刑者の声に触れる機会を生みだすために、ラジオを有効活用していけないかと考えています。
プロジェクトの内容は三本柱です。一つ目は国内各地の刑務所で放送されているラジオ番組の包括的な調査、二つ目は刑務所や少年院を出た当事者が出演するラジオ番組の実践研究です。最後に三つ目として、海外における刑務所ラジオの特徴的な事例を調査するとともに、日本の事例についても海外の関係者に紹介して意見交換をしていきたいと考えています。研究を通して誰一人として取り残さないという社会的包摂にメディアがどのように寄与していけるのかを示していきたいと思います。