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2023年度助成金贈呈式

 放送文化基金の2023年度の助成対象が決まり、2024年3月1日、ホテルルポール麹町(東京都千代田区)で助成金贈呈式が開催されました。

 はじめに、濱田理事長が「コロナ禍も終息したことの影響もあってか、技術開発部門では昨年の2倍の申請がありました。研究テーマも基礎研究からAIを取り入れた研究やヒューマンサイエンス分野の研究など多岐に渡りました。人文社会・文化部門ではラジオなど音声メディアに関する研究や海外調査を行う研究が多くありました。制約なく研究ができる環境になったことを嬉しく思うと同時に、皆さんにはぜひとも助成金を有効に使っていただき、プロジェクトを着実に進めていただきたいと思います。」と挨拶しました。

 引き続き、「技術開発」の荒川薫審査委員と「人文社会・文化」の黒崎政男審査委員長から今回の審査について概況報告がありました。


荒川委員

黒崎委員長

 2023年度は、技術開発29件、人文社会・文化50件の合わせて79件の申請があり、審査の結果、技術開発12件、人文社会・文化21件の合わせて33件、総額7,857万円が採択されました。助成対象に選ばれた一人一人に濱田理事長から目録が手渡され、記念撮影を行いました。 助成対象に決まったプロジェクトは、2024年4月から2025年3月までの1年間、研究、開発、調査、事業等を実施し、報告をまとめることになります。

 その後、奈良先端科学技術大学院大学 助教 澤邊 太志さんと、九州災害情報(報道)研究会幹事 田中 俊憲さんから各部門を代表して研究の紹介がありました。

技術開発部門 代表挨拶

「自動走行時の視覚と前庭感覚制御による映像視聴の楽しさ向上評価」
奈良先端科学技術大学院大学 助教 澤邊 太志

 この度は、研究助成の対象研究として採択して頂き、誠にありがとうございます。
 「快適な自動運転の実現」を目指し、利用者や周りの人、そして地球環境にもやさしく、楽しいモビリティを将来作りたいと思っております。
 今回のテーマでは、未来の自動走行環境内で搭乗者が行う活動の中でも特に利用頻度が増加すると考えられる、映像視聴という状況にて、車両挙動の変化等によって発生する予測困難な加速度刺激が搭乗者に与える不快要因を軽減する手法の提案と、その手法の有効性を実自動走行車両による被験者実験によって検証することを目的としています。
 今までの研究では、自動走行車両を使った、ストレス要因の推定や軽減手法の提案による研究、視覚と前庭感覚を制御できるキャビン型の制御システムによって、搭乗者の移動感覚を制御するための手法の効果検証を行ってきました。今回は、この制御システムを改良し、応用することによって、走行中の映像視聴時に搭乗者が受ける急な加速度刺激によるストレス軽減手法の提案と効果検証を第一とし、同時に楽しさを増幅させるアルゴリズム構築を行うことで、目的の達成を行います。具体的には、映像視聴時の臨場感を増加させ、快適性を担保するために、視覚刺激として、異なる映像コンテンツや周辺視野へのエフェクト効果の刺激が人にどう影響を与えるかの印象調査と、前庭感覚の制御として、搭乗者の座っている座席を映像コンテンツに適した制御を行うことによる移動に関する印象評価を行い、自動走行体験の質を向上させることを目指します。
 将来の移動において、安全性や効率性だけでなく、快適で楽しい「自動運転×映像視聴によるエンタメ」を実現させるために、3つの項目である、1.制御アルゴリズムの提案、2.制御手法の効果検証、3.実自動走行車両を用いた実証実験を通して、目的を達成することで快適な自動運転の実現をすることが本プロジェクトの貢献となります。未来の移動空間をより楽しい体験に創造できればと思っております。

人文社会・文化部門 代表挨拶

「災害から命を守る報道を目指して」
九州災害情報(報道)研究会 幹事 田中 俊憲(福岡放送報道部 副部長)

 私ども九州災害情報(報道)研究会は、災害から命を守る情報(報道)を目指し、平成27年(2015年)に、報道機関、国の防災機関、自治体の防災担当、研究者ら20数人で立ち上げました。その後、災害に関するさまざまな情報を共有し学ぶ場として活動してきました。九州北部豪雨や熊本地震など経験したことのない災害が相次いだことで、参加メンバーからは、より実践的な災害報道が必要であるとの声が高まりました。
 放送文化基金の2020年度助成事業でご支援いただき、大雨災害を想定した河川リスク編と土砂災害編の報道用コメント案を冊子にまとめ、報道各社や自治体などと共有しました。地方では学ぶ機会の少ない災害のメカニズムや、気象庁などから発表される情報の仕組みなどについて解説し、伝え手が理解した上で、視聴者にリスクを避けるための具体的な行動を伝えることを目指しています。また、この取り組みでは、防災機関や自治体の担当者と情報の狙いや報道の影響について共有しながらコメント案を作成したことで、より実践的な内容になったと考えています。
 今回、ご支援いただく南海トラフ地震に関する報道用コメント案は、国民だけでなく、伝え手の報道関係者ですら、十分に理解できていない地震や津波、南海トラフ地震臨時情報などについての情報を共有し、不適切な情報を発信しないことを目指します。こうした取り組みは、個別の報道機関でまとめるには限界があり、垣根を超えて連携できる取り組みの種となる放送文化基金の助成事業には、たいへん感謝しております。
 2024年元日の能登半島地震では、海底の隆起などによって津波観測データが更新されないなど、伝える側が想定できていない事象が発生し、私どもはリスクを十分に伝えることができなかったと考えています。今回の取り組みによって1人でも多くの命が救われる災害報道の実現を目指してまいります。