HBF 公益財団法人 放送文化基金

文字サイズ:

HOME助成2018年研究報告会を開催しました。

助成

2018年研究報告会を開催しました。

放送文化基金は、これまでに助成したプロジェクトの成果を発表する場として、
助成金贈呈式とあわせて研究報告会を開催しています。

 放送文化基金の平成29年度の助成対象が決まり2018(平成30)年3月2日、東京・平河町のホテルルポール麹町で助成金贈呈式が開催されました。贈呈式は、第1部研究報告会、第2部助成金目録贈呈、そして懇親会の3部構成で行なわれました。
 第1部の研究報告会2018は、技術開発部門より、愛媛大学大学院 理工学研究科 教授 藤田欣裕さんから『放送と通信における複数映像の同期表示に関する研究』ついて、人文社会・文化部門より、京都精華大学 マンガ学部 准教授 小泉真理子さんから『日本アニメーション現地化の現状と課題 ~文化ビジネスの発展のために~』についての報告がありました。報告会には約80名が参加し、質疑応答の時間にも活発な意見交換が行われました。

報告① 技術開発部門(平成27年度助成)

『放送と通信における複数映像の同期表示に関する研究』
愛媛大学大学院 理工学研究科 教授 藤田 欣裕

 視聴者からの投稿映像などが放送で使用される機会が多くなっている。その中には複数の異なる地点から同時に撮影された映像も多く、それらの映像を同期してテレビ番組などへ表示できれば、よりわかりやすいコンテンツ制作に寄与できると考える。このようなシステムの実現とともに、映像ビッグデータと呼ばれる中で必要な映像の検索を容易にすることを本研究の目的とした。
 視聴者映像を含めた、より広い配信システムを考慮し、時刻同期のためのメタデータを含んだ要求条件を検討し、最適な蓄積フォーマットを示した。提案したフォーマットを検証するためAndroid TVのアプリケーションとして、またHTML5ブラウザによるPCシステムを試作し、有効性を明らかにした。
 複数端末で受信されるコンテンツ間の同期提示については、絶対時刻を扱うUTC(User Datagram Protocol)を使用し、タイムスタンプを用いたMMT(MPEG Media Transport) が有効である。複数の映像を同期して表示するため、HTTPでアクセスできることなどの要求条件を整理し、かつ通信コンテンツを扱うため、複数の蓄積フォーマットの比較を行なった。その結果、MMTをベースとしたSimple MPU方式が最も良いことを示した。Simple MPU (Media Processing Unit)方式は、伝送されてきたIPパケットからMMTP(MMT Protocol)パケットを抽出し、映像音声コンテンツのMFU(Media Fragment Unit)をまとめてMPU単位にファイル化する。また制御情報であるMPTをファイル化する。その際、MPTに記載されている各MPUのロケーション情報を上記ファイル化した内容に合わせ書き換えて蓄積する方法である。他の方式に比べ目的とする映像を検索するための処理時間が短いことが利点である。
 全体の映像システムについては、Android TVに実装したアプリケーションにより検証を行った。その結果、4画面で同期再生をTV画面上に表示が可能であることを示した。またHTML5ブラウザを用いたPCシステムによる性能確認の結果、提案システムが実現可能な処理時間で動作し、スマートデバイス等を用いて簡単に実現可能で、サービスとして所望の動作を行うことを実証した。


・平成27年度助成「放送と通信の多元同期および表示方法に関する研究」

プロフィール
東京大学工学部電気工学科卒業、1976年NHKに入局。同放送技術研究所にて高精細映像システム、放送ネットワークシステムの研究開発および研究管理業に従事。2007年同放送技術研究所副所長、2010年より現職。放送と通信ネットワークを利用した新たなシステムの研究に取り組んでいる。映像情報メディア学会フェロー、IEEE(米国電気電子学会)フェロー。

報告② 人文社会・文化部門(平成26、27年度助成)

『日本アニメーション現地化の現状と課題 ~文化ビジネスの発展のために~』
京都精華大学 マンガ学部 准教授 小泉 真理子
 

 近年、経済や外交における文化の重要性が高まっている。とりわけ我が国においては、戦後の経済発展を導いた工業製品が国際競争力を失う中、新たな輸出産業として文化産業が期待されている。アニメーションやマンガに代表される日本のコンテンツは、クールジャパンとして、海外で人気を博しており、今まさにビジネス体制を整備し、海外へ輸出する機は熟している。
 これらのコンテンツを海外へ輸出するためには、言語の翻訳に加えて文化習慣の違いを埋める「現地化(ローカライゼーション)」が必要であるが、その実態は把握されていない。今回は、ローカライゼーションの現状と課題を明らかにするために、米国の日本アニメーション(以下「アニメ」)を対象として、米国において、インターネット配信事業者等に多くのインタビュー調査を実施した。
 米国におけるアニメ輸出の歴史をローカライゼーションの観点からみてみると、1963年に日本初のテレビアニメシリーズが輸出された当時から、多くの編集が加えられた。その理由は、日米の放送スケジューリングの違いと、米国文化では不適切と捉えられる描写(人種や宗教等)である。そして1990年頃を過ぎると、アニメが一般に認知されるに至り、日本製への意識も生まれ、日本側が最終的に編集内容を決定する体制も組まれるようになった。
 2010年以降の米国アニメ市場を、①コアなファン ②ライトなファン ③子供に分けると、ローカライゼーションの内容を明確に体系化できる。①コアなファンは、オリジナルに近い形でできるだけ早く視聴したいため、アニメ専門サイトによるサイマル配信で視聴し、改変内容は言語の逐次訳のみである。②ライトなファンは、気軽にアニメを楽しみたいため、字幕よりも吹替えを好み、一般の動画配信サイトまたはテレビ放送で視聴する。③子供は日本製との意識は低く、主にテレビ放送で視聴するため、言語を吹替えるだけでなく、多くの内容を改変する。
 さらにどのように内容が改変されているかを、細かく分析したところ、①言語の翻訳に加えて、②放送局内の倫理規定の適用、③文化の差異の補正、④魅力を増すための編集に区分できた。②放送局内の倫理規定の適用とは、各テレビ局内には放送倫理基準部があり、連邦通信委員会(FCC)の規制に則った上で、暴力、言葉、武器等につき独自基準を設けている。そして、③文化の差異の補正とは、例えば箸をナイフとフォークに修正するといった生活習慣等が挙げられる。最後に予算や編集の時間がある場合には、音楽をアップテンポな曲に変更するといった④魅力を増すローカライゼーションも行われている。
 ローカライゼーションを成功させるためには、日米間の円滑な連携や、アニメの制作段階からの考慮が求められる。現在のアニメ業界はこれらの課題にすぐに対応できる状況とはいえない。日本アニメの魅力を失わずに、より多くの世界の人に楽しまれるために、いかにビジネス体制を整備するかを、これからも産官学で考えていかなければならない。


・平成26、27年度助成「国際展開におけるコンテンツのローカライゼーション手法に関する研究」

プロフィール
東京大学大学院博士後期課程修了(博士(環境学))。専門は文化経済学。三菱商事株式会社にてインターネットのビジネス企画、慶應義塾大学にてポピュラーカルチャー研究に従事、カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員等を歴任。著書(共著)に" Transnational Contexts of Development History, Sociality, and Society of Play"、『映像コンテンツ産業とフィルム政策』、"Culture Web"、著書(監修)に『アニメーター労働白書』等。