HBF 公益財団法人 放送文化基金

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放送文化基金賞

受賞のことば 第49回 ドキュメンタリー部門

最優秀賞

性別は誰が決めるか
〜「心の生」をみつめて〜

(北海道放送)

 「実は赤ちゃんができました」この報告を受けたのは、いまから2年前の夏でした。LGBTQという言葉が取り上げられ認識は広がっている中でも、いまだに差別や偏見は後を絶ちません。自身のセクシャリティを公表するには勇気を必要とする中で、自身の「性」や「妊娠」というデリケートな事柄について語ってくれたきみちゃん、そして取材を受けてくださった全ての方たちに頭が下がる思いです。取材をしている中で、私は何度も「彼らは(自分と)違わない」と感じました。誰しもが持ちうる、「自分らしく生きたい」「誰かと生きていきたい」という思い。ご覧いただいた多くの方たちに1つでも、「共通点」を見つけていただけたらと思います。
北海道放送 泉優紀子

優秀賞

NHKスペシャル
海辺にあった、町の病院

〜震災12年 石巻市雄勝町〜
(NHK仙台放送局)

左から高橋憲吾さん、谷本奈々さん、
松本真理子さん

 雄勝病院は、地域の方と家族的な関係を築き、親身なケアを施す病院だったそうです。町民なら誰もがお世話になった病院だから、いわば全員が関係者。亡くなった方の顔も、家族の苦しみも知っている。だからこそ町には、多くを語らず互いを守りあう空気が漂っていました。そんな地域の病院で起きたあの日の出来事を、どう捉えればいいのか。“命を守る人の命”を、どう考えればいいのか…最後まで答えの出ない取材でした。この番組は、正解や結論を求める番組ではありません。お一人お一人が、自分ごととして考えるきっかけになれば幸いです。私たちも見つめ続けていきます。最後に、ご協力くださった関係者のみなさまに、心より感謝申し上げます。
番組ディレクター 高橋憲吾 谷本奈々 松本真理子

奨励賞

ETV特集
「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態〜」

(NHK)

左から持丸彰子さん、青山浩平さん

 弱い立場にある人たちの命と尊厳が踏みにじられているこの国の実情を、少しでも多くの方に知っていただくことで、社会がより良い方向に変わっていくことを切に願っています。番組制作にご協力いただいた全ての皆様に深く御礼を申し上げつつ、引き続き取材に尽力して参ります。
NHK 持丸彰子

 一度内実を知ってしまったら見て見ぬふりはできない。それが精神科の取材です。なぜこのようなことが起き、放置され、社会で見て見ぬふりがなされているのか。番組は複数の内部告発者と弁護士の尽力で見えてきた実態です。間に合わず亡くなられた患者たちに思いを寄せつつ、繰り返さないためにはどうすればよいか、考え続けています。
NHK 青山浩平

奨励賞

こどもホスピス
〜いのち輝く“第2のおうち”〜

(朝日放送テレビ)

 重い病気や障害を抱えていても子どもたちは友達やきょうだいと遊びたいし、新しいことに挑戦したい、学びたい、やんちゃもしたい。その当たり前の好奇心に全力で向き合う「こどもホスピスケア」の優しさに胸を打たれ、この温かさこそ何よりも伝えたいと考えました。取材者として「他者の不運をただ消費してしまっていないか」という内なる恐れ・不安があったのも事実です。そう悩んだ時に必ず振り返ったのは「なぜ取材を受けてくれているのか」という一点でした。この度の受賞をきっかけに各地でこどもホスピス設立の気運が高まればと願っています。厳しい状況の中で貴重な時間を割いてくださったすべての子どもたちや家族に感謝申し上げます。
朝日放送テレビ 長谷川健

奨励賞

にっこり笑って
〜山あいの写真館 10年の物語〜

(高知放送)

 人生の締めくくりを飾る写真、遺影。「ブロマイドみたいなもんやから、その人らしい笑顔を遺してあげたいねえ」と中西さん。写す側と写される側にどんなドラマがあるのかを知りたいと思い、取材が始まりました。
 集落を巡ると過疎高齢化の厳しい現実を目の当たりにします。取材したお年寄りが数年後には亡くなり、空き家になった例は少なくありません。人と人とのつながりが薄れるなか、だからこそ中西さんが遺影を届けた後もお年寄りに寄り添い続けていることを知った時、そのつながりをしっかり見届けたいと思いました。10年にわたり記録できたのは地方局の強みであり、使命でもあると感じています。受賞を励みに今後も地域に根差し、地方の課題を描き出したいと思います。
高知放送 中嶋淳介