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放送文化基金賞

受賞のことば 第44回【番組部門】テレビドキュメンタリー番組部門

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★最優秀賞

BS1スペシャル
父を捜して 日系オランダ人 終わらない戦争

(椿プロ、NHKエンタープライズ、NHK)

金本麻理子さん 塩田純さん 太田宏一さん

 今回の取材で出会った日系オランダ人の母ナニーと日本人を憎む義父との間に生まれた娘マリアン。母娘は“父親を捜す”ことで過去と向き合いました。苦しみながら自問自答していたマリアンの姿が忘れられません。母ナニーも過去を見つめ直し、何度も涙しながら最後にこう語ってくれました。「 “憎しみ”が子どもに連鎖するのを断ちきるため、私は苦しみの置き場を見つけようとした。それは“忘れる”ことではなく“乗り越える”ことです」。私は戦争の傷を乗り越えようとする人間の強さ、家族の絆を前に、心が震えました。
 「すべてを語るので、多くの日本人に見て欲しい、知って欲しい」。それが取材させて頂いた日系オランダの方々の願いでした。
椿プロ 金本麻理子

★優秀賞

メ~テレドキュメント
防衛フェリー ~民間船と戦争~

(名古屋テレビ放送 )

村瀬史憲さん  依田恵美子さん

 この番組に目をとめて下さった皆様に感謝いたします。我々メ〜テレ報道局は戦後70年を機に「戦争は過去にあらず」という方針を掲げ、民間船と戦争の関係を取材し続けています。徴用によって兄を失った男性は「いつの間にか戦争の中にいた」とディレクターに語りました。「防衛フェリー」は朝鮮半島情勢が緊迫していた局面で、民間を組み込みながら進められている国防政策の一断面を伝えたくて制作した番組です。新しい安保体制が予感させるのは自衛隊とアメリカ軍の融合です。人員を含めた輸送手段の確保はアメリカの軍事行動に日本が加わるための準備なのではないか。「いつの間にか」と再び悔いることがないよう取材を続けていきたいと思います。
名古屋テレビ放送 村瀬史憲

●奨励賞

ヤメ暴
~漂流する暴力団離脱者たち~

(CBCテレビ)

大園康志さん  下野賢志さん

 暴力団員の数は今、急速に減少し、去年1万7千人を切りました。警察庁の「暴力団壊滅作戦」の効果と言えます。その一方で“ヤメ暴”は何をしているのか・・・これが取材の出発点です。舞台となった施設は、指のない人たちばかりが暮らす何とも異様な空間。そんな中、印象的だったのは、ヤメ暴が施設の代表・西山俊一さん宛に送る“手紙の字”が意外にも達筆だということです。それだけ反省しているのか・・・しかしその考えは、西山さんに一蹴されました。「刑務所では手紙を書くぐらいしかやることないんや。何回も務めてれば、そりゃ字もうまくなるやろ。真面目に見せてるだけや」簡単には見抜けないヤメ暴たちの闇。空恐ろしさを感じた瞬間でした。
CBCテレビ 下野賢志

●奨励賞

BS1スペシャル
銀嶺の空白地帯に挑む ~カラコルム・シスパーレ~

(NHKエンタープライズ、オルタスジャパン、NHK)

中島木祖也さん  国沢五月さん

 名だたる未踏峰がなくなり、トップクライマーが益々登攀困難なルートをめざす昨今、その詳細を同行記録する事は一層難しくなりました。ところが、この番組では、高地順応の難しさ、雪崩遭遇の対応、凍りついた絶壁の突破など、8千メートルに迫る空白地帯での“命を賭けた行為”の凄味を克明に伝えています。それを可能にしたのは、番組に登場するふたりの登攀者。彼らは日本を代表するクライマーであるとともに、実にすぐれた山岳カメラマンでもあったのです。幾種類もの小型カメラを駆使し、登山者自ら表現者となった命がけの映像・・・。その力に引きずられ、掛け値なし、人間の純粋な力のすごさを引き出そうとスタッフ一同取り組んだ番組です。
NHKエンタープライズ 中島木祖也

●奨励賞

ETV特集
亜由未が教えてくれたこと

(NHK青森放送局)

坂川裕野さん  柳沢晋二さん

 当初、自分の家族の幸福な姿を通じて、植松被告の言葉を否定しようと企画書を書きました。ところが笑顔が評判の妹・亜由未は、兄の狙いの浅はかさを知ってか、一向に笑おうとしません。「笑顔ばかり求められると、幸せじゃなきゃ生きてちゃいけないみたい」と、妹の気持ちを代弁したのは母でした。障害者家族の幸福像に拘泥していた自分に呆れると同時に、家族の等身大の姿を伝えればいいと思うと、気が楽になりました。辛いこともある、先行きは見えない。けれど、亜由未と暮らす上で生じる葛藤や困難を乗り越えることは、家族を強くしてくれました。カメラを嫌がる亜由未ですが、これからも坂川家の行く末を記録し続けたいと思います。
NHK青森放送局 坂川裕野