HBF 公益財団法人 放送文化基金

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放送文化基金賞

放送文化・放送技術の講評

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放送文化 講評
河野尚行 委員長

 今年の放送文化部門には16の個人とグループが様々な分野からノミネートされた。番組制作の現場はもちろん、組織の経営者あり、学術調査結果もありで、実にバラエテイに富み、中身も素晴らしく審査は白熱する。ただ、この部門の賞を既に個人やグループとして受賞された方々は、選外となった。受賞者は次の4件である。
 テレビ静岡「テレビ寺子屋制作スタッフ」。40年間、家庭教育についての番組を制作、手話放送も38年前から始める。シンプルな番組形式でありながら視聴者の関心事を的確にとらえたジャーナルな教育番組である。番組収支も赤字でないという。地域社会に真摯に向き合う地域放送のその姿勢と持続力に敬意を払う。
 カメラマン「宮﨑賢」。山陽放送の報道カメラマンとして1982年以来、長島愛生園のハンセン病患者・回復者の置かれてきた状況と半生を克明に捉え、そのニュースや番組はハンセン病患者・回復者への強制隔離や監獄措置、特別法廷など人権無視の実態を鋭く告発。ハンセン病回復者をめぐる偏見や法規制の打破運動に貢献した。
 ここ数年、東海テレビのドキュメンタリー番組は素晴らしい話題作を次々と生み出してきた。その中心人物がプロデューサー「阿武野勝彦」である。放送番組を全国ネットに乗せる機会が少ない地方局として、その作品を同時に映画館で全国展開する方法を模索、実行、成功させた。地方民放局の制作者に大きな刺激を与えている。
 NHKアナウンサー「三宅民夫」。報道、教育、教養、エンターテイメント、あらゆる放送分野のアナウンスに通じ、なかでも討論番組の司会は見事である。時代の変革期、異なる意見を存分に話させ闘わせる彼のような名司会者が民主主義社会には是非とも必要である。
 最後にNHK放送文化研究所の日本語発音アクセント新辞典に触れる。18年ぶりに大改訂されたその意義と放送界での役割は理解するが、これを普段使いこなす人の実感あふれる具体例が説明資料として是非欲しかった。

放送技術 講評
羽鳥光俊 委員長

 今年の推薦件数はNHK2件、民放11件の合計13件で、昨年より3件多くなった。応募された技術開発は、いずれも放送の充実に大きく寄与するものばかりであり、日頃の熱心な取り組みに心から敬意を表する。選ばれたのは以下の4件である。
 NHKが開発した『スーパーハイビジョン試験放送用高度BSデジタル受信機』は、昨年8月に始まった世界初の8K試験放送用に開発されたもので、日本全国で公開受信を実現させた。4K・8K放送の普及を推進する上で基盤をなすものである。さらに、受信機の小型化・省電力化に必須のHEVCデコーダのLSI化、運用規定の検証・改訂などは、受信機テストセンターの開設など実用放送に向けた今後の受信機開発に多大な貢献が期待できる。
 フジテレビジョンの開発した超高速データ伝送装置『SDI−Hyper』は、放送局が日常使用している既存のHD素材回線を用いて、通信衛星を利用した映像素材伝送(SNG)のRF信号(36MHz帯域)や大容量のIP信号のリアルタイム伝送を可能にするものである。これにより「天候に左右されないSNG伝送」「高品質・低遅延の4K伝送」「高速ファイル伝送」がいずれも低コストで実現し、今後、広く放送事業者に活用されることが期待できる。
 関西テレビ放送が開発した『プロキシ編集プラットフォーム』は、ニュース制作の際の過去の取材映像(アーカイブ素材)の編集を迅速にするものである。アーカイブ素材は経済性の観点から直接編集ができないエリアに置かれるため編集を始めるまでに時間を要したが、この装置はそれを解消。素材の低解像度映像(プロキシ)を常時編集可能なエリアに置いて、まずプロキシで編集を開始、元の映像(ハイレゾ)が取り込まれ次第、自動的に置き変えることで編集時間を大幅に短縮でき、ニュースの速報性向上に大きく寄与する。
 NHK放送技術研究所の『気象情報の手話CG生成システム』は、気象庁からの気象電文をもとに天気予報や警報・注意報などの手話のCGを自動生成する日本で初めてのシステムである。生まれつき聴覚に障害のあるろう者の第一言語は手話であるが、手話通訳士の24時間の確保は難しくこのシステムの開発に至った。今年2月から天気予報に関してNHKホームページで一般公開されており、情報バリアフリー社会の実現に向けて高く評価できる。