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番組制作―「他者性」を利用して |
NHKエンタープライズ 制作本部
シニア・エグゼクティブ・プロデューサー 山登 義明 |
表現とは他者に伝わって完結すると映画監督伊丹万作は書いている。テレビ番組もそうであろう。
番組制作には企画、取材、編集という過程を経て形を整えてゆくという一定のセオリーがある。その過程の中に他者性を織り込んでゆけば、ディレクター(D)は独善の分かりにくい番組を作らずにすみ、番組は一段グレードアップするのではないだろうか。
企画段階ではプロデューサー(P)が他者である。Dは彼を説得するような企画を立てるべきだ。Pは時代を読みつつ観客の立場を保持している存在だから。この人物を理解させるためにしっかり企画書を書くこと。
次ぎに取材段階ではスタッフが他者となる。撮影にしろ録音にしろ、自分ではないスタッフが“代理”で行う。彼らが理解納得して初めて映像が可となる。Dはスタッフの理解を促進するために構成要素をある流れで並べた取材構成表を作らなくてはならない。番組の流れを示して現場の意味をはっきりとさせる必要があるのだ。番組は生き物であるから流れはどんどん変化する。それに応じて取材構成表もどんどん書きなおしその都度Dはスタッフに新しく提示してゆく。取材構成表とはDからスタッフへのいわばラブレターだ。
取材でのもう一人の他者は取材対象者だ。この人物をDは自分の企画に巻き込んでいかなくてはならない。なにも賛同させるだけのことではなく反対意見も含めてのことだ。その意味でインタビューは他者と交差する重要な場となる。
編集段階では重要な他者がいる。編集パーソンだ。この人物は現場を知らない。知らない者として理解できるように編集を組み立てていくべきだ。そのためにDは編集構成表を書くこと。
企画→取材→編集と進んできて他者の在り様が浮かび上がってくる。作者を知らず現場を知らずましてや本番組が作られていった事情も知らず、目の前の番組だけで判断する他者、それが観客だ。 |
<略 歴> |
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山登 義明 (NHKエンタープライズ 制作本部
シニア・エグゼクティブ・プロデューサー) |
1970年NHK入局。『モリチョウさんを探して』(放送文化基金奨励賞)、『響きある父と子−大江健三郎と息子光の30年』(国際エミー賞)等、数々のドキュメンタリーを制作、今年3月に『あしたのジョーの、あの時代〜団塊世代
心の軌跡〜』が放送された。 |
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