HBF 公益財団法人 放送文化基金

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助成

放送文化基金 2019年度助成対象の決定・助成研究紹介

今年度申請は、技術開発22件、人文社会・文化64件の合わせて86件でした。審査の結果、採択された件数は、技術開発10件、人文社会・文化23件の合わせて33件。助成金は、総額5,995万円で、技術開発に2,995万円、人文社会・文化に3,000万円となりました。
助成対象に決まったプロジェクトは、今年4月から翌年3月までの1年間、研究、開発、調査、事業等を実施し、報告をまとめることになります。
なお、解散した財団法人東京ケーブルビジョンから寄贈された残余財産の一部を、技術開発への助成金の一部に使わせていただいています。

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技術開発

誘電エラストマーアクチュエータースピーカによる指向性制御
芝浦工業大学工学部 教授 細矢 直基

 従来のスピーカは、その音響放射特性を無指向性とするためには正多面体に、指向性とするためには線上に、それぞれ複数個のスピーカを配置する必要があった。そこで、我々は無指向性の音源を1つのスピーカで実現するために、誘電エラストマーアクチュエータ(Dielectric Elastomer Actuator: DEA)で構成された半球形および球形のスピーカを開発し、これに成功した(Journal of Acoustical Society of America [https://doi.org/10.1121/1.4934550]、Applied Acoustics[https://doi.org/10.1016/j.apacoust.2018.12.032])。これらは共に16 kHz(可聴周波数帯域上限付近)までの音響放射特性を有する。
 軽量かつ柔軟でありながら、大きな変位を生み出すソフトアクチュエータとして、DEAが注目されている。DEAは、人工筋肉、ソフトロボット、音響スピーカ、などへの応用が検討されている。DEAは、ゴム状の薄い高分子誘電膜を伸び縮み可能な柔軟電極で挟んだキャパシタ構造になっている。電極間に電位差を与えることで静電力によって電極同士が互いに引き合い、高分子膜が面外方向に収縮し、面内方向に伸張する。誘電エラストマーはポアソン比が0.5に近く、体積変化はほとんどない。この変形が音源となる。
 本研究では、従来のスピーカで用いられていた、コイル、磁石、振動板、振動子などを、一体成形された凹面形状などのDEAに置き換え、所望の音響放射特性に制御できるDEAスピーカを実現する。主な材料が高分子で、軽量かつ形状の変更が容易であるため、DEAを風船のように膨らませ球面にしたり、凹面にしたりできる。これにより、音を集音したり、発散したりすることで、1つのスピーカで所望の音響放射特性の制御を目指す。

空中映像のリアリティデザインに関する研究
電気通信大学大学院情報理工学研究科 助教 小泉 直也

 放送文化は様々な映像コンテンツを生み出してきました。しかし映像コンテンツはあくまで「画面の中に表示されるもの」であり、自分たちの存在する現実空間とは隔たりのあるものになっていました。タブレットやスマートフォンのカメラを用いて、現実の映像にCGキャラクターを重ね合わせて、実在しないCGキャラクターを現実にいるように見せる表現も普及してきました。さらに近年では、透過型スクリーンへのプロジェクションによる映像ライブや、空中像ディスプレイの発展なども急激に広がっています。これらの表現技術により、バーチャルキャラクターが視聴者の存在する空間と同じ場所に存在するかのように、目の前に表示することが可能になってきました。これらの技術は特殊なメガネなどを装着する必要がなく、その場にいる人々で表示された映像を共有できる価値があります。
 ただし、こういった表現技術は今までにないものであるため、どのように表示することで、そのバーチャルキャラクターがその場にいるような現実感を持って再現することができるのかが分かっていません。空中映像と現実感を高める方法や、その効果の程度を明らかにしていくことで、空中映像の価値を高めていくことができると考えられます。
 そこで、空中像ディスプレイにおけるリアリティ向上のための指針をつくることにしました。本研究では、表示する空中像の表現手法の設計と評価を進めます。特に空中像はそこに実物がないため、影を作ることはありませんが、そこに人工的に作成した影を提示し、現実空間の光源位置と一致した影による立体感錯視への効果などの基礎的な知見を、心理物理実験を通して明らかにします。本研究の意義は、この空中像の設計指針となる人の心理特性を明らかにすることで、コンテンツデザイナーが空中像ディスプレイを活用したコンテンツを設計しやすくなり、放送文化の生み出すコンテンツとの融合に繋がることです。

音声・感情・環境音を認識する豊かな情報保障技術
音響情報処理グループ 代表 西崎 博光(山梨大学 准教授)

 近年、放送事業者はもとより、インターネット事業者においても、放送に対するリアルタイム自動字幕サービスが実施されています。リアルタイム字幕生成の基盤は、音声認識技術(音声を認識しテキストに変換する技術)です。一般的な音声認識技術は、人間の音声発話に含まれる言語情報を見える化(テキスト化)する機能を提供し、これによって発話内容の字幕化が実現できます。一方で、話し手の言表態度(モダリティ:聞き手への問いかけや感情状態など)や音声以外の音(環境音:歓声や動物の鳴き声など)については、自動生成による字幕サービスにおいて、未だに実現されていません。しかし、放送コンテンツの理解のためには、このような言語情報以外の情報の可視化も重要となります。例えば、大相撲中継の放送コンテンツを例にとって説明します。大相撲放送コンテンツでは、実況アナウンサーや解説者の音声、会場の観客音声(歓声)、相撲取組時の音(体と体がぶつかる音等)など、様々な音・音声が含まれています。従来の字幕放送では、アナウンサーの声が字幕化されるのみでしたが、臨場感があふれる字幕を提供しようとすると、アナウンサー・解説者の発話内容のテキスト表示以外にも、感情(興奮しているか等)や会場の盛り上がり具合も伝えたほうが、より豊かな情報が伝わることが容易に想像できると思います。
 そこで本研究では、これまでの字幕サービスをより豊かなユーザー体験とすることを目的として、発話内容の字幕化(音声認識)に加えて、話し手のモダリティ(特に感情状態)や環境音といった非言語情報までを含めた、音声・音の統合認識技術の研究開発に取り組んでいきます。この研究開発によって、聴覚障害者に対する放送コンテンツの情報保障、オフィスや電車内などの音を出すことができない環境下にいてもより豊かな放送コンテンツを享受できるようになることを目指していきます。

記憶を向上させる新しいVR映像提示の研究
豊橋技術科学大学情報・知能工学系 助教 日根 恭子

 近年、テレビなどの従来メディアによる視聴に加え、新たな放送技術であるVirtual Reality(VR)映像の視聴機会が増加しています。VR映像は高い臨場感を生むため、そのコンテンツの記憶を向上させることが期待され、教育現場などでの利活用が始まっています。しかし、VR映像と記憶の関係は、その科学的根拠が乏しく、むしろ臨場感が高まることと引き換えに、記憶成績が低下する可能性も指摘され始めています。実際、これまで私たちが行った研究では、VR映像視聴よりもテレビ視聴の方が、記憶成績が向上するケースさえあることが明らかとなりました。これらのことより、高い臨場感を維持しつつ記憶を向上させるVR視聴を実現するためには、VR映像視聴、テレビ視聴のそれぞれの利点を科学的に検証し、その結果に基づく新たなVR映像コンテンツの提示方法を提案することが重要であると考えました。
 私たちが行った研究より、VR映像視聴よりもテレビ視聴の方が、記憶成績が向上するその原因として、視聴者が自由に周りを見ることができる「視点の自由度」の違いが影響していることが明らかとなっています。そこで、本研究では「視点の自由度」に着目し、映像と記憶の関係を心理物理実験によって明らかにし、記憶成績の向上を促す新たなVR映像提示方法を研究・開発することを目的とします。VRは私たちの教育やコミュニケーション様式など生活スタイルを大きく変える可能性を秘めています。このような可能性を最大限引き出すためには、本研究のように科学的検証による新たな知見に基づいたVR映像コンテンツ提示方法の開発は非常に重要であり、意義があるといえます。本研究を通じ、放送文化の発展と新たな価値の創造に貢献したいと考えています。

人文社会

有事をみすえた地域社会におけるラジオ局の再定位
「地域社会×ラジオ→ネットワーク」研究会 代表 松本 行真(近畿大学 准教授)

 災害研究が生業だったのではありません。調査先である福島県いわき市内の道の駅(直売所のマーケティング戦略)や町内会(情報共有等の仕組み構築)があの地震・津波・原発事故により被災し、復興へのお手伝いがきっかけです。本研究も東日本大震災関連の避難者や広域支援ネットワーク(岩見沢、恵庭等)調査に従事するなか、函館で胆振東部地震に遭遇して始まったという「縁」によるものです。
 地震後、電話やメールで道内に点在する調査対象者に聞くと、どうも「横のつながりによる"共助"がみえてこない」。ラジオ好きな自分はずっと車やラジコで聴いていましたが、地域の詳細な情報は個人ベースであっても、町内会のような組織による情報がほとんどない。そして出所不明の「デマ問題」。町内会研究に従事する立場から、「もっと地域(住民組織)と連携すればよいのに」。これが研究の起点でした。
 北海道放送、JCBA北海道地区協議会の協力を得て、道内加盟全局へ地震対応や課題を聞き回りみえてきたのは、「関心はあっても組織対組織として、地域に入りきれていない」(2018年度)。町内会側はどうか。道内の町内会を束ねる北海道町内会連合会に依頼し、同会主催のブロック大会に出席させてもらいました。懇親会等の席ではラジオ局の営業マンよろしく「せっかく地域にあるのだから、町内会のことを知ってもらうためにも情報発信の拠点として有効活用したらどうか」と。反応は「意義はわかるのだが、使い方やつながり方がわからない」(2019年度)。
 いわき市沿岸での復興まちづくりに携わる中で学んだのは、復興への推進力となる「真の協働」は各主体の役割分担に対する「覚悟」が必要ということです。それにより、今あるもの(点)をネットワーク(線)に、さらに面的(町内、地域内)展開へとつなげることが出来るではないでしょうか。本研究も問題意識の基底はそこにあり、有事の情報収集・共有・発信のために、平時からどう関係の構築を各々が「覚悟」を持って出来るか。現状と課題を確認しつつ、可能性を探りたいと考えています。

AI技術の積極活用で生じるジャーナリズム活動・メディア事業の可能性・課題の研究
「AIとジャーナリズム」研究会 代表 小此木 潔(上智大学 教授)

 人工知能(AI)技術が社会に及ぼす影響については、さまざまな議論がありますが、共同通信社と上智大学は連携して「AIとジャーナリズム研究会」をつくり、AIを積極的に活用することでジャーナリズム活動、メディア事業にどのような可能性や課題が生ずるのかを検討しています。研究会は、このテーマに関心をもつ共同通信社員と上智大学教員で構成し、上智大学メディア・ジャーナリズム研究所が事務局を担っています。
 報道の現場では、すでにSNS上のデータを用いて事件・事故など発生情報を早期に分析したり、天気予報の画像データを解析したりする際にAIが利用され、テレビニュースのアナウンスや新聞記事の編集にもAI技術が一部で使われています。本研究はこうした動向を踏まえながら、ジャーナリズムの現場とアカデミズムの智恵が連携して検討を進めることによって、メディア・ジャーナリズムの将来像の構築につながるような体系的整理を行うことを目指すものです。
 研究会は、各種の取り組み事例の洗い出しや活動の見学、聞き取り調査などをもとに現状の問題点と課題を検討し、メディア事業の将来を考察します。AIを活用した取材・編成の新たな方向や、フェイクニュースの排除、個人情報保護などAI導入に伴う情報の質の保証や倫理的な問題への対応など、さまざまな角度から検討を加え、新たな知見を獲得し共有することを目標とします。
 2019年度には国内の報道現場におけるAI技術導入の動向についてヒアリング調査を進めましたが、2020年度は欧米のジャーナリズムの現場におけるAI技術の開発・導入の実情も調査する予定です。AIを放送活動において普及させる際のビジネスモデル、現場での自主的ルールのあり方についても新たな視点を提供したいと考えています。本研究の成果が放送文化の向上を目指す活動の一端を担うものとなれば幸いです。

放送コンテンツのインターネット配信のグローバルな著作権侵害対策に関する調査研究
―中国大陸及び香港への実態調査を踏まえて―

豊橋技術科学大学総合教育院 准教授  蔡 万里

 デジタル・ネットワークの発展、スマートフォンの普及に伴い、放送機関が放送だけでなく、インターネットによるコンテンツ配信サービスを展開し、また放送機関以外の事業者もインターネット配信サービスを提供しています。配信の形式も同時配信、見逃し配信、オンデマンド配信等と選択肢が広がりつつあります。このようなインターネット配信について、配信されたコンテンツの複製等を行い権利者に無断で再送信やアップロードを行ういわゆる海賊行為が各国共通の課題となっています。このような課題を踏まえ、本研究では、中国大陸及び香港を対象として、そのインターネット配信の実態や著作権等によりどのような保護がなされているのかを把握するために、以下の事項を中心に調査を実施します。
(ア)通信や放送に関する規律
(イ)放送機関が提供しているインターネット配信サービスの提供方法、配信されるコンテンツの種類・数・期間などイン
ターネット配信サービスの実態
(ウ)放送法によるインターネット配信に対する規制
(エ)著作権法等により放送及びインターネット配信の保護
 上記調査の結果を踏まえ、本研究は、日本の現行放送法及び著作権関連法制度のもとで、比較法の視点から今後日本にとってのグローバルな著作権侵害対策の課題を抽出し、その課題の解決に向けて更に検討や議論を加えることによって、今後日本における放送コンテンツのインターネット配信のグローバルな著作権侵害対策に係る検討に寄与し、日本における放送事業の健全な発展に貢献したいと考えています。