公益財団法人 放送文化基金 トップページ 地図 リンク お問い合わせ
English Site
放送文化基金概要 助成 表彰 制作者フォーラム 放送文化基金報
トップページ制作者フォーラム>若手制作者全国交流セミナー 
リニューアルサイトへ
制作者フォーラム
最新の開催案内・報告
過去の開催記録


●コーディネーター
 ・丹羽 美之 氏
●講師
 ・今野 勉 氏
 ・池本 端 氏
 ・藪内 広之 氏
参加者の声
制作者フォーラム

最新の開催案内・開催報告

若手制作者全国交流セミナー

◆講師

先人を知る

テレビマンユニオン 取締役副会長 今野 勉
 私がテレビ局に就職した1959年は、日本でテレビ放送が始まってまだ6年しか経っていない頃だった。
 TBSのテレビ演出部に配属された私を含む6人の新人たちは、テレビ番組制作の分野で先人などというものは存在しないと不遜にも決めてかかり、日々持ち上がる様々な問題に素手で立ち向かっていった。苦労はあっても、それはそれで喜びの日々でもあった。
 しかし、1975年、埋もれていた記録映画の名作『戦ふ兵隊』(亀井文夫監督)が発見されたのが契機となって、先人がいないなどと決めてかかっていた私たちが大いなる間違いを犯していたことに気づかされることになった。
 『戦ふ兵隊』の前線本部の同録シーンは、再現であることが解ったのだが、その問題はすでに、1958年に亀井文夫や他のドキュメンタリストや批評家を巻き込んで、大きな論争となっていた、ということも解ったのである。
 さらに調べると、1948年に世界ドキュメンタリー映画連盟が「再現」についての意味づけを既に行っていることも解った。
 それだけではなかった。1958年には、当時NHKでテレビドキュメンタリー『日本の素顔』を制作していた吉田直哉ディレクターが、それまでの記録映画のありようを批判し、現実に真正面から立ち向かう新しいドキュメンタリーの方法を提示していることも知ることになった。
 私は、自らの不遜を恥じるとともに、そうした先人の遺産を知らなかったことによる時間の浪費を悔いた。悔いても浪費した時間が戻るわけではないが、このことから学んだことを後世に伝えるべきだと私は思った。
 テレビの歴史だけを考えて、先人はいないと思い込んだ愚は、テレビより以前から続いている他のメディアの歴史を無視したゆえにもたらされたものである。
 さらには、アーカイブなど、先人を知るシステムが残念ながら日本では確立していないということも大きな理由である。
 放送文化基金の若手制作者のためのセミナーが、先人を知る場としても機能してくれることを私としては願わずにはいられない。

<略 歴>
今野 勉 (テレビマンユニオン 取締役副会長)
1959年現TBS入社。70年に退社、テレビマンユニオンの創立に参加。作品に『欧州から愛をこめて』(75年/テレビ大賞優秀賞)、『こころの王国〜金子みすゞの世界』(95年/芸術選奨文部大臣賞)、『日中戦争秘話 ふたつの祖国をもつ女諜報員』(08年)など。萩元晴彦、村木良彦と3人でテレビを論じた「お前はただの現在にすぎない」が、40年ぶりに昨年秋復刊された。