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国際比較でニュースの特徴を知る
   〜ブラジル・イギリス・アメリカ・日本のニュース番組研究〜
国際テレビニュース研究会(旧・日米テレビニュース研究会)小玉 美意子

はじめに
 1974年の研究を出発点に、国際テレビニュース研究会では、過去3回10年ごとに日米両国のテレビニュース比較研究を行ってきた。4回目の2004年は、ニュースの国際化が著しく進み、日米だけでは収まりきれないたくさんの問題が出てきた。幸い以前からのメンバーに加え、さらに語学に堪能な研究者たちが参加することになったので、上記4カ国の代表的な夕方のニュース番組をとりあげ、比較することにした。

1. ニュース内容分析調査

 各国を横に並べて見てみると、社会、ジャーナリズムのあり方、視聴者の物のとらえ方の違いによって、独自のテレビニュースを形成しているのがわかる。主な分析項目は以下の通りである。 

1)ニュース対象地域
 調査対象とした夕方のニュース番組は、国内視聴者向けの全国ニュース番組で、2004年11月〜12月の連続しない3週間のサンプルを収集した。
 全体の平均から見ると、アメリカ『CBS Evening News』(以下、CBS)は、「国内」以外は自国と関係のある「国際」(注1)ニュースが多く、「外国」(注2)発ニュースは明らかに少ない。『NHKニュース7』(以下、NHK)は、「地方」発の比率がもっとも高く、「国際」はCBSに次いで多く、外国はブラジルの『Jornal Nacional』(以下、Globo)に近い比率である。イギリスの『Six O'clock News』(以下、BBC)は「国内」がもっとも多く、自国と直接関係のない「外国」も4番組中もっとも多い。これは議題設定機能という面から考えれば、それぞれの番組の視聴者が、どんな地理的な広がりで世界を意識しているかにつながる。CBSの外国ニュースの少なさは、アメリカ人の外国への無関心と相互因果関係にある可能性があり、考えさせられる。



2)ニュースが扱う分野
 ここでは各番組が際立った差を見せた。BBCの「政治」ニュースの多さは、議会での政策論議を報道するものによる。CBSの「軍事」は当然イラク戦争によるものだが、「科学・技術」は主として医療情報の突出であり、健康問題への関心の深さを窺わせる。Globo で「経済」の割合が高いのは、ブラジルでは貧富の差が大きく全体としては豊かといえない故か。NHKは社会が多いが、これは事件報道の比率が高いからである。この数字は、各ニュース番組の「企画モノ」トップ10本を取り出したものにもはっきり違いが出ている。


2. インタビュー調査
 2004年8月末から翌年1月の間に、各番組の担当プロデューサーや編集者に加え、『Jornal Nacional』のメインキャスター兼エディターWilliam Bonner氏や、CBSニュース副社長のMarcy McGinnis氏にお話を聞くことができた。
 ほとんどの編集者が近年起こった変化として意識していたことは二つある。まず、「9.11」。この事件を意識しているのが言葉の端々から読み取れた。二つ目の技術の進歩については、アマチュア撮影でも放送できるほど性能がよくなったことと、通信手段の簡便化が、世界中どこからでも生放送を可能にしたことである。技術の進歩は「9.11事件」とその後の「戦争」というコンテンツを得て、ジャーナリズムにとって恰好の実践機会となった。また、スルーで情報が入る「生中継時代」において、思考するゆとりのない“生”のプレッシャーがテレビ・ジャーナリストにのしかかり、良心的であろうとすればするほど編集者の悩みは尽きないことも分かった。
 こういった共通点がある一方、注目されるのはアルジャジーラのニュース利用。「テロリスト側のプロパガンダ」とするCBSとGlobo、アラブ世界の大きな情報源として利用するBBCおよびNHKで対応は分かれた。前者はその部分で情報の空白を生み出しているが、それはニュース内容分析の「外国」の少なさの一部を裏づけるものである。
 ニュースルームで働く人の多様化に関しては、CBSとBBCが人種・民族、ジェンダーの面で進んでいる。Globoは学歴をジャーナリストの条件としていることから人種・民族の面では遅れているが、ジェンダーの面では最も進み男女半々といわれている。NHKにおける民族的多様性はきわめて低く、女性は約1割ということで、日本人男性を中心とする単一文化となっている。

おわりに
 ニュース番組はそれぞれ固有の傾向を持っているが、それを取り巻く社会環境を背景にしているだけに、その偏りは自身では気づきにくい。しかし、同じような位置づけの、違う国のニュースと比較することによって、その性格はおのずとはっきりしてきた。人々がニュースから受け取る情報と解釈は、社会環境の認識につながり、それは結果的には政治行動にも影響を与えるだろう。今回の調査は、ニュース番組におけるバイアスを客観的に認識するためのものとして、一定の成果を収めていると考える。このような調査に助成を与えてくださった放送文化基金に深く感謝している。
2005年11月掲載

<参考>
● 「インタビュー調査」についての詳細は、国際テレビニュース研究会『テレビニュース・インタビュー調査報告書』武蔵大学総合研究所、2005年3月に、まとめられている。
● 日米の過去3回の調査との経年比較もまとめることを予定している。
 

平成15年度助成
助成「日米テレビニュース比較研究'04 〜イギリスのニュースを比較対象として〜」