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メディアの論調の受け売り(パロティング)と世論
上智大学
文学部 新聞学科 教授
石川 旺
定期購読紙と世論
メディア間の論調に差が生じて来ている今日では、「メディア接触習慣の差により、人々の間に異なる意見が形成されている可能性」が強い。2003年7月に世田谷区と杉並区の成人を対象とした電話調査を行い、この点を検証した。その結果、小泉内閣の支持率は全体では51.2%であったが、
朝日新聞購読世帯では 支持44.5%、不支持46.3%、
読売新聞購読世帯では 支持58.0%、不支持29.0%
であった。毎日新聞購読者ではこの数字は支持51.3%、不支持43.8%とほぼ中間であった。
内閣の不支持者の方が支持者を約2%上回っている社会と、支持者が不支持者を30%近く上回ってほぼ倍の社会とは普通に考えればまったく別の社会である。世論という観点からすれば、ほとんど対立状態であるといってもよい。購読紙によってこれだけの意見の差が見られる。
この差をさらに首相の靖国神社参拝問題、原子力発電の将来、憲法改正、国旗・国歌法案、過去の戦争の認識、有事法制、自衛隊のイラク派遣などについて検証したところ、すべてについて、購読紙による意見の差は歴然としていた。
TVニュース視聴習慣と世論
さらに、テレビニュースの視聴習慣が及ぼす影響を見たところ、夜10時以降のテレビニュースの中でTBSの「筑紫哲也NEWS23」とテレビ朝日の久米宏キャスターによる「ニュースステーション」について興味深いデータが得られた。
朝日、毎日の読者に関して見ると、夜のテレビニュースはどの番組を見ていても、意見の差は表れてこない。しかし、読売、産経の読者グループについて見ると、「ニュースステーション」と「筑紫哲也NEWS23」のどちらかまたは両方の視聴習慣を持つ人々は、グループ内の他の人々と比較してはっきりと異なる意見を持っていた。これらの番組は“骨のあるコメント”をすると一般的に受け止められているが、その影響は朝日・毎日購読者に対してはあまり大きく及んでいない。しかし、保守的な論調を展開している読売・産経購読者に対し、その意見をややリベラルな方向に「引き戻す」機能を果たしていると考えられる。
例えば自衛隊のイラク派遣について、読売・産経購読者の間で
「Nステ」と「NEWS23」視聴習慣あり 賛成 35.4% 反対 54.2%
「Nステ」と「NEWS23」視聴習慣なし 賛成 50.3% 反対 41.0%
であった。
メディア論調と人々の意見の関係は予想よりもはるかに強い。なかにはメディア論調をそのまま自分の意見としてオウムのように繰り返す(パロティング)人々もいる。この調査の結果を含めた単行本『パロティングが招く危機:メディアが培養する世論』が、5月に刊行された。
『パロティングが招く危機:メディアが培養する世論』
石川 旺 著
リベルタ出版
2004年5月17日発行
2004年6月掲載
平成14年度
「テレビニュースの多様化により、異なる番組の固定視聴者間に生じる意見の差の検証」
(代表研究者 上智大学 学科長・教授 石川 旺)
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