私の研究室では、蛍光体を研究の対象にしています。蛍光体の役割は、各種のエネルギーを光に変換することです。このような蛍光体の発光現象を利用する機器は、私たちの身近なところにたくさんあります。例えば、カラーテレビに使われているブラウン管の中では、蛍光体が、電子線のもつエネルギーを、光の三原色の赤、緑、青の光に変換しています。蛍光灯の中では、蛍光体が、水銀ガスの放電プラズマから発生する目に見えない紫外光のエネルギーを白色の光に変換しています。大画面で薄型のテレビとして市販されるようになったプラズマディスプレイの中では、蛍光灯とよく似た原理で、蛍光体が、キセノンガスの放電プラズマから発生する紫外光を赤、緑、青色の光に変換しています。
最近では、プラズマディスプレイの他にも、電界放射ディスプレイ、白色発光ダイオードなど、新しいタイプの機器の登場により、蛍光体に必要とされる特性はますます多様化しています。そのため、蛍光体を使用する機器の性能を高めるためには、蛍光体の特性を向上させると共に、特徴のある新たな蛍光体を生み出すことが欠かせません。 |
■丈夫で環境にやさしい材料を使って |
私たちは、このような蛍光体の新しい材料として、今話題の青色発光ダイオードにも使われている窒化ガリウムに注目しています。窒化ガリウムは、蛍光体としても多くの優れた特徴をもつ、とても魅力的な材料です。例えば、非常に丈夫で、明るく発光させても長い寿命が期待されます。また、有害な元素を含まない人体や環境に優しい材料でもあります。しかし、窒化ガリウムで蛍光体を作ってみようとした研究は、これまでわずかしかありませんでした。現在研究すべき最も重要なことは、いかにして品質の高い窒化ガリウムの粉体(粒子)を作製するかということです。
そこで私たちは、独自に二段階気相法と呼ばれる窒化ガリウム粒子の作製法を考案し、現在その開発に取り組んでいます。この方法では、まず始めの段階で、原料物質の化学反応により極小さな窒化ガリウムの粒子を作ります。続けて次の段階では、前の段階とは別の原料を用いる化学反応により、最初に作った粒子の周りにさらに窒化ガリウムを積もらせて大きくします。これら2つの化学反応は、約1000℃の高温ガスの流れ中に粒子を浮かせた状態で進められ、原料もすべてガスの状態で供給されます。これにより、原料ガスの供給量を変えるだけで、粒子の大きさや組成(含まれる元素の比)を容易にコントロールできるようになりました。
この二段階気相法により、亜鉛が添加され、青色に発光する窒化ガリウム蛍光体の作製に成功しました。ここで亜鉛は、発光の色を変えるために加えた元素です。他の元素としては、たとえばテルビウムを加えると緑色、ユーロピウムを加えると赤色の発光が得られることがわかっていますので、ディスプレイに必要な三原色の発光を窒化ガリウム蛍光体で実現することができます。 |
■写真のようなディスプレイ表示 |
始めにも述べましたが、蛍光体の主要な用途の1つとしてディスプレイがあげられます。ディスプレイは、テレビ放送などの電気的な情報信号を目に見えるかたち、すなわち光で人に伝える大切な役割を担っています。今後、社会全体の情報化がより進展し、扱われる情報の量と質が飛躍的に増加、向上することは間違いありません。そのような高度情報化社会において求められる未来のディスプレイ、例えば写真や印刷物と同じぐらい鮮明な表示ができるディスプレイの実現を目標に、さらに研究を進めています。 |