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近未来の大規模放送映像
アーカイブ型ホームサーバの実現に向けて
国立情報学研究所 教授 佐藤 真一

1. まずためる、それから考える
 インターネットでWebを検索して必要な情報を得ている人は大変多くなってきた。世界情勢、気になる新製品、旅、グルメなど、ありとあらゆる情報が提供され、検索エンジンを使うとそれらを自由自在に引き出せて、大変便利である。一方、テレビ放送を考えると、日々放送されている番組も視聴者の要求を満足するべく様々な情報を提供しており、かつWeb情報に比べると、より信頼性も高く、映像の特性を生かして、より分かりやすく品質も高い情報が提供されている。そこでわれわれは、次のような研究目標を掲げることにした。すなわち、「日々提供される大量の放送映像から、必要な情報を自由自在に引き出せるようなホームサーバについて検討すること」。


 放送映像は、通常、放送されて試聴された後には、視聴者の手元には何も残らない。映像を残すためには、録画する必要がある。そこで、まずは放送映像を大量に録画する装置を作成した。図−1は構築したシステムの概観を表す。このシステムは、東京地区で視聴可能な7チャンネルの地上波を同時に受信し、24時間休みなく録画し続ける能力を持つ。また、特に特定のニュース番組については永久保存しており、すでに3年分以上蓄積し続けている。録画した映像は、10TB(テラバイト)強の大容量ディスクアレイにMPEGフォーマットで蓄積される。合計約6,000時間分、最新の一月弱の映像を常に保持し続けている。昨今は数百GB(ギガバイト)のハードディスクを備え、数百時間の映像を蓄積可能なハードディスク型ビデオが市販されている。そのお化けのようなシステムを作ったのだと考えれば分かりやすい。今後5年程度で、約10TBの容量・能力を持った市販のホームサーバが出現すると予測している。
 このシステムでは、映像に付随して、関連するテキストデータも蓄積できるようになっている。ハードディスク型ビデオでおなじみの電子番組表情報(EPG)と、文字字幕放送情報(クローズドキャプション)である。電子番組表により、大量に蓄えた映像から、番組名や出演者など番組表に記載されている情報で映像を検索することができるようになっている。クローズドキャプションは、ニュースのアナウンサーや番組のナレーションなどの発話情報をテキスト化した情報であり、新聞の番組欄で[字]と書かれた番組で提供されている。これを用いることで、番組中で発話されている単語で映像を検索することができるようになっている。

2. 話題の流れをつかもう
 しかし、これらの情報だけでは、6,000時間もの映像を相手に情報を引き出すには十分とは言えなかった。その一つの理由として、放送映像に特有のある特性を考慮しなかったことが問題であると考えた。ある日に放送された映像は、その日に放送されたこと自体に意味を持つ。これはニュース番組に特に顕著である。ある日の放送で扱われた話題は、本質的にはその前日以前の話題を受けたものと考えられる。このような流れを無視して、ただ検索をしようと思っても、うまく行かないのではないかと考えた。そこで、特にニュース番組を対象として、扱われている話題の移り変わりを抽出することにより、利用者により分かり良く情報を提示する手法について検討を行った。このような処理には、テキスト情報の利用が最適である。クローズドキャプション情報を処理し、一つのニュースから独立したいくつかの話題を切り出し、日を追って変化するその依存関係を解析することにより、長期間にわたる中での話題の流れを取り出し、これを用いて分かりやすくニュースを検索できるシステムを作成した。図−2は抽出した話題構造の例を示す。「注目するトピック」を中心として、過去にどのような関連話題があったか、またこの後どのような話題へと派生していくかが示されている。また、この流れに従って検索できるニュース検索システムの画面を図−3に示す。図−2の構造に基づき、話題の関連性により所望のニュースを検索することができる。



3. 画像を使った内容把握への挑戦
 もうひとつの大きな問題点があった。映像は、実際試聴してみないと、それが実際に自分が必要な情報であったのかどうかがわからない。その一方、もし適切な映像区間を選ぶことができれば、それを一瞥して映像内容をある程度把握することも可能である。ここでわれわれは、放送映像の特殊性により、重要な資料映像は日をまたいで繰り返し使われているのではないかと考えた。この特性を用いると、映像を代表するような映像区間をうまく選ぶことができる。実際に1年半のニュース映像に対し、繰り返し使われている資料映像を検出したところ、図−4に示すように、ある特定の話題に深く関連した映像、きわめて稀あるいは決定的瞬間の映像、建物や機関などを象徴的に表す映像など、重要な資料映像が検出できることがわかった。この技術を用いることで、ある一か月分のニュース映像の中で、特に象徴的な映像を抜き出し、一瞥するだけでその期間の主な出来事が分かるような視聴法も可能となると考えられる。


2004年12月掲載

平成14年度助成
「大規模放送映像アーカイブ型ホームサーバに関する研究」
(代表研究者 国立情報学研究所 教授 佐藤 真一)