番組委員会にて
右から2番目が土岐氏
10月下旬に行われたハノイ総会の終了とともに、ABU(アジア太平洋放送連合)の番組局長としての3年の任期を終えました。ABUがその活動範囲とするアジアでは、経済発展に伴って、世界中の注目と関心がこの多様で変化に富んだ地域に向けられているのは頭では理解していたはずですが、いわゆるコンテンツ産業においても世界で最も熱い主戦場になりつつあることを実感させられました。
ここ数年厳しい経済危機に置かれているヨーロッパの国々はもちろんですが、アジアの国々でも自分の国の放送局やプロダクションが制作したコンテンツを国外に売り込みたいという動きが急速に高まっています。ABUの本部が置かれているマレーシアも、“ゴー・インターナショナル”の掛け声のもと政府が旗を振って番組発信や販売を積極的に図ろうとしています。目指すは欧米の、たとえばテレビ業界で世界最大とされるカンヌ国際テレビ見本市MIPTVでの商談成功であったり、アメリカのエミー賞受賞と行きたいところですが、堅実な彼らの目は足元のアジアを向いています。周辺のASEAN諸国や南アジアの国々は着実な経済発展によって番組購買力をどんどんつけ、子どもや若者の人口も多いため、良質な番組を旺盛に探しています。売り先、勝負先はアジアにありというわけです。
ABUメンバーの中では、東アジアの国々の放送局が番組の国外展開で一歩先を進んでいますが、中でも官民一体になってアグレッシブなまでにアジア展開を推進しているのがお隣の韓国です。K-POPや韓国ドラマの席巻ぶりはご存知の通りです。
その韓国は今年ABU賞の8つのテレビ部門で、ドキュメンタリー、ドラマ、エンターテインメント、スポーツの4つの部門を受賞しました。残念ながら日本の放送局は受賞ゼロ、この10年で初めてのことです。
実は今年、ABU賞は1964年の創設以来最高の266の応募作品を受け付けました。これは韓国やマレーシアを始めメンバーの放送局が、ABU賞を自らの番組をアジアにアピールできる絶好の機会ととらえたからに他ありません。そして応募作品の増加は確実にABU賞に参加する番組の質の向上にもつながっています。
いまや日本にとっては、アジアの放送局相手の賞だからこの程度の番組でも勝負できるとか、日本の視聴者の受けが良かったから外国の視聴者向けに作り替える必要はないのだとか、などとは考えない方がいい時代がきているのだと思います。
最後にやや救いのある数字を紹介します。ABU賞の最終選考に残った番組の数で言うと日本が9、韓国が7でした。最終的な受賞結果は別にして、その差はごくわずか、まだ悲観的になる必要はないと言えないわけではありません。
私の経験ではこれまで欧米を念頭に日本の番組の国外展開を語ることが長く続いたように記憶していますが、いまや最激戦の、そして世界が最も注目している場所は我々の足元にあるのです。
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