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デジタルテレビにおける多機能サービス利用行動

茨城大学 教授  佐野 博彦


1.地上デジタル放送の影響
 2011年の7月を目標に地上波がアナログからデジタルへ置き換わることが予定されている。これはその規模の大きさ(全面性)において特筆すべき出来事になろう。CSやBSなどのデジタル放送はイノベーターとも言うべき積極的な視聴者が利用を拡大していったが、地上デジタル放送は、いわば、上からのデジタル化である。人々が従来のテレビと同じようなものとして地上デジタル放送を理解し、視聴していくのか、あるいは新しい機能に目覚め、利用を拡大していくのか。今後のテレビ受信機、あるいは「情報端末」の方向性を考える上でその点の分析が重要になると考えている。
2.本調査の目的と概要
 本調査では、地上デジタル放送の持つ新しい機能として、高精細、高音質、データ放送、EPG(電子番組ガイド)、双方向機能を取り上げ、利用者へのヒアリングと日記調査を通じて、多機能サービスの利用程度や利用行動における特徴をとらえ、利用類型を提示した。
 調査対象者は水戸市およびその周辺に配布される無代紙を使って募集したデジタルテレビ利用者31名である。うちわけは、男性16名、女性15名、年齢層は20代から70代まで、数名ずつ分布している。
 これらの人々に、インタビュー調査と自記式日記調査(1週間にわたる利用行動、利用形態を記入)を行った。
3.多機能利用の実際
●高精細画面 : 多機能のなかで最も評価されていたのが高精細である。紀行番組を多く見るようになったなど、視聴行動の変化を証言する例が多かった。一方で、デジタル、アナログ、双方のテレビが混在している家庭も多い。中年主婦の日中の「ながら」視聴に特徴的にみられるように、家事をする場所によって視聴するテレビが異なっており、そこではデジタルであるかアナログであるかは二次的な問題となっている。
●データ放送 : 次に評価されていたのがデータ放送である。データ放送(天気予報)を週14回以上利用していた人が5名、週7回以上利用していた人が15名いた。これらの人々においては、天気予報のデータ放送利用が日常的な視聴・利用行動の中に組み込まれている。また、朝のニュース番組とデータ放送(天気予報)の一体利用が日常化していることが見て取れた。
●EPG(電子番組ガイド) : データ放送の次に利用されていたのがEPGである。1週間で6回以上利用した人が6名、1回以上利用した人が12名いた。HDR(ハードディスクレコーダー)と組み合わせて録画視聴をする3例ではEPG利用は録画のためにのみ用いられ、タイムシフト視聴の傾向が顕著である。この3例はデータ放送を利用しておらず、天気予報はインターネットで知るなどテレビをもっぱら番組の享受のために利用するという傾向が見られた。また、EPG機能とHDRの併用により番組視聴時間が増加し、番組のレパートリーも増えている。
●双方向機能 : 試みた人はいるものの継続して利用していない。ただし期待感は大きい。
4.視聴・利用者の分化〜仮説的提示〜
 データ放送の利用頻度を軸として、インタビュー対象者を表のような5つのタイプに仮説的に分類した。サンプル数は少ないが、各タイプの視聴・利用行動に共通する特徴が見受けられた。
(A)データ放送積極利用群(5名)
 中高年男女により構成され、データ放送を積極的に利用している(14〜30回/週)人々である。天気予報以外にもニュース、スポーツ、行政情報、地域ガイドなど多様なデータ放送を利用している。積極的な購入理由を持ち、かつまた、37インチ以上の大型受信機を購入している。生活のなかで重要なメディアの第1位にテレビを掲げ、新聞のラテ欄を利用しているという特徴を持つ。
(B)データ放送利用群(8名)
 このグループはデータ放送を毎日1回程度利用するグループで、年代、重視するメディア、EPG利用の別によって、「インターネット中心・EPG利用群」と「テレビ中心・EPG非利用群」という特徴的な二つのグループに分かれる。
(C)EPG-HDR利用群(3名)
 30歳代・60歳代のいずれも男性で、データ放送を利用していない。このグループの特徴はEPG利用であり、5〜15回/週利用するが、すべてHDR録画のためである。
(D) 従来型テレビ視聴群(5名)
 30〜60歳代男女で構成され、アナログテレビ視聴と変らないテレビ視聴形態を持ち、データ放送、EPGをはじめデジタルテレビの機能を全く利用していない。
視聴行動の変化をほとんど表明しないのも特徴である。
5.まとめ
 テレビ視聴に全く変化が見られず、従来通りの視聴を続けている人々も存在したが、一方で、テレビ「視聴」からテレビ「利用」へとテレビへの向き合い方が変化してきている人々が見受けられた。さらに、地上デジタル放送の多機能のいずれを利用していくかによって、視聴・利用者の間で分化が起こりつつあり、それが一定のパターン群を示していることが伺えた。
 同じテレビ受信機でも今後は人により異なる利用の仕方がされていくということが推測される。
6.おわりに
 地上デジタル放送の普及とともに、人々におけるテレビの位置づけを明らかにする事がますます必要となる。今後この研究を継続していきたいと考えている。前回、今回と助成をしていただいた放送文化基金に厚くお礼申し上げたい。
2007年10月掲載

平成17年度 助成/人文社会・文化
 「デジタルテレビにおける多機能サービス利用行動に関する研究」
<共同研究者>茨城大学 准教授 岩佐 淳一