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研究報告会
人文社会・文化研究報告

過去のテレビ番組と記憶の共有
―超高齢化する山口県の島嶼地域での高齢男性を対象にしたフィールド調査
国広 陽子 東京女子大学教授
大坪 寛子 慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所研究員
 テレビ番組には、同時代を生きた人たちの記憶共有装置としての機能があるのではないか。その機能を超高齢社会で生かせないか。調査地山口県周防大島では、定年まで都会で働いた後に帰郷した男性が、地域の再生にむけたさまざまな活動を始めている。だが長年、島で暮らしてきた男性と、都会からの帰郷者とでは、同じ高齢者でも互いの文化的経験の違いが大きく、両者が恊働する活動とはなりにくい様子が観察された。帰郷者と継続して島で暮らしてきた住人とが過去のテレビ番組を共同視聴することで、同世代としての記憶を共有し、両者のコミュニケーション活性化が図れないか。そう考えて、テレビ放送初期の1950年代末から80年代までの番組を共同視聴し、番組に関連した生活経験を話し合う場を設け、その経過自体を映像で記録しながら観察した。
 理髪店、電気店などで共同視聴していた当時の記憶が蘇り、コミュニケーションが活発化する面があったものの、70-80年代の番組については共有される記憶は少なく、「テレビ見ていない」「見る間がなかった」との発言が目立った。
 現在70-80歳代の高齢男性は島に在住していた者であれ都会で働いていた者であれ仕事中心の、テレビ娯楽とは縁のうすい生活を送っていた。仕事中心の現役時代を送ったこの世代の男性たちは「忙しくてテレビを見る間もなかった」という記憶を共有し、調査者らの「テレビ番組の記憶が共有されているはず」との前提は一部崩れた。
 この調査から示唆されたのは、「テレビ」視聴経験の地域差、世代差、ジェンダー差などの多面性である。またテレビ番組よりも当該地域のイベントなどの映像記録が希望された。そこから、地域の映像記録を残し、共有し、上映して「記憶の共有化」を図る活動の重要性も浮んだ。放送局による映像アーカイブの充実も必要だが、地域アイデンティティと番組制作側の視点とは重なるとは限らないため、住民による映像記録、上映活動が地域活動として行われることがより望ましいだろう。
 報告会では、高齢化した地域で、誰が、どのようにそうした活動を実践するのか、放送局はそれをどう支援できるのか、という新たな課題について、番組アーカイブ関係者から前向きな発言をいただくことができた。また、世代によるテレビ経験の違いについても貴重な意見をいただいた。こうした報告会の機会を与えていただいたことを深く感謝している。

◆研究報告者 プロフィール
国広 陽子(くにひろ ようこ) 
東京女子大学現代教養学部教授
慶應義塾大学卒、同大学新聞研究所修了。NHK勤務を経て、同大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(社会学)。1998年より武蔵大学社会学部、2009年より現職。著書に『主婦とジェンダー』(尚学社,2001),『テレビと外国イメージ』(共著、勁草書房、2004),『地域社会における女性と政治』(共著、東海大学出版会、2010)。
大坪 寛子(おおつぼ ひろこ) 
慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所研究員
慶應義塾大学社会学研究科後期博士課程単位取得退学。2004年より慶應大学等非常勤講師を経ながら現所属。著書・翻訳書に『テレビニュースの世界像』(共著、勁草書房、2007)、『マス・コミュニケーション理論』(バラン他著、共訳、新曜社、2007)等。