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平成18年度研究報告会「災害情報伝達とデジタル放送の可能性」 |
デジタル放送地域情報XML(TVCML)
共通化の研究 |
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田島 誠
デジタル放送地域情報XML共通化研究会
座長
(東海テレビ放送) (平成17年度助成) |
【はじめに】 |
本稿は書下ろしである。基金からの要請は、研究報告会での原稿を3〜5枚にまとめてとのことだったが、発表のほとんどをアドリブで話して時間を埋めてしまい参加者からの厳しい視線にさらされた(?)身としては、忠実に再現することができない。
報告会でご紹介したとおりデジタル放送地域情報XML(TVCML)の2.0草案も公開できるまでにまとまったので、TVCMLに関心を抱かれた方にはTVCML2.0(http://tvcml.jp/)をご覧いただくことをお薦めして、本稿では、TVCMLをまとめようというきっかけは何か、地上デジタル放送や災害報道の現場に携わる者として何が課題であり、解決手法は何かについて考察したい。 |
【情報構造化の意義】 |
昨年、あるデジタル放送研究会の場で、「キーワードは『構造』」と申し述べた。耐震偽装の頃でもあったが。やはりプロたる者は「見た目」だけでなく「構造」にも気を配らなくてはならない。情報の構造とは何か。 |
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情報には、紙など記録メディアを媒体に保管されている情報や、電子データに変換されて保管されている情報がある。
電子データは、構造化データと非構造化データに分けられる。構造化データは、わかりやすく言えば帳票として表現できるデータを指す。決められた場所に、決められた長さで、決められた項目を表示すると、それが情報として活用できる。
一方、非構造化データは、電子メールや文書ファイル、音声、動画など、個人が自由に表現できる分野のデータである。これらのデータは、そのままの形で情報として扱うことができるが、データの保管場所やファイル形式などが構造化データのように統一されていないため、管理が難しく、コストも多大となる。また、非構造化データは、勝手に更新したファイルが多数存在し、その内容がどう変更されたのかを把握できないため、どれが信頼にたるファイルなのか管理できず、再利用できないことが多い。
「情報」の流通性を高めるには、一旦、構造化データという形に修正することになる。
非構造化データのもつ自由な表現性を活かしながら、情報の構造化表現を進めるために注目されるのがXMLである。
情報は必ず構造を有する。しかし全てが明示されるわけではない。
わかりやすいところで言えば、5W1H→When いつ(どんなときに) Where どこで(どこに、どこへ、どこから) Who だれが(どんな人が) What なにを(どんなことを、どんなものを) Why なぜ(どうして、なんのために) How どのように(どんなふうに、どうやって) というのは、ニュースの基本ともいわれる情報の構成要素であり、構造情報でもある。
このうち、「いつ」をとってみても、時系列で言うと事前連絡日時→事象発生日時→(公開前)伝達開始日時→(公開前)伝達終了(受領)日時→公開開始日時→公開終了日時→情報消滅日時 と考えられ、情報内容によってはこれらの順序が入れ替わる場合もある。
また、「だれ」を考えても、事象の当事者、情報の一次発信者、情報の入手者、承認者、伝達者、受領者、判断者、などの存在が考えられる。
これらの情報をオープンに取り扱うときに不可欠な構造情報は、クローズドの環境では明示されないことも多く、あたかも暗黙知のように取り扱われがちである。例えばニュース番組を考えても、誰がデスクで、誰が記者かは当たり前の話で、記者やデスクへの信用で構造情報は省略できる。60秒のニュース原稿(もちろん最低限の5W1Hは必要だが)
と、映像と、画面スーパー原稿があれば放送できるのである。
だが、データ放送やWEBで情報を取り扱うには、詳報性が求められるし、情報は受信しようとする者の意図によりいつでも入手できるので、変化時間に合わせた正確な情報提示が求められる。これまでの放送(ニュース)のような揮発性を言い訳にすることができない。データ放送やWEBでは情報のライフサイクルが重要な要素となるからである。
広く言えば、これまでのアナログ放送のフローは暗黙知的に進んできたのだが、デジタル放送やデジタルメディアでは、形式知としての表現を怠ることができない。メタデータ管理=構造データ管理をしなければ、デジタルの特長を活かしきれないのである。
同時に、これまでのフローで暗黙知であった構造情報の投入を全て情報発信者に求めるのも酷であり、システム側でどう電子データとして補えるかも考慮する必要がある。 |
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放送事業者は、映像と音声という自由でリッチに表現できるメディアに頼ることができたため、また、情報を継続的に表現することがほとんどないため(選挙や報道特番では継続的な表現が必要だが)、情報の構造化に無関心であったともいえる。しかし、WEB・データ放送に携わる立場では大量の文章(テキスト)中心に情報を取り扱わなければならないし、継続的な表現が必要である。だからデジタル放送(WEB・データ放送を含む)でのコンテンツ表現のために情報を帳票的に処理できる共通XMLが必要となったのである。
情報を構造化し、帳票的に表現するというと、自由な表現が損なわれると考える向きもあるかもしれない。
しかし、新聞を考えてみて欲しい。新聞は、見出し・リード・本文・写真・図表で構成され、1行13文字で何行・・・といった形で「帳票化」されている。新聞が自由な表現をなしえないメディアだといったら怒られるだろう。様々な背景や、メディア間の共通性を保つことが必要だと考え、私たちは新聞社・通信社のスタンダードな共通XMLとなっているNewsMLをTVCML仕様策定の手本にした。
ちなみに、私見だが、ほとんどの情報が構造を意識せず発信されている中で、非構造化データから構造性を見いだし情報を管理しようというのがいわゆるGoogleなどの検索であろう。その挑戦には敬意を表すものの、情報の抽出性には情報発信者の意図が反映されないことにも留意しなくてはならない。 |
【データ放送の苦しさ】
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筆者は2000年3月から自局のWEB、ケータイサイトなどの業務に携わり、2000年9月に発生した東海豪雨で被害状況や対応などの速報を行った。インターネットを用いた情報発信の価値が評価され、データ放送でも同様の情報発信が可能ではなかろうかということで、自局でのデータ放送制作に大きく舵がきられた。
放送業界の横並びがいい意味で作用して、名古屋では自局でデータ放送を制作する局が続き、技術的にも名古屋全民放局での同一データ放送を実現(2006年8月)
するなど、名古屋のデータ放送は盛んである。しかしながら全国的には、データ放送への取り組みに躊躇する局がほとんどである。理由としては、コストもさることながら、技術的な要員不足、コンテンツ(情報)
投入、更新の体制が整わないことも一因であろう。
WEBでもそうだったが、当初はデザイン、情報投入、更新などを一から作り始める「静的な」「非構造化」コンテンツが提供されるが、次第にテンプレートや情報更新の自動化など「動的な」「構造化」コンテンツに移行していく流れにしていかなければ情報を提供し続けることは困難である。Blog、SNSのように題名、本文、写真を容易なGUIで投入できる情報発信が個人のレベルで隆盛しているのに対し、一から作り上げ、番組のお飾り的な情報しか提供していないデータ放送が威力を発揮できない状態にある。ダイナミックなデータ放送を実現しなければ、データ放送は活用されない。電子メールやアンケートに答えるように情報を投入できるCMSをイメージし、また必要な構造情報を補うなどして容易な情報の構造化表現を実現していかなくてはならない。
大きな反省は放送事業者側が前述のように情報の構造性を意図しなかったこと、テレビ(番組)を作る「シングルタスク=単一作業」しか頭になかったことであろう。デジタル化とは電子データを用いて「マルチタスク=並列作業」を実現しうる革命であるのに、多くのテレビマンにとっては「画質の向上」「16:9」しかイメージし得てないことである。
言い換えれば、非構造化データをもとにコンテンツ制作を行っていること、構造化データを取り扱っていても特有のデータでデータ処理の共通性がないため、情報転用の負荷が多大となっていることがデータ放送の苦しさである。 |
【地上デジタルテレビ放送の優位点】
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放送は多数の視聴者に即時に情報を伝達することができる。これを放送の即時同報性と呼ぶことにする。かつ、放送免許、インフラコストに担保され、放送は発信者の信憑性を保持して情報を伝達することができる。つまり、信頼性の高い情報を即時に多数の対象に向け伝達しうることが放送の持つ優位性であり、さらにデータ放送を活用することによって情報の閲覧性、詳報性が加わるのである。
IPなど通信(インターネット)でも情報伝達が可能と思われるかもしれないが、受信しようとする者が集中すれば輻輳する。マルチキャストも同報性を保証できない。中継時の消失もありうる。原理として、放送が即時同報性に優れているのは当然である。
この放送の特長を、現場からの中継映像だけを送ることだけに使うのはもったいない。
これまで、テレビ放送が発信する情報は発信された時点とほとんど同時に受信(認知) されることが前提となる、揮発性の高いものであった。録画されたとしても、情報の受信者はその内容が録画により表現(再生)
されていることを承知している。
そもそも、新聞、テレビ、雑誌などのメディアはある特定の時点(ニュース番組の放送時間、朝刊・夕刊、週刊・月刊のタイミング)で情報を定着させた形で情報を発信してきたのだ。
また、発信者側をみても、ニュース原稿となっているものはあるが、記者リポートであれば、原稿のない実況であったりして、文章(テキスト)化して保存するというような習慣はなかった。その後各局で報道支援システム、報道原稿システムなどといった形で原稿の電子データ化は進んだ。これらのデータはWEBやデータ放送へも流用されているが、もともとがニュースとしての原稿利用であり、原稿内の情報構造や属性を取り扱うところまで関心が払われていなかった。電子データ処理でありながら、単一目的のためにシステムが構築されるといったことばかりであったのだ。
WEBやデータ放送では刻々と変化する事象に対しての情報の変化が求められ、ある特定時点で情報を定着させた形での情報表現が難しくなる。
TVCMLをまとめるきっかけとなった愛知万博の例を挙げる。
データ放送ではニュース以外に毎日の入場者数やパビリオンなどでのイベント情報、交通アクセス情報、混雑状況などを取り扱いたいと考えたのだが、これらの情報をデータ放送制作システムに6ヶ月近く「人的に」投入し続ける運用は煩雑すぎる。電子データとして取り扱われている情報をあえてFAXで受け、再度入力するというのは、まるで水道管を途中で切り、間にバケツリレーを挟むような不効率なものであると思われた。
しかしながら、各放送事業者間でデータ放送の制作送出システムが異なるために、これまでは相手(情報発信側)の仕様にその都度あわせるか、FAXなどで受けた情報を再度入力しなおす手間がかかった。
そこで情報の発信者となる博覧会協会と在名の放送事業者とで伝達する情報の仕様をXMLを用いて共通化する調整を行った。このXMLがTVCMLである。
放送の即時同報性はもとより、視聴者=住民が情報を受信する手段として、地上デジタル放送の簡便性に着目した愛知県内の自治体もこのTVCMLの取り組みを支持してくれた。万博開催期間中に、愛知県内の市町村レベルで構成する愛知県自治体地域情報プラットホーム研究会が中心となって万博会場周辺自治体からの地域情報をTVCMLを用いて伝達する実験を行った。詳細は以下サイトに掲載されている。
http://www.city.seto.aichi.jp/sosiki/drpc/1932/index.html
その後、正確かつ多岐にわたる情報表現が必要な、災害時の情報伝達をテーマとしたTVCML2.0 を共同で策定することとなったのである。
TVCML2.0 での配慮点については、公開文書に詳しく、ここでは略する。
デジタル化はHDだけではない。HDになるのはテレビが得意な「見た目」の変化であるから、そちらに関心が向きがちだが、情報伝達を支えるインフラの変化であると理解しなくてはならない。情報が電子データになり、流通性が高まったにもかかわらず、情報を「バケツリレー」で伝達していることに問題意識を抱いていない向きが多い。
放送事業者がデジタル化のメリットを業務全体を通じて獲得するために何が必要かを考えていかなくてはならない。放送事業者は免許を受けて限定された環境で放送を行うものであるから、正確で信頼しうる情報を提供できるようにしなくてはならない。そのための環境整備の1つが、デジタル化のメリットを活かした情報伝達の仕様共通化である。
この試みは愛知万博の開催をきっかけに、認知され始め全国に広がろうとしている。私たちは自分たちで提案した手法が劣っているのであればそれを押し付けようというつもりはない。この研究と提案がきっかけとなって、もっと優れたものを作ろうという試みが各地で起こるかもしれないが、放送が受信者・視聴者に支持されるものであり続けたいという理念が根底に流れている者同士の取り組みであれば、おのずとTVCMLの取り組みが支持され浸透していくのではないかと考えている。
データ放送まで手が回らないという放送事業者も多いであろうし、その実効性を疑問視する向きもあるかもしれないが、データ放送が目的と考えると見誤るであろう。
地域ごとに免許を受けた放送事業者として、地域の情報をより確実に、詳細に入手することができる仕組みを考えるのは当然のことである。
放送事業者がその努力を怠れば、視聴者は信憑性に疑いが残る情報伝達に頼らざるを得なくなってしまい、結果として地上テレビ(デジタル)放送の価値が低下する。優れたパッケージドコンテンツの提供ばかりに目がいきがちだが、それだけでは放送の価値は保てない。
放送などメディアのデジタル化を活かすことができる情報伝達手法について解を求めるならば、情報の構造性にぜひとも着目いただきたい。そして、多くの人々に正確に伝えて初めてマスメディアの伝達なのだから、共通性を保つことにも関心を持っていただきたい。
さまざまなところで情報処理・情報データベース構築の取り組みを始めるのに、TVCMLが役立てばうれしい。 |
田島 誠(たじま まこと)
デジタル放送地域情報XML共通化研究会 座長
(東海テレビ放送 編成局デジタル事業部部長職) |
1965年生まれ。1987年 東海テレビ放送(株)入社、報道局報道部、営業局営業推進部、東京支社業務部を経て、2000年3月から編成局デジタルソフトセンター(現デジタル事業部に改称)、インターネット・デジタル放送の企画に従事したのち、現職。
2004年、在名局万博データ放送WGで名古屋全局の万博データ放送用規格の取りまとめにあたり、2005年11月からデジタル放送地域情報XML(TVCML)共通化研究会の座長を務める。 |
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