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平成18年度研究報告会「災害情報伝達とデジタル放送の可能性」 |
デジタル時代に向けた地域放送局の
社会的機能に関する実証的研究 |
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音 好宏 上智大学文学部新聞学科助教授
(平成16年度助成) |
【はじめに】 |
地上デジタル放送の本格的な普及に伴い、デジタル放送の特性を生かした地域向け放送サービス充実の可能性が語られる一方で、デジタル化を契機として、ローカル民放の経営基盤を脆弱化してしまうことへの懸念や、他のエリアの放送事業者との経営統合を促すなど、地上放送の地域メディアとしてのあり方については、さまざまな論議、憶測がある。はたして各地域放送局は、「放送のデジタル化」にどのように向き合い、その地域的機能を中心とした社会的機能は、どのように推移しているのか。
本研究では、以上のような問題意識のもと、その実態調査を踏まえて、多角的な検証を行った。調査にあたっては、近年の放送事業者を取り巻く事業環境の変化に留意しながら、その実態を、放送関連データと全国の放送現場の関係者ヒアリング調査により分析、モデル化を試みた。
ただし、本研究の調査実施時期であった2004〜05年は、「通信と放送の融合」論議に代表されるように、日本の放送メディアにとって極めてドラスティックな変革論議が進められた時期でもある。本研究では、この時期に浮上した放送界を取り巻く変革の動きにも目配りをしつつ、調査研究作業を進めた。 |
【調査・検討作業の概要】 |
具体的作業としては、まず第1に放送事業、サービスに関する実態データの分析などを中心におこなうことで、放送のデジタル化が日本の放送サービス、特に地域放送局の運営にどのような影響を及ぼしつつあるのか、マクロ的な検討を行った。
特に検討した主なポイントは、以下の通りである。
・ デジタル化にあたっての地域情報強化の実態
・ デジタル化に向けた地域行政との関わり
・ 放送事業者の系列化の進捗状況(新聞社、キー局からの役員の派遣状況など)
・ 事業規模の実態(売り上げ規模、社員数の変化など)
・ 番組制作の自社制作比率の変化
それらのデータ整備を行いながら、第2に全国の地上テレビ放送事業者を対象にしたメディア関係者約40人に対してヒアリング調査を精力的に行うことで、その実態を浮き彫りにするとともに、今後の課題について検証した。特に検討した主なポイントは、以下の通りである。
・ 制作体制・制作能力の変化(自社制作番組の位置づけ、制作費、制作人員など)
・ デジタル化にあたっての地域情報サービスへの姿勢
・ デジタル化に向けた地域行政との関わり
・ 今後の事業戦略、課題
以上の作業を踏まえ、地上放送のデジタル化が進むなかで、放送事業者がその地域的機能をどのように位置づけ、また、それがどのように実現されていこうとしているのかを整理・分析、パターン化することで、その問題点・課題を浮き彫りにした。
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【研究成果のまとめ】
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放送のデジタル化は、既存の放送事業にとって、経営の根幹に関わる重要問題である。
特にNHKや在京キー局などに比べ事業規模の小さい、在阪、在名以下の民放局にとっては、地域情報サービスの強化を含む新たなサービスの可能性が語られるものの、経営問題とのはざまで、地域情報メディアとしての機能強化に対しては、実質的に対応できないでいるローカル民放局が圧倒的に多いことが明らかになった。
まず、民放事業に関して言えば、地上放送のデジタル化が本格的に議論が進んだ1995年以降、経営的には以下のような変化が見られた。
1)在京キー局、そのキー局とその資本関係にある全国新聞社を中心に、民放ネットワークの系列化強化が進んできたことが明らかになった。キー局とその資本関係にある新聞社からの増資、役員の派遣が進んでいる。
2)ローカル局側も、デジタル化対策を理由に、その系列化を「積極的」、または、「やむを得ず」受け入れる状況に追い込まれた。
3)民放事業の人員政策に関しては、景気動向にリンクすることがしばしば指摘されてきたが、デジタル化が論議されて以降、経営のスリム化の名の下で、早期退職制度や新人採用の抑制により、人員削減が暫時行われてきている。その傾向は、ローカル放送局ほど顕著である。事業経費の削減策も積極的に行われてきたが、経営の厳しい局、ローカル局ほど、その抑制が制作費にも及ぶ傾向が見られた。
加えて、研究計画時には予測し得なかったことであるが、2005年2月のライブドアのニッポン放送株の大量買収、その後の楽天によるTBS株の大量取得など、在京テレビ局の買収が、現実に起きうる状況が生まれている。これにより、系列内の資本関係をより強化することにより企業防衛を図ろうとの動きが生まれた。
以上のような状況のなかで、民放局に関して言えば、
1)地域(密着)番組の充実と、それらの番組に連動した新サービスの提供
2)データ放送などによる独自の地域情報サービスの開発、提供
を、積極的に行う放送局が若干ある一方で、多くの放送局が、そのビジネス的な理由から、地域情報提供のより一層の充実に逡巡しているところが多い。
他方、NHKのデジタル化を契機にした地域情報の強化に関しては、データ放送によりエリアを細かく限定した地域情報の提供、並びに、水戸放送局に代表されるように、地域放送の充実が計画された。しかし、2004年夏のNHK不祥事の発覚を契機とした受信料収入の減少、並びに、NHKの経営計画の見直しなどにより、当初、掲げられた地域情報の充実は、その速度を弱めた状況に至っていると言わざるを得ない。
以上のような分析結果をもとに、各放送局の「地域的機能」に対する実行性、その姿勢を整理すると、以下のように分類することができる。 |
【放送局の「地域的機能」の実現、「地域的機能」への姿勢による分類】
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O群:地域的機能を実態上、重視せず。
規模のメリットを追求する傾向。
I群:地域的機能を戦略的に重視。新規サービスにも積極的。資源を傾斜配分。
II群:地域的機能を番組を中心に発揮。新規サービスにも関心。
しかし、市場環境からの制限。
III群:地域的機能の発揮する場は、報道、情報ワイド、各放送賞向けが中心。
市場環境厳しい。
IV群:経営環境から、地域的機能を実質上優先できず。 |
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以上のような分析をまとめると、デジタル化の導入にあたって喧伝された「放送の地域的機能の強化」は、その導入段階の現状においては、その経営的要因を中心的理由に、その充実が全国的規模で進んでいるとは言い難い状況がある。もちろん、地域的機能の充実に関しては、それぞれのエリア特性、各事業者の事業規模、経営陣の問題意識などによって異なる。経営判断として、より積極的な展開を図っている放送事業者も一部に見られるものの、現状においては、そのビジネス・モデルの検討も含め、本格的な対応がなされていないところも多い。
2011年7月のアナログ放送の停波をスケジュールとして掲げるなかで、デジタル放送による地域的機能をどう充実していくのか、より高度な政策的検討が必要となってきていることが浮き彫りになった。 |
音 好宏(おと よしひろ)
上智大学文学部新聞学科 助教授 |
1961年生まれ。90年上智大学大学院文学研究科博士後期課程修了。日本民間放送連盟研究所勤務。94年上智大学文学部新聞学科専任講師、99年同大学助教授となる。2000年にはコロンビア大学客員研究員も務める。マルチメディアを中心としたメディア研究、情報社会、社会学、および社会変容とマスメディアに関する研究を行っている。日本マスコミュニケーション学会理事、日本社会情報学会理事、日本社会学会会員、情報通信学会会員。 |
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