2)中間報告から |
ここで、先に放送文化基金に提出した中間報告の内容と大部分が重複しますが、当研究会がこれまでどのような研究を行ってきたかを報告します。 |
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本研究では、防災情報を広く人々に伝えるために、デジタル放送の特性を活かしたどのような利用手法が考えられるかを調査研究し、来るべきデジタル放送時代の放送サービスのあるべき姿を研究するものです。とりわけ、災害時の避難を効果的にするには、避難勧告などの防災情報をもっと的確に、迅速に伝えるうえで、どのような可能性があるのか、またさらに、日ごろから、国民の自助に繋がる防災放送の役目を果たせるようにするには、どのような課題があるのかを明らかにすることが本研究の目的・意義です。 |
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日本災害情報学会が初めて設置した研究会20名のメンバーを中心に、下記の通りの日程で、勉強会を開いての専門家からのヒアリング、および新潟県の事例研究(H.16水害、新潟県中越地震、H18豪雪)、三重県の事例研究(H.16津波、土砂災害)、九州の事例研究(H.17台風14号災害)の3つの地域へのそれぞれ数次にわたる現地調査等を実施しました。 |
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10回にわたる本研究会の勉強会では、デジタル放送や携帯電話の専門家らを講師に招いてレクチャーを受けた後、適宜話題提供を交えつつ、ディスカッションを行いました。また、NHK放送技術研究所等最前線を実際に訪問しての視察調査も行いました。(毎回のレクチャーと質疑の詳細については、別途、研究会活動記録の資料として記録をとっているので、最終報告書の中で参照できるようにしたい。)
さらに、多種多様な考えを持つ異なる専門分野メンバーで現地調査班をつくり、ケーススタディとして、新潟を中心とした平成16年7月豪雨水害や同じ年の10月に発生した新潟県中越地震、平成18年豪雪、九州地方を中心とした平成17年台風14号の記録的な被害の現地調査などにあたりました。これらの災害では、避難勧告が住民に伝わらなかったとか、そもそも避難勧告が遅すぎたとか、物理的にばかりではなく、情報的にも地域が孤立してしまったとか、災害時の情報伝達の面でもさまざまな問題が生じました。このため、本研究会では一連の災害が地上デジタル放送が普及した段階で発生した場合には、どのような新たな情報提供が可能になるであろうかという視点からの考察を行いました。
(それぞれの調査の詳細については、別途、参考資料を参照されたい。)
これまでの勉強会や現地調査を通じて、従来のアナログ放送画面の文字スーパーやL字型の文字スーパーなど実用化されている情報伝達方式に変わる、より豊富な情報伝達システムとしてデジタル放送のデータ放送が期待できるという実感を強めました。そのほかにもデジタル放送が災害情報の伝達に果たす可能性についてはいくつか考えられますが、なお詳細を詰める必要があります。このため、今の段階での取りまとめとしては、次のような事項を研究成果として掲げておきたいと思います。 |
1) |
地上デジタル放送の普及段階
地上デジタル放送の普及途上にある現状では、NHK,民放ともに地上デジタル放送を始めたばかりであったり、これから始めるための準備を進めている段階であり、アナログ放送とデジタル放送の同時放送という過渡的な段階で、放送局側に負担が過剰になるような提言は避けたいところですが、せめて、各放送局ですでに取り組んでいるホームページのニュース速報程度の内容はデータ放送にも流れるようにすることによる、データ放送の充実に期待をしたいと思います。その際に、情報提供側、受信側ともに新たな作業や負担を発生させないということが実行可能性を担保するうえでの重要な条件になりそうです。とくに地域を特定してのデータ情報の提供が技術的にはできると期待されている1セグ方式は、平成18年4月から始まった地域がありますが、NHK,民放ともにまだ、テレビ放送・データ放送ともに1セグのための特別な番組が通常作られているわけではないようです。災害情報の伝達の面で、1セグ方式ではどのようなサービスが期待できるか大変興味あることであり、今後、具体的な取り組み方を検討していくうえでも、EWS(緊急警報システム)などあらたな情報伝達システムの構築に期待をしたいところです。 |
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2) |
2011年のデジタル放送への全面移行後
2011年のデジタル放送への全面移行後の取り組みとしては、大幅に内容の充実を期待したいところであります。上述の1セグによる地域を特定しての情報提供だけでなく、通常は12セグを使用してハイビジョン放送をしている各局が、大きな災害などの時には4セグによる3つのチャンネルでの放送に切り替えれば、災害情報のために特化したチャンネルをもうけることが技術的には可能であり、すでにNHKの教育テレビのデジタル放送で、随時、実行しているところであります。
しかし、通常は東京のキー局からの放送を流している時間帯が多い地方の放送局にとっては、災害情報のためのチャンネルを特設することは大変負担が大きく、躊躇することがいまから心配されます。(1県1放送なら一思いに12セグで災害報道をやればいいのだから。) |
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そのためには行政等の防災関係機関からの情報伝達は、省庁や都道府県・企業等によってばらばらな方式をとるのではなく、統一的なデジタル情報の伝達方式を採用し、双方の労力を大幅に軽減することが前提となります。すでに愛知万博のときのテレビ局側と博覧会関係情報の提供者との間で運用した方式などを、行政情報の伝達にもひろげる研究など、各地でデジタル放送時代の情報伝達の新しいシステム作りが進められていますが、当研究会としても、今後関係機関相互の連携による全国統一的な新しいシステムの構築を急ぐことを提言したいと思います。 |
□勉強会
回 |
開催日 |
場所 |
テーマ・講師 |
第1回 |
2004.11.18 |
東大廣井研究室 |
「NHKのデータ放送」NHK・羽太・藤吉・田代 |
第2回 |
2005.01.22 |
アジア航測 |
「豪雨災害と地域放送の実際」NHK・羽原/MBS・有馬 |
第3回 |
2005.02.25 |
気象庁 |
「デジタル放送と民放の取り組み」民放連・砂川・笹田 |
第4回 |
2005.03.25 |
東大山上会館 |
「気象情報の歴史と展望」気象庁・市沢 |
第5回 |
2005.04.23 |
TBS |
「NTTの試みとTBSのデータ放送」
NTT・東方・林・藤巻/TBS・天野 |
第6回 |
2005.05.25 |
NHK技術研究所 |
「技術研究所公開見学」 |
第7回 |
2005.06.10 |
東大地震研究所 |
「東京ガスと東京電力の防災対策」
東京ガス・坂口/東京電力・花村 |
第8回 |
2005.09.18 |
NHK放送センター |
「愛知万博とデータ放送」NHK・兄部 |
第9回 |
2005.11.26 |
東大地震研究所 |
「緊急地震速報と地震データの応用」
気象庁・斉藤/東大・鷹野 |
第10回 |
2006.03.26 |
島嶼会館 |
「三宅島噴火とインターネット」
アジア航測・千葉/元NHK・平塚 |
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□成果の発表
【既往発表実績】
●日本災害情報学会誌「災害情報3」(2005.3):日本災害情報学会「デジタル放送研究会」活動状況
藤吉洋一郎・笹田佳宏・桜井美菜子・天野 篤
●日本災害情報学会「NewsLetter21」(2005.4):デジタル放送の特性を活かした災害情報の伝達のあり方研究会
天野 篤
●日本災害情報学会「第7回研究発表大会」(2005.10): デジタル放送の特性を活かした
災害情報の伝達のあり方研究会 〜1年間の活動〜
藤吉洋一郎
●日本災害情報学会「第7回研究発表大会」(2005.10):
災害時,地上デジタル放送はどのような役割を果たすことができるのか
〜2004年三重県で発生した紀伊半島南東沖の地震津波・台風21号土砂災害事例から〜
水上知之・桜井美菜子・天野 篤・天野教義・有馬正敏・神吉千太郎・田口晶彦
●日本災害情報学会「第7回研究発表大会」(2005.10):
災害情報の収・伝達システム改善への展望 〜地上デジタル放送と災害報道〜
小田貞夫・大西勝也
●日本災害情報学会「第7回研究発表大会」(2005.10):
“土砂災害危急情報”に適する姿
天野 篤・湯川典子
●日本災害情報学会誌「災害情報4」(2006.3):災害情報の収集・伝達システム改善への展望
〜地上デジタル放送の可能性と課題を放送業者に聞く〜
小田貞夫・大西勝也
●日本災害情報学会誌「災害情報4」(2006.3):三重県における地上デジタル放送活用の可能性
水上知之
●日本災害情報学会誌「災害情報4」(2006.3):台風0514号災害 宮崎・鹿児島現地調査(速報)
藤吉洋一郎・有馬正敏・水上知之・天野 篤
●平成18年度「砂防学会研究発表会」(2006.5):台風0514号時の鹿児島県「土砂災害警戒情報」
−垂水市の事例を省みて−
天野 篤・藤吉洋一郎・有馬正敏・水上知之
●鹿児島MBC・NHK共催シンポ(2006.6):(パネルディスカッションで話題提供) 藤吉洋一郎
●日本災害情報学会デジタル放送研究会「公開フォーラム」(2006.7):(日本災害情報学会主催の本研究単独成果発表)
●放送文化基金「研究報告会」(2006.9):(放送文化基金主催の助成研究成果発表のひとつ)
【今後発表予定】
●気象学会「2006年度秋季大会」(2006.10):スペシャルセッション
「土砂災害警戒情報」の検証
天野 篤・有馬正敏・弘中秀治
●日本災害情報学会「第8回研究発表大会」(2006.10):中山間集落における大雨避難
―台風0514号時の宮崎・大分県下の事例―
天野 篤・藤吉洋一郎・水上知之・湯川典子
●河川情報センター講演会(2006.10):デジタル放送への期待 藤吉洋一郎
●日本地すべり学会誌「地すべりの危険度評価とソフト対策特集号」(2007.3):土砂災害と防災情報
〜台風0514号災害の避難に学ぶ〜
天野 篤・高山陶子
●日本災害情報学会誌「災害情報・5」(2007.3):土砂災害警戒情報を避難に活かすには?
〜報道・自治体・住民 それぞれの立場から〜
有馬正敏
●日本災害情報学会誌「災害情報・5」(2007.3):土砂災害を事前回避するための情報
天野 篤
●デジタル放送の特性を活かした災害情報の伝達のあり方研究会活動報告(2007.3):(最終まとめ,CDプレス)
●平成19年度「砂防学会研究発表会」(2007.5):地上デジタルテレビ放送による防災情報提供
天野 篤 |
□現地調査
日程 |
調査班 |
調査場所 |
調査内容 |
2005.07.14-15 |
三重 |
三重 |
平成16年土砂災害、紀伊半島津波警報 |
2005.08.01-02 |
新潟 |
新潟 |
平成16年新潟豪雨、新潟中越地震 |
2005.11.17-19 |
九州 |
鹿児島、宮崎 |
平成17年台風14号洪水・土砂災害 |
2006.02.26 |
長野 |
長野 |
平成18年豪雪 |
2006.03.04-05 |
新潟 |
新潟 |
平成18年豪雪、平成16年新潟中越地震 |
2006.03.09-11 |
九州 |
大分、宮崎 |
平成17年台風14号洪水・土砂災害 |
2006.03.23-25 |
三宅島 |
三宅島 |
平成12年噴火災害の現況 |
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□研究参加者と主な研究担当事項
藤吉洋一郎 |
大妻女子大学 |
代表・勉強会講師・技研視察・鹿児島大分宮崎現地調査・
新潟現地調査・名古屋現地調査 |
小田 貞夫 |
十文字学園女子大学 |
新潟現地調査 |
天野 篤 |
アジア航測 |
幹事・三重現地調査・宮崎鹿児島大分現地調査・
新潟現地調査・三宅島現地調査 |
川端 信正 |
静岡県地震防災センター |
指導 |
笹田 佳宏 |
民放連 |
幹事・勉強会講師・技研視察 |
有馬 正敏 |
南日本放送 |
勉強会講師・技研視察・三重現地調査・宮崎鹿児島現地調査・
三宅現地調査 |
田代 大輔 |
日本気象協会 |
勉強会講師・技研視察・長野現地調査・新潟現地調査 |
田口 晶彦 |
日本気象協会 |
技研視察・三重現地調査 |
山崎 智彦 |
NHK長野放送局 |
長野現地調査 |
鷹野 澄 |
東京大学地震研究所 |
技研視察・勉強会講師・名古屋現地調査 |
桜井美菜子 |
気象庁予報部 |
幹事・三重現地調査 |
志賀 康史 |
ウェザーニューズ |
技研視察 |
加藤 宣幸 |
建設技術研究所 |
技研視察・新潟現地調査 |
蔡 垂功 |
ベネッセコーポレーション |
新潟現地調査 |
羽太 宣博 |
国際メディアコーポレーション |
技研視察・勉強会講師 |
天野 教義 |
東京放送 |
技研視察・勉強会講師・三重現地調査 |
水上 知之 |
三重県 |
三重現地調査・学会発表・鹿児島大分宮崎現地調査・
名古屋現地調査 |
神吉千太郎 |
アジア航測 |
三重現地調査・名古屋現地調査 |
大西 勝也
|
大妻女子大学 |
新潟現地調査・学会発表 |
羽原 順司
|
NHK新潟放送局 |
勉強会講師・新潟現地調査 |
谷原 和憲 |
日本テレビ |
技研視察 |
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