音: ここから議論に入りたいと思います。私は、放送局に関する調査研究についてご報告させていただき、藤吉先生は「災害放送」という切り口でご研究され、田島さんは、「共通の言語」ということをどう考えるのかというご研究をされていらっしゃいます。話の中心は地上放送だったのですが、最後に田島さんからお話があったように、他のメディアとどのように連携していくのか、特に、災害に関しては他のメディアとの連携が重要になっていくのではないかと思います。田島さんのご研究のきっかけは、愛知万博だったとおっしゃいました。この愛知万博の実験に関しては、私自身も調べたのですが、“新聞との連携”という意味では大きな「事件」だったと思います。新聞業界も放送業界と同じで、閉鎖的な面もあると思うのですが、そういう意味で共通言語を作るということは非常に画期的だったのではないかと思います。そのことを展開していく上で、“メディアサイズ”が大きな問題になってきます。それは災害の時にもしばしば言われることで、災害情報を提供するときに、被災地にのみ必要な情報と、被災地の様子を知らせるという報道の使命とはサイズがちがうという問題があり、具体的に“放送より小さなサイズ”というものをどう考えていくのか。例えば、コミュニティFM放送が、先の新潟中越地震の時には被災地に対するきめこまかな情報を提供し、ずいぶん活躍しました。他のメディアとどういう形で連携が可能なのかという点について、お二方はどう考えていらっしゃいますか。 |
藤吉: データ放送については、他のメディアとの連携は考えていませんでしたが、災害情報については、他のメディアと放送がそれぞれ持ち場を持ち合っており、補完し合うメディアなのだということを、これまでの経験の中で痛感しています。ですから各々が得意な分野で自分たちが扱う情報を仕分けしていけばいい。ただ、テレビのデジタル化によってデータ放送などが可能になると、今まで放送が不得手だった分野に可能性が広がってきました。そういう意味では他のメディアと競合することになるのかもしれません。例えば、放送で死者千人分の名簿を読み上げる場合、長時間を要しますが、聞いている側が、千人の名前全てを聞きたいのではない。その中で自分の知り合いや親族がいないかということを知りたいわけです。ですから名簿がアイウエオ順に並んでいれば、必要な箇所だけを見ればいい。このことに関しては、放送は新聞というメディアには及ばなかった。それが、データ放送という形で名簿を提供し、それが目次から検索できる形になっていれば、知りたい情報をすぐに得ることができる。同じ情報を違ったツールで見ることが可能になるわけです。これはどちらかがやればいいという問題ではなく、共存する形が望ましい。そういうツールとしてデータ放送に期待をしています。 |
田島: 情報発信への責任の問題を考えるときに、“クロスメディア”というのが多様な意味をもってくると思います。例えば、報告の中で「ステイタス(状態)報道」ということを言いましたが、それで唯一イメージされるのは「選挙」ではないでしょうか。選挙になると、裏側では実際に放送が新聞と連携することもあり得ると思います。テレビが得られる情報と、新聞が独自の支局網を駆使して集めてくる情報とがあって、一言でクロスメディアといっても様々なやりとりがあり、経営的な支配力の問題も含めて侃々諤々あると思います。でもそれによって、情報の信頼性を担保する、情報の価値を世の中に認めてもらうということが、情報を出していくこと自体のコストが下がっていく中で必然なのではという気がします。 |
音: 私も同じようなことを思いながらお話をお聞きしていました。北海道で、非番組連動型のデータ放送をしている放送局の事例をご紹介します。今年は北海道で蜂が大量発生しているらしいのですが、それに関連して、釧路の地域紙で小学生が蜂に刺されたという記事が紹介され、また、道北地域の地域新聞で蜂の巣退治を何件やったという記事が載ったのですが、この放送局では、それらの記事を新聞社の整理部のOBの人がチェック、整理をして、札幌からデータ放送で流しているんです。そのニュース1つ1つは、断片的なファクトな訳ですが、それをずっと見ていると、“今、北海道で何が起こっているか”が読みとれるというような、いわゆる“マクロ・ミクロ・リンク”というようなことが起こっているのかなと思いました。ただ、私も少し関わったんですが、去年の新潟中越のコミュニティーFMなどの活躍を拝見すると、既存の大きな地上放送局や全国紙とのリンクというものはまだまだ現状においては厳しいのかな、と実感しているところで、研究の余地ありかなと思います。
もう少しやりとりをしたいと思いますがその前に、会場のみなさんからいただいたご質問・ご意見をご紹介したいと思います。まずは、放送文化基金の助成技術開発部門審査委員長(中央大学理工学部教授)の羽鳥光俊先生、お願いします。
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羽鳥: 興味深い研究会に呼んでいただいたのでコメントを出させていただきました。デジタル放送と災害をテーマにしたNHK名古屋放送局の番組に出たことがあり、そのときの発言の要旨としては、デジタル放送というのは災害に非常に強いということが一点と、携帯電話のメールが必ず力を発揮するだろうということを目玉にしました。デジタル放送がなんで強いかということですが、ご承知のように、電界が十分あれば、固定受信であっても移動受信であってもゴーストやフラッター等がないたいへんきれいな画面が受かる。確か2003年の地上デジタル放送を想定した番組でしたので(2003年2月27日収録)、その時点ではまだワンセグはなかったわけですが、今年4月からワンセグが加わりますと、車載機で、関東一円どこへ行っても受かります。ワンセグがないと東京都内に限定されますが、ワンセグがあると神奈川へ行っても熱海や伊東に行っても受かります。今年の連休、私は伊東に行っていたのですが、たまたま、5月2日が連休の谷間で、大学で講義があり東京、伊東を往復することになりました。その途中、熱海を走っている時に、大きな地震があったというニュースが入ってきて、ひょっとすると津波があるかもしれないというので、慌てましたが、2〜3分後のニュースで、幸い津波はないということがわかって、それ以上パニックに陥ることはありませんでした。藤吉先生から緊急警報放送のことをご指摘いただいていましたが、携帯電話に搭載したワンセグ受信機を緊急信号で目を覚まさせることは極めて有効なのですが、待機電力消費に不安があります。同じことならば携帯電話の通信ネットワークの方を使った緊急信号によって目を覚ますような仕組みをとる方がずっと待機電力は少なくなると思うので、ぜひ放送と通信とご協力になられておやりになったらどうかと思います。
もう一つ携帯メールの輻輳について申し上げます。先ほど申し上げたNHK名古屋放送局の番組は2003年3月に放送されたのですが、その年の5月に宮城県沖地震があって、あそこでメールが使用できない事態になりました。3月の放送で、回線交換はつぶれても、パケット交換の方は並たいてのことではつぶれないということを申し上げた直後だったので、これはたいへんだと思い、なぜあの地震で仙台一円のパケットのメールが動かなくなったのかとドコモの人に聞きました。すると、音声回線の輻輳制御とパケットのメールの輻輳制御を分離できていないということがわかり、私が尋ねたことがきっかけとなり、半年かけて回線交換と、パケット交換の制御を分離することを約束していただいて、翌年の4月までに直してくださった。その後10月に中越の地震があったのですが、山古志の地震ではアンテナが倒れたり回線が切れたりで、せっかく分離したのに役に立たなかったんです。次に2005年3月福岡県西方沖地震があったときに、回線交換すなわち電話はつぶれたけれども、パケット交換すなわちメールは生き残っていて、初めて役に立ったわけです。その後2005年7月に、東京で大きな地震があったとき、今度は東京で普及している3G(第三世代携帯電話)のメールがつぶれた。3Gの電話の制御とメールの制御が新しい方式であるために、2G(第二世代携帯電話)に関しては制御の分離ができていたのですが、3Gについてはできていなかったために間に合わなかった。既にその制御のやり方が確定したので3Gについても早く分離するようにするとドコモの方からご説明いただいています。現時点では、アンテナが倒れるとか、ファイバーが切れるということがない地震ならば、携帯メールは、災害情報伝達のときに大活躍するのではないかと思います。 |
音: ありがとうございました。これに続く形で災害情報についてのご質問を読ませていただきます。「危険にさらされる避難対象地域と、その他の安全地域の人々への効果的な伝達方法は、少々異なるのではないでしょうか。ワンセグ活用の可能性はどうなのでしょうか。」藤吉さん、コメントお願いします。 |
藤吉: 後者からコメントします。現在のワンセグは東京から全国へ向けてのデータ放送しかできないという運用になっていますが、そのメリットを生かすためにはせめて郵便番号程度の地域を対象にした情報を仕分けして、地方の放送局から出せるような仕組みが必要です。そういうものを作っても、実際に使ってくれるところがなければ実現は難しいとも思いますが、携帯電話はほとんどの人が持ち歩いていることを考えると、そういうやり方がいいのかなと思います。ただ、果たしてワンセグを全員がもってくれるかというと、私も何か月か持ち歩いていますが、ほとんどテレビを見るという道具としては使えないなというのが正直な実感です。ドラマなんかを鑑賞するには小さすぎてしんどい。何かをやっているということを確認する上では重宝なんですが、過剰な期待を持たない方がいい。テレビでこんな情報が流れているということがリアルタイムでわかるというものだと認識しておけばいい。テレビが見たければテレビのあるところに行けばいい。そういう意味でワンセグにどこまで期待するかという意味では、“何かあった”ということをまず通信の方に知らせる役目をもってもらって、そしてテレビで確認するという2クッションになってもいいのかなと思います。その方がはるかに普及が簡単だし、待ち受けの電力の消耗が少なくてすむというのであればその方がいいのかなと個人的には思います。 |
音: ありがとうございます。先ほど藤吉さんのご報告の中で静岡放送の事例がありましたが、その静岡放送で開発に携わった金原正幸さんがいらっしゃいます。どんなことをされたのか、簡単にコメントをいただけますか。 |
金原: 藤吉先生のお話にありましたように、実施したのは2006年3月です。静岡と兵庫と富山と茨城の4グループで総務省のパイロット事業を行ったのですが、弊社が行ったのはデータ放送を活用したよりきめ細かな情報伝達に関する調査研究というものです。これを静岡県が取りまとめ役になり、県内全放送局が参加する形で行いました。とはいえ、オリジナルのデータ放送を出せる局が静岡の場合はNHK静岡放送局と静岡放送だけだったので、弊社の設備を使い、この研究実験用のデータ放送を送出しました。どのようなことをしたかというと、災害情報をある時間軸に区切り、このとき、このような情報が必要だろうというのを先ず、想定しました。その想定は、静岡県が出している「第3次被害想定」に基づきました。それに沿った形でシナリオを作ったのですが、さすがに発災からをリアルタイムで何日もかけて行うわけにもいかないので、1日4〜5時間の実験時間の中で、発災から3〜4日後までを収めるスケジュールを作り、それを3日間行いました。静岡県側には災害情報を収集するシステムが既にありますが、それは飽くまでも県内自治体からの情報を収集し、被害状況などを把握するために使うことを目的とするもので、また、いくら訓練とはいえ、直接情報を渡すのはデリケートな部分もあるということから、今回は予めこちらでシナリオを想定して作ったデータを使いました。そのデータを位置情報とあわせて固定のデータ放送12セグの大きな画面とワンセグの小さな画面の両方でご覧いただくことができるようにしました。このあたりで避難勧告がでているというときに、文字だけではなく地図情報で位置を確認できます。処理情報量の問題などあって静岡市域だけに限定しましたが、その中で、郵便番号で登録してもらい、端末の中には3箇所予め設定できるという形にしました。それからなおかつ検索のような形で郵便番号設定を変えていけば検索も出来る形になっています。いろいろな問題がありましたが、技術的には概ね順調に研究実験を終えられました。その中で関係者の間では、こういうことは有用だけれどもなかなか実際に運用するのは難しいという話が出てきました。最も難しいのは自治体との連携をどうするかという部分だと思います。幸いにも静岡県の場合はIT関連の部署と災害、防災の部署、広報系の部署がこれをきっかけに定期的に話し合いを始めてくださったということをきいていますので今後その辺も整備されていくと思います。 |
音: ありがとうございます。今のお話と重なる形でご質問をいただいています。田島さんへということで、「自治体情報について共有するシステムについてご説明がありましたが、電気・ガス・水道(これは自治体ですが)などライフライン情報も共有化は進んでいるのでしょうか。」別の質問で、「TVCMLの記述能力はどの程度でしょうか。災害情報は多岐に渡ると思いますが、どのような範囲までカバーできるのでしょうか。設計の方針もお聞かせください。」田島さんお願いします。 |
田島: 最初のご質問に関して。ライフライン事業者とのやりとりは、NEWSMLを元にTVCMLを作っているので、新聞記事にすることが出来る情報なら伝達することができるとイメージいただくのが手っ取り早いと考えています。これまでのところ、電気、ガスという事業者さんとの話し合いには入っていませんが、放送局側としては、こういうフォーマットで情報がいただければ速やかに自局で放送することに勤めますのでフォーマット構造に合わせた形で情報提供をできないでしょうかとお願いするということになっていくのではないかと思います。どういった情報が生きているのか、どういった情報が伝達する意味を成さなくなったのかというやりとりについては、細かいのですが、TVCMLともう一つTVCMLの使える情報リストを送るという概念というのでそのリストにある情報を読み取って解釈して出すというようなイメージで構築しています。その辺の詳細につきましては、まもなく公開するものをご覧いただいてコメントをいただけると有難いです。記述能力については、申しあげた通り新聞記事にすることができる情報なら伝達することができる、ととらえていただくのがよいのですが、新聞で言う図表的に取り扱う情報、株式とかスキー場の積雪とか桜の開花とかのような情報、これについては、どのような構造で伝えていくかをさらにまとめていく必要があるかと思います。 |
音: ありがとうございます。災害情報の話を中心に進めてきましたが、これに関してご質問などございますか。私には全く違う、なおかつ回答しにくいご質問をいただきました。「デジタル化で大変なローカル局はキー局と組むのが良いのか、地元の新聞社と組むのが良いのか、ローカル局同士の方がよいのか、それらの組み合わせが良いのか、別の選択肢があるのか等、頭の痛い生き残り策を模索中です。いろんな事例があると思うので、面白いとか参考になりそうな事例を教えていただければ有難いです」それから「収益性、地域的機能の図がありますが、具体的な放送局名は伺えますか」というご質問です。
先ほどご紹介しました北海道の放送局はデータ放送を使って、北海道には北海道新聞という大きな新聞社がありますが、それよりもっと小さな地元の新聞社とリンクをすることによって自分達の立ち位置を決めるというようなことが一つの事例になるかと思います。また、ご指摘のように、パートナーをどう考えるのかというのは一つの考え方だと思いますが、その時に田島さん、藤吉さんのご指摘と非常に重なるところでございますが、何が一番の自分達が依って立つところなのか、田島さんの言葉を借りれば“信頼性”という言葉なのかなと思いますが、何をこの後のサービスの中心に据えるのかによってそれは決まるのかなと思います。今、ご紹介したデータ放送でローカル新聞、コミュニティ新聞とやりとりしている放送局は先ほど私の報告の中でご紹介しました通り、もう一方で何が起こっているかというと、1年に1回だけ自社制作のドラマをつくっていたそのドラマが、ネットで営業ができなくなり、バラ売りをせざるをえなくなってしまったようです。そういった局面で、最終的には自分たちの事業の理念、根っこは何なのかというところに立ち返るしかないのではと思います。作り続けることによって制作能力を維持できるという選択をするのか、それは厳しいからやめてしまわざるを得ないという選択をするのか。私は前者が良くて後者が悪いということを申し上げているのではなく、みんな前者の選択をしたいのだろうけれども、その時に最終的に判断をどうするのか、前者にしたいけれども後者にならざるを得ないということももちろんあると思うんです。その時にどう、自分たちの仕事、立ち位置を決めていくのかというところが問われるのだと思っています。私はそういう意味でデジタル放送というのは放送局にとって大いなる試金石といいましょうか、「あなたって何なの?」いうことを問われていることなのかなと思います。私へのご質問は以上の2つでした。引き続き、3人で議論していきたいと思います。 |
音: 実は、先週打ち合わせをさせていただいたときに、田島さんがこんなことをおっしゃいました。災害放送は誰にも必要な情報だけれども、それをとことん進めていくと、話としてはすごくブラックな話だけれども、それは放送局が警察署や消防署になるという話なのかもしれない、警察や消防署になるといえば誰も放送局がいらないとは言わなくなる、だから放送局は生き残れるであろうとおっしゃったんです。まさにそれはその通りかもしれませんが、もちろん田島さんはそれをブラックにおっしゃっているんで、そうではなくて、多分先ほどおっしゃっていた“信頼性”が大事だということなのだと思います。災害情報に強調されるように、“誰にとって必要な情報をどう提供するか”、が問われていると考える必要があるのだと思いました。東京メトロポリタンテレビが、三宅島に対して三宅島情報というのをずっと放送していました。それは編成局長のある種のご判断だったと思うんですが、一千万人いる東京のローカル放送局が、一千万オーダーではなく、数千オーダーの三宅島住民のための情報を電波を使って提供することの持っている意味、それをどう理論化し判断するかというところがこの話に問われるところなのかなと思います。そのあたりはどんな風にお考えでしょうか。 |
田島: まず、警察署、消防署というのはあくまでブラックジョークでして、多分警察署や消防署にはなり得ないと思うので、むしろ、儲かっている商店街の旦那が消防団でも活躍しているというイメージを描いています。消防団活動も頑張っているんで、普段の商売のときもみんなが親近感をもってくれるといいな、というところです。ここから先は本当に難しい話で、一方で先ほどの三宅島の話もそうですが、どういうスタンスでいるのかというところが問われていく、それが言ってみれば“地力”みたいなところになっていく。そういう判断がないと放送することの意義はどこにあるかを見失ってしまう。面白いものの送出管理だけしている状況ならば機械にまかせておけばいいわけで、ローカル放送局として、少なくとも自分たちの存在意義、そこからどういう情報を出していくかという判断、それが支持されるかという理念を構築し、矜持としてもっていなければならないと思います。 |
藤吉: 信頼されるためには、まちがいとかミスリードを避けなければいけないわけですが、現実はどうかというと、今朝のNHKのデータ放送を写真に撮ったものをご覧に入れたいんですが(写真映像)、首都圏のローカルとしてみますと、ニュース、首都圏の気象、道路交通情報、くらしガイド、地震被害を防ぐ、台風情報、功名が辻、ためしてガッテン・・・と書いてあるんですが、http://www.nhk.or.jp/data/svc/index.html(NHKデータ放送) 今、災害情報としてお話しているのはおそらくこの中のニュースの中の枝の情報になると思うんです。この中でも常時書き換えられていて、しかも外部から入力されて、NHKがまったく何もしないで書き換えられているのが、気象とか道路交通情報、台風情報などですね、何もNHKはチェックしていない。スルーで流れているものなんですね。そういう中に、自治体が提供してくれる情報が同じような並びでスルーで流れていくだろうかという部分がありまして、それぞれの放送局の報道の現場で議論になっている部分があると思います。つまりニュースの現場がそれが事実だということを確認してはじめてデータ放送としても放送する。ニュースとして確認をするというのは、実際にニュースで放送するということだと言う。とすると、せっかくオンラインで早々とテレビ画面ができているのに、ニュースで放送するまではこれがオンエアできない、今のところそういった運用ルールを作っているようですが、だんだんその信頼性が、条件が重なって担保できるようになれば、そのまま流れるということもあっていいのではないか。道路交通情報なんていうのは全く何もしていない、本当にそうなっているのかというのは見てもいないわけですが、ほとんど問題がおきていませんね。まちがっているというようなクレームを受けたこともありません。天気予報についてはNHKの天気予報が外れるというよりは、気象庁がまちがったと言われるだけで、誰が出しているかということがわかっていれば問題がおきないということでしょう。このように毎日コンスタントに定時的にくる情報に関しては、洗練された情報にしていくということが可能ですが、災害情報のようにどこでなにが起こるかわからないものを一定のレベルで担保するというのはもう少し議論、訓練、運用を積んでいかないと難しいと思います。ですからそれぞれの放送局の運用マニュアルの中で信頼性を担保していくということが必要だと思っております。 |
音: そろそろ予定の時間が近づいて参りました。今、非常に重要なご指摘いただいたように思います。NHKの兄部純一さんもいらっしゃっているので、名古屋のくらし安全情報をどのように作られたのか、メ〜テレ(名古屋テレビ)の福嶋更一郎さんもいらっしゃるので新聞との連動をどう考えているかを含めておききしたいなと思います。名古屋方式についてのコメントなどお願いします。 |
兄部: NHKのデジタルサービス部の兄部でございます。名古屋から異動になり、東京で仕事をしておりますが、今、藤吉さんからご指摘あった部分に関しては、田島さんも同じことを感じておられていますね。道路交通情報と気象情報に関しては数値系の情報でNHKもはなから全部フリーで出しているわけではなくて、フォーマットなど何を出すかということを充分吟味して、毎日同じものが来るのでそのままスルーで出しているということでございます。災害に関しても、一番最初にある地域で避難勧告が出たか出ないかというところについてはスルーで出ることはあり得ません。これは編集権の問題として、出ているか出ていないかはきちんと確認することが必要です。仮に杉並区で何々町に勧告がいくつ出ているかということを全部数え上げて確認をしていくと、さっきおっしゃったように何のために正確に迅速にデジタル情報をもらっているかということが意味を成さなくなりますので、その辺をどう確認していくかという点は検討が必要ですが、ある種編集権をきちんと担保し、確認をした情報を出していくという仕組みは間違いなく必要だと思っております。それからもう一つ言い訳をさせていただきますと、私も名古屋で仕事をしておりまして、名古屋は愛知県、大きく見ても愛知・岐阜・三重、3県中京広域を対象としてやっていけばよいのですが、首都圏というのは他の圏域の比べても最大の4000万人を対象にした放送をしている、東京で仕事をしていると、60万人の鳥取県と4000万人がなんで同じ電波でやっているのかという疑問を常に感じます。先ほどNHKの首都圏のデータ放送の写真をご覧頂きましたけれど、日本の中で最もチープなデータ放送にならざるを得ない。それぞれの地域の細やかなものについてなかなか出していけなくて、その辺は今後我々も勉強していく必要があろうかと思います。音先生がおっしゃった1000人のための情報を出していく放送局があることを肝に銘じろということについて、私どもも本当にそう思いますし、一方で関東広域4000万人にどうやって情報を担保していくかということも大事だと思いますので日々勉強していきたいと思います。 |
音: ご出席いただいたみなさん、特に民間放送の多くの方々は、じゃあそのビジネスの可能性は、というところにご興味がおありかと思いますが、その一つの事例として名古屋テレビの福嶋さんにお話を伺えればと思います。メディア連動ということで新聞との連動を具体的に実験されていらっしゃいます。 |
福嶋: 愛知万博の時に朝日新聞名古屋本社と連携し、地上デジタル放送の印刷コンテンツを使い「万博ペーパー」を実施しましたが、やはり新聞とテレビの文化の違いか、連携に対する考え方の違いがありました。新聞はペーパーになってはじめて新聞という意識がある一方で、朝日新聞もasahi.com(ウェブサイト)に力を入れ、すばやく情報記事を出す方向にシフトしてきているんですが、まだ放送と連携する意識は希薄です。情報をつかんで、それをデジタル化してどう出すかというのは、これからテレビ、新聞、ラジオなどがクロスメディアになっていく状況の中で、どこかが何かを集約したときにはじめて大きなビジネスになっていくのだろうと思います。ただ、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。音さんに対する質問にもあったように、デジタル化はローカル局に負荷をかけるものだと言われますが、私は、デジタル化はローカル局にとって大きなチャンスだと思っています。デジタル化を、有効な武器であり、ツールだととらえて、いろんな工夫をし、発展させれば、地域のメディアはさらに輝いていくのではないでしょうか。 |
音: 最後に一言ずつコメントをお願いします。 |
田島: このような中でまとめを申し上げるのはたいへん恐縮ですが、チャンスをつかみ、タイミングを逃さず、新しいことを考え、それをどう見せていくかは、日頃のトレーニング次第ではないでしょうか。それを怠れば、地デジになっていようがなかろうが、うまくいかないと思います。所詮サラリーマンがやっていることなので、与えられた中で一番いいスタイル、モデルを生み出すことに頑張るしかない。私たちのエリアでいうと、デジタルの可能性を一番うまく使うための“規格標準”の構築というのがカギになってくるんじゃないかと思います。 |
藤吉: 先ほどの提言の中でも申し上げましたが、共通プラットホームというものを早く立ち上げていくことが急務だと思います。それから、「TVCML」という名前をきいたときに、やはり「TV」と書いてあるからテレビ局のためのシステムか、と私どもも思いましたし、はじめて聞く人は誰もがそう推測すると思いますが、そうではないということを今日は田島さんが時間をかけて講演されたわけですね。それでも9月の発表でのネーミングは「TV」でいくんでしょうかね。 |
田島: 一応、放送に矜持をもっているということでご理解いただければと思います。 |
音: ありがとうございました。お話を伺いながら一点感じたことがございます。私は梅棹忠夫先生の造語だと思いますが、「放送人」という言葉が好きなんです。放送に携わっている方といえばそれまでなのですが、「放送人」の特色とは、おそらく、クリエイティビティ、新しいものを創ろうとするエネルギーなのではないかと思っています。それもプロっぽくなくてアマチュアっぽい部分をもったクリエイター、それがこのデジタルというところで何とか出せれば、波高しと言えども乗り越えられるのかなと思っております。状況は厳しいですよという研究報告をしておきながら、頑張れっていう、なんかひどい話ですが、私はそのクリエイティビティにある種未来をゆだねたらいいのではないかと思います。つたない司会で予定時間をオーバーしてしまいましたが、ここまでにしたいと思います。ありがとうございました。 |