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話題の放送番組を見る会・語る会(第6回)開催報告
 平成19年11月10日(土)熊本市の熊本学園大学「高橋守雄記念ホール」で「九州放送映像祭&制作者フォーラム」と同時開催された。放送関係者、学生など約70名が参加した。
 ゲストに後藤一也氏、本田裕茂氏を迎え、境 真理子氏の進行で、参加者との意見交換を行った。

『石炭奇想曲 夕張、東京、そしてベトナム』
(放送日:2007年5月31日(木)47分)
※日本民間放送連盟賞テレビ報道部門 最優秀賞受賞('07)
後藤 一也(ごとう かずや) 氏(北海道文化放送) 後藤一也氏
 炭鉱閉山から17年が経った夕張の小さな集落、南部地区。市の財政破綻によって生活を壊しかねない再建計画が発表され、住民たちは「自己責任」と責められる。
 一方、日本は過去最高の石炭消費量を記録。政府は石炭を安定確保すべくベトナムの炭鉱開発に乗り出している。石炭火力用だが、その恩恵を最も多くを受けているはずの東京の人びとは、夕張の悲しみを想像すらできない。夕張、東京、ベトナム。断絶した3つの場所。そこに生きる人々の悲しみや喜びは繋がっていた・・・。

『断罪の核心〜元裁判長が語る水俣病事件〜』
(放送日:2006年9月1日(金)55分)
※ギャラクシー賞 優秀賞受賞('06) ※FNSドキュメンタリー大賞 優秀賞受賞('06)
本田 裕茂(ほんだ ひろしげ) 氏(テレビ熊本)
 1987年に熊本地裁が下した水俣病第3次訴訟の1陣判決は、行政認定で切り捨てられた原告への賠償を命じ、チッソだけでなく国と県の責任を初めて認めた。原告の全面勝訴を言い渡した相良甲子彦裁判長は、水俣病事件や被害者達と、どう向き合っていたのか。公式確認から50年。元裁判長が初めてカメラの前で、その時の胸中を語った。

 上記2本の作品を視聴後、それぞれの制作者が自らの作品を語り、会場参加者と意見交換を行なった。

 後藤氏は、「東京勤務となり、北海道をしばらく離れて感じた大都会と地方の温度差を、夕張市破綻問題を切り口に、石炭を通して描くことにした。廃坑により石炭景気が過去となり、市が財政破綻に至った夕張、日本人炭鉱マンの指導により、炭鉱開発の最前線となっているベトナム。日本は過去最高の石炭消費量を記録しているのに、その恩恵を最も多く受けている東京の人々はこの事実を知らない。一見関係が無いように見えるこのこの3地点を線で結ぶように編集した。活字の行間を読むがごとく表現し、視聴者に想像の余地を残し、自分が取材で感じたことを伝えたかった」と語った。
       
 本田氏は、「最初は水俣病の検証番組の制作と考えていたが、資料を調べているうちに、水俣病第3次訴訟で、初めて行政の責任を認めた熊本地裁の当時の裁判長、相良甲子彦氏を知り、この人を中心にした番組にし、当時の関係者に焦点をあて、今までとは違う角度からの水俣病を描いてみることにした。原告・弁護団から今も敬意をもって『相良判決』と呼ばれている相良氏と彼を精神的に支え続けた山口主任書記官らのインタビューを主に構成した。病に苦しむ患者の映像などは多用せず、視聴者に判断をゆだねたかった。相良氏との信頼関係を築くため、連絡は書簡のみ。それも何度も読み直してから投函した」と語った。
      
 会場との意見交換では、「石炭が、現在大量に消費されている事実には驚きと衝撃を受けた。石炭は過去のエネルギーと思っていた」「これまでに見てきた水俣病の報道とは違う角度からの水俣病が見えた。裁判で、人が人を裁く事の難しさが映像を通してよく伝わった」などの感想が出た。
 また「番組の終わり方に対する考えは?」の質問に対して、後藤氏は「ナレーションは一見静かに終わらせているようだが、最後の数秒は映像にこだわった。一瞬の映像の中に過激なメッセージを含み、映像を重ねることで自分の主張にした」と語った。本田氏は「インタビューで得た事実関係をナレーションにして、視聴者に“投げ出し”、考えてもらえるよう“あずけて”終えた」と語った。



◆◇◆「話題の放送番組を見る会・語る会」に参加して◆◇◆
テレビ熊本 報道制作部ディレクター 本田裕茂
 このところ自分で制作した番組を、時間をおいて見ることはほとんどありませんでした。というより、ある時期から極度に嫌いになりました。常に未熟さを思い知らされるからです。構成もそうですが、ナレーションやインタビュー、字幕の場所や時間、映像配置など全てにおいて「こうしておけば良かった」という思いばかりが膨らみます。ですから今回の会場上映は大変気が重く、予想通り粗ばかりが気になりました。その時点では確かに全力を投入し作ったつもりですが、本当に難しいものです。『制作者フォーラム』というイベントには、今回初めて参加させていただきましたが、会場のあの空気も初めて経験するものでした。これまで、制作した番組に関しては局内で完結してしまうことが多く、系列を超えた形で同業の制作者の方などと一緒に見ることはほとんどありません。壇上での説明が言葉足らずで不十分だったと思い返していますが、いずれにしても番組上映から質疑応答まで、独特で初めての緊張感でした。終了後何人かの方と話が出来ましたが、番組制作に常にともなう迷いや悩みなどを共有する制作者との交流の場の意義を、深く感じたイベントでした。