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話題の放送番組を見る会・語る会(第5回)開催報告
 平成18年10月29日(日)、盛岡市の「エスポワールいわて」で「2006北日本制作者フォーラムinもりおか」と同時開催された。ゲストに2006北日本制作者フォーラム「番組部門」大賞を受賞した向田陽一氏(北海道文化放送)と、長嶋甲兵氏(テレコムスタッフ プロデューサー・演出家)を迎え、丹羽美之氏(法政大学助教授)の進行で行なわれた。会場には放送関係者約60名が集まった。

『漂流する棘〜アスベストにさらされた夫婦たち〜』(北海道文化放送)
※2006北日本制作者フォーラム「番組部門」大賞受賞作品
向田 陽一 氏(北海道文化放送)
<ストーリー>
 2005年6月、兵庫県尼崎市で起きたアスベストによる健康被害を発端に、全国にアスベストパニックが広がった。寒冷地の北海道では断熱材などとしてさまざまなものに使われ、身近な場所に潜んでいた。アスベストの繊維の直径は髪の毛の5千分の1ほど。「漂流する見えない棘」が自覚症状のないまま幸せに暮らしていた夫婦の人生を大きく狂わせはじめていた。 

『シリーズ日本国憲法 国民的 憲法合宿 第96条 憲法改正の手続き』(フジテレビ)
※第22回ATP賞ドキュメンタリー部門優秀賞受賞作品(05年)
長嶋 甲兵 氏(テレコムスタッフ)
<ストーリー>
 憲法改正の手続きについて国民の意見を形成する試みとして、一般から選んだ男女6人の1泊2日の「国民的憲法合宿」を開催。合宿に参加したメンバーはゲスト講師の改憲派・小林節慶応大学教授と護憲派・水島朝穂早稲田大学教授から、それぞれの意見を勉強。その後の討論では二派に分れ、意見を戦わせる。彼らの「憲法合宿」を通して、「日本国憲法」のあり方と「改正」の行方を見つめ直す・・・・。

 上記2本の作品を視聴後、それぞれの制作者が自らの作品を語り、会場参加者と意見交換を行った。
 向田氏はこの番組を制作するにあたり、アスベスト被害は、身近なところにあり、誰でも被害を受けるものだということを伝えたかったと語った。会場からは、静かに丁寧に描かれている。もう少し政治的な部分を取材して欲しかったなどの意見があった。また、カメラマンの小出氏は、当初顔を出さずにモザイクにして欲しいという被害者に対し、顔を出させて欲しいと取材中もお願いをしていた。ドキュメンタリーを制作するうえで、顔を隠すことは絶対にしたくなかったと語った。
  長嶋氏は、この番組は憲法9条が賛成か反対かということを言いたいわけではない。憲法というのは、国の骨格をつくるものなので、そう簡単に変えられるものではなく、変えてはいけないものである。それを守るべきは、主権者である国民で、メディアは代弁者であるべきである。今の日本の社会の中で、このことが忘れられているのではないかという思いがあり、制作者、ジャーナリストたちに対する問題提起として制作したと語った。
 また、番組の持つ内容的危機感と演出の軽やかさの比重についての質問が丹羽氏からあり、テーマが重いものほどポップにつくりたい。テレビというのは、どうしても深いところまでは表現しにくいので、若い人を引き付けるような、きっかけになればいいと思っていて、あえて少しコミカルにしたと語った。



◆◇◆エリアや系列を超えて議論する楽しみ◆◇◆
法政大学助教授 丹羽 美之
 放送文化基金の名物企画「話題の放送番組を見る会・語る会」が、今回は東京を離れ、盛岡で開催された。地方開催は、昨年の沖縄に続き、2度目となる。
 最初に取り上げたのは、北海道文化放送の向田陽一さんが制作した『漂流する棘〜アスベストにさらされた夫婦たち〜』。いまだ全貌の見えないアスベスト被害の実態を、地元北海道を丹念に取材しながら掘り起こしていった力作である。もう1本は、テレコムスタッフの長嶋甲兵さんが制作した『シリーズ日本国憲法 国民的憲法合宿 第96条 憲法改正の手続き』。何となく気分だけで進んでいく憲法改正論議に、斬新な手法で待ったをかける実に印象深い作品だ。両番組とも参加者から質問が相次ぎ、予定時間を大幅に超えて刺激的な議論が交わされた。
 私はこの「語る会」が大好きだ。テレビという巨大なシステムの中で普段は別々に働いている人々が、短時間ではあるがひとつの場所に集まり、1本の番組をめぐって徹底的に語り合う。語っている間に、熱がこもり、参加者それぞれの制作者魂にひとつまたひとつと明かりが灯り始める。会が終わる頃には、エリアや系列、民放やNHK、テレビ局や制作プロダクションといった組織の枠を超えて、もはや「テレビを愛する人々」としか形容しようのない連帯感がそこには生まれる。いまテレビに関わる人々に求められているのは、組織の枠を超えてその使命感や孤独感を共有できる、こうした横断的なつながりなのだとつくづく思う。

◆◇◆「地方局」…ではなく「わたし」にとって大切なこと◆◇◆
テレコムスタッフ 演出家 長嶋 甲兵
 北日本制作者フォーラムは東京の制作会社で働く私には衝撃的体験。これだけ多くの地方局員と名刺を交換、番組を集中して観たことはない。自作の上映会でも衝撃を味わう。上映したのは「憲法」をテーマにした番組。サラリーマンや主婦、オタク…いわゆる「フツーの日本人」が合宿で憲法改正の是非を討論する。決して「お固いもの」でなく、ジャーナリストの会や学生の集まりでは概ね好評。笑いや拍手が起こる。しかしこの日は…受けない…。焦った。上映後のパネルトークも「憲法とは?」的な思いつめた話になり、どツボにはまった。(と思った。)ところが後で参加者に聞くと「面白かった!感動した!」と言う。あながち「社交辞令」でもなさそうで、細かいメモを取っている熱心な人もいた。主催の岩手放送スタッフは「地域性。まじめに観てるのです。」ナルホド。しかし自作の出来を差し置いて言えば「制作者の集まり」である。もう少し「サービス精神」があっていい。上映後拍手くらい出てもいいはずだ。乗せられれば、もっといい話ができたかもしれない。そこに地方局の課題も見えたような気がした。午後は「北海道のヒットメーカー」藤村氏の講演。ツボを心得ていて「受ける」。しかし司会のアナウンサーからは「ヒットの秘訣は?」「地方局どうすべき?」…紋切り型の質問が多く、私は不満だ。昼食時の彼の話が胸を打ったからだ。私は「DVDが(売り上げ)50億もヒットしたなら、辞めて東京で会社でも起こせば?」と意地悪な質問をした。彼は「稼ぐのは家族のため。(家族を北海道に残し)東京で頑張っても、結果家族がバラバラになれば、何のため稼いでいるかわからない。」と生真面目に答えた。彼にとって大切なのは「稼ぐ」ことより「北海道」と、そこに暮らす「家族」なのだ。失礼だが一見「ヤマ師」的風体の彼からそれを聞くと妙に安心する。つまり地方局制作者の問題は「地方局」や「地域密着」などという実体のないイメージを「生真面目に」考え過ぎることだ。いろんな局で仕事をする「私」は「〜局にとって」などと考え番組を作った事はない。大切なのは制作者個々が「わたし」自身にとって大切なこととは何か?何を伝えたいのか?を改めて問い直す事だ。どうやらそれは、「生真面目に」考えたほうがいい。