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話題の放送番組を見る会・語る会(第1回)

◆◇◆話題の放送番組を見る会・語る会に参加して◆◇◆
境 真理子(日本科学未来館シニア・リサーチャー)

 普段は日常に溶け込んでいるテレビが不意に私に問いかけてくることがある。「ごきげんいかが?テディベア」と「炭坑美人〜闇を灯す女たち〜」どちらの番組にも視る者に向けられた静かな問いかけがあり、誰かと感動を共有し話をしてみたくなる。ドラマとドキュメンタリー、ジャンルは異なるが問いかける力は同質である。臓器提供と女性の炭坑労働という重いテーマを取り上げながら、視る者に自問自答させ、さらに誰かと話し合いたくなる、良い番組はそのような力を秘め、私たちの日常に降りて事象の深さを見せてくれる。
  11月29日、「話題の放送番組を見る会・語る会」の会場は、期待感という以上の何かがあった。テレビ番組とそれを視る者との間に生まれる化学反応とでも言える何か、それが生まれる空間があった。視聴者と制作者が同じ時間を共有し同じフロアで語り合う、このような会はありそうで実は非常に少ない。テレビはパーソナルなメディアとなり感想を共有する機会がほとんど無くなった。何より異なる職業や年代、性、背景を持った人々が番組を視て語るために集まること自体が希である。私は進行役を務めながら、作る人と視る人が分断されていない空間、双方の回路が通い合う貴重な場に居合わせたことに感動を覚えていた。
 臓器移植というテーマを取り上げ企画から演出、脚本まで一人でこなした毎日放送、藪内広之氏の「ごきげんいかが?テディベア」については、そのフィクションかノンフィクションかわからないドラマの枠を越えた斬新なドキュメンタリー的手法、プロの役者ではない出演者の起用やカメラワークなど、演出と制作手法に多くの質問が寄せられた。リハーサルなしで「とにかくドラマっぽくならないよう」制作したという撮影のエピソードは興味がつきない。
  RKB毎日放送の渡辺耕史氏が制作した「炭坑美人〜闇を灯す女たち〜」は、歴史というより痛みの残る記憶のドキュメンタリーとして視た。白黒のスティール写真と挿入される歌が歴史に埋もれようとしている女たちの証言を浮き彫りにする。過酷な労働を語りながらも余りに明るく美しい表情、その明るさが逆に痛みや悲しみの深さを照射する。どんなに取材を断られても粘り続けたという姿勢に取材者の志を感じた。
 また、制作者として今のテレビ状況をどう捉えるか、この質問に渡辺氏は常に問題意識を持つこと、それには制作者に企画力が必要だと答えた。藪内氏はソフトが足りないと言うが問題はソフト不足ではなく内容が単一化していることだと指摘した。
 素晴らしい絵画に出会うとその画家をあれこれ思うように、良い番組を視ると、作品と制作者についてもっと深く知りたくなる。参加者の思いに、二人の制作者は真摯に答えてくれた。フィールドは違うが共通した印象を受けた。例えば、質問に答えようと考える時の静かな間がなにかしら似ている。伝えたいメッセージを声高でも深刻でもなく、自然体でありながら緻密に語る制作姿勢に通じるような気がした。最後に互いの番組の感想を語ってもらったが、藪内氏が自分の番組は渡辺氏の番組とオーバーラップしているように思うと感想を語った。表現がドラマとドキュメンタリーのラインを軽々と越えテレビの可能性という高みで交差した時間だった。