番組制作者の声
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「地域ドラマが拓くテレビの可能性」


東山 充裕 (NHK 番組制作局 芸能番組センター(ドラマ番組)ディレクター)


 一昨年、昨年と二年続けて「福岡発地域ドラマ」というNHK福岡局の独自企画のドラマに取り組みました。一本目が「うきは −少年たちの夏−(90分:ハイビジョン)」で、二本目が「玄海 〜わたしの海へ〜(73分:ハイビジョン)」です。どちらも浮羽町と玄海町(現・宗像市)という、福岡に実際にある町を舞台にしたドラマです。
 この地域ドラマがこれまでのドラマと違っている点は、舞台となる地域の現実を元に、地域に流れる空気や、そこで暮らす人々の生き方を描くことに主眼を置いていることです。当然、主人公はその地域に根ざして生きている人になります。先にストーリーがあるのではなく、また主人公に東京の俳優をキャスティングするのでもなく、積み重ねた地域での取材を元に、地元の方々に大勢出演してもらいながら、そこでしか出来ないドラマを作るのです。
 もちろん福岡局のような地方局が独自でドラマを作るということは、予算も限られますし、東京や大阪のようにドラマに熟練したスタッフがいる訳ではないので、とても大変です。ただそれを逆に考えれば、これまでのドラマの作り方にとらわれることなく、自由な発想でドラマを作ることができるということになります。
 実は、地域だからこそ作れるドラマというのがあります。例えば方言のことを考えてみると、同じ県内でも多様な方言が存在します。そしてそれぞれの地域で、その土地の方言でなくては伝わらない微妙なニュアンスがあります。それこそ地域の個性であり豊かな文化なのですが、それは外からの客観的視点では真似はできても表現できないものなのです。
 私が福岡局へ転勤したのは2000年の夏です。それまでは東京や大阪で映画やドラマに関わる仕事をしていました。福岡に転勤した当初は地域情報番組を担当し、取材のためにいろいろな場所を訪ねて、地域に生きる多くの人たちに出会いました。これは私にとってとても貴重な体験でした。特に筑後の農家や玄界灘の漁師の方々と深く付き合うことは、これまでには考えられないことだったので、その魅力にどっぷりとはまってしまいました。
そこで出会った人たちの考え方や生き方をテーマに、地域の持つ豊かさや悩みを描くドラマを作れないだろうかと考えたのが「福岡発地域ドラマ」です。
 私はドラマの魅力は、現実を踏まえた上で未来や夢を描くことができることだと思います。その意味で、福岡の豊かな地域文化を未来につなげるために、ドキュメンタリーや情報番組ではなく、地域に生きる人々を主人公にしたドラマを作りたかったのです。
もしこのような各局独自の地域ドラマが全国各地でたくさん作られるようになれば、テレビの世界はずっと広がり、もっと面白くなると思います。
 地方にいるディレクターは、是非その恵まれた状況を最大限生かし、東京の見方や作り方だけにとらわれず、その地域に愛情と誇りを持って地域性豊かで真っ直ぐな番組を作って欲しいと思います。そしてそのような地域独自の番組を作ることが、これからの地上デジタル時代のテレビの未来を決める鍵になると、私は考えています。


<執筆者のご紹介>

東山 充裕(ひがしやま みつひろ)
NHK 番組制作局 芸能番組センター(ドラマ番組)ディレクター

 1965年、北海道生まれ。1982年、高校在学中に脚本・監督をした自主映画「the story of“CARROT FIELD”」(ぴあフィルムフェスティバル'83受賞作品)がデビュー作。1990年、NHK入局。ヴィム・ヴェンダース監督とピーター・グリーナウェイ監督のハイビジョンパートの助監督兼アシスタントプロデューサーを務める。
 主なテレビドラマの演出作品は、「ふたりっ子」「女性捜査班アイキャッチャー」「危険な協奏曲」など。
2002年から『福岡発地域ドラマ』という独自の企画で、「福岡発地域ドラマ うきは−少年たちの夏―」「福岡発地域ドラマ 玄海 〜わたしの海へ〜」(第30回放送文化基金賞番組部門テレビドラマ番組本賞受賞)を演出。
現在は、東京に勤務。