研究者の声
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テレビのデジタル化と番組の品質の悲しい関係

安間 総介(東京工科大学教授)

 BSに加えて地上波のデジタル放送が始まり、デジタル制作機器の進歩と相まって今までにない高品質なコンテンツがつくれる技術的な環境が誕生しつつあります。
 当校でもスタジオがハイビジョン化し、卒研室にも、高価な双方向コンテンツの制作機を入れました。デジタル化に伴う人材養成のためです。双方向コンテンツはアナログ時代にはなかったジャンルなので、特に力を入れています。
 卒研の実証制作でこんなことに気づきました。双方向コンテンツの制作には従来の番組制作能力に加えて、次の3つのスキルが必要です。(1)どの部分を双方にするかを決めるデータPDとしての技能、(2)リモコンボタンを押す順序と画面の静止画とドキュメントの配置、配列を決めるデザインとUSABILITYの専門能力、(3)BML言語でプログラミングできる能力。なぜなら双方化の演出はデータ放送で行い、その演出台本はコンピュータ言語で書かなくてはならないからです。しかし、現在、放送されているコンテンツの制作は3名又は4名で分担して行っているようです。これでは制作費は暴騰します。少なくとも一人で2つ以上の技能を持つ人材が必要です。
 その反面、多メディア化、多チャンネル化で制作単価は激減しつつあります。チャンネルが10倍に増えても、高価なデジタル受像機を購入したうえに、10倍の制作費を負担できる国民など世界のどこにもいないからです。せいぜい2〜3倍がいいところでしょう。ここに、デジタル化とコンテンツ制作費の悲しい構図ができあがり、それはグローバルに起きつつあります。残念ながら、機材が不可欠な映像作品の品質は制作費と比例関係にあります。
 コンテンツの品質低下は20世紀のテレビの運命を左右しかねません。この根源的なテーマを解決するためにはコンテンツの品質を落とさずに制作費の縮減をはかる研究が不可欠です。そこで当校のメディア学部では国際共同制作、コストエフェクティブな制作技法・技術の研究、一人で3つの役割ができる双方向データディレクターの養成などに力を入れています。
 デジタル時代の放送の成否は新技術に見合った人材養成にかかっていると言っても過言ではないのではないかと考えるこの頃です。


<執筆者のご紹介>
安間 総介(やすま そうすけ) 東京工科大学教授

 国際基督教大学教養学部卒。NHK入局後、初代ハイビジョン部長などを経て現職。「空白の一一〇秒」「核戦争後の地球」(番組)でイタリア賞を受賞。